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遺伝子ファッショナブル  作者: DRtanuki
第二章:白と灰の羽
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第一話:ベイビーリザード

 まばゆい光に照らされた手術台の下に、ひとりのチンピラがうめき声を上げながら身悶えしている。男は頭がトカゲそのものの顔つきで赤い髪、髪型はモヒカンである。体は普通の人間と変わりないが大柄である。左の太ももと右わき腹に銃撃を受けたらしく、血が男の来ている白いシャツと擦り切れたジーンズを赤く染めている。結構な量の出血が見られるが、傍らに立っている手術用衣を着た女医は全く焦る様子もなく淡々と準備を進めている。同じくトカゲ男の傷口を消毒している助手も、日常茶飯事といった具合で平然とした顔だ。青ざめた顔をしているのはトカゲ男の仲間のチンピラ二人のみである。彼らはしきりにトカゲ男に大丈夫かニカイドウと声をかけている。女医は横目でその様子を見つつ、派手目なシャツを着た男とサングラスをかけた男に声をかけた。

 

「これから銃弾の摘出やるから、そのリザードマン押さえといてね」


 女医の言葉を聞いた、付き添いのチンピラ二人がトカゲ男の両腕を抑え込む。よく見ればトカゲ男の口にはタオルが固く巻かれている。


「ちょっとばかり痛いけど我慢しなよ、大人なんだからさ」


 言うや否や、女医はまずわき腹の傷口に遠慮なくメスを切り込んでいく。鋭利な刃物による切開は、それほど痛みは伴わないと言われるらしい。しかしやはり痛い物は痛い。トカゲ男は新たな痛みにうめき声を上げ、タオルを強く噛みしめる。白いタオルの繊維が少しちぎれ、トカゲ男は痛みから逃れようと体をよじる。大きな体をしているトカゲ男を抑えるのは、大の大人二人がかりでも苦労するようだ。女医は男が動いてしまっても、動じる事なく対応してメスを入れ続ける。


「やっぱり局部麻酔効いてないなぁ。他のキメラ人でも麻酔の効き方が悪い奴居たし、そういう傾向あるのかしらねぇ」


 首を傾げる女医。


「なら全身麻酔でもかければいいだろう。抑え込み続けるのも楽じゃないんだぞ」


 額に汗を流しながら男の一人がぼやくが、続けざまに女医が返す。

 

「料金上がるけどそれでもいいの?あなたたちのボスからもらったお金で足りる?」

「……やはりこのままで頼む」


 うなだれる男を横目に、彼女はふんふんと鼻歌を歌いながらメスを滑らせていく。傷口を切開していくうちに、体に撃ち込まれた銃弾が姿を現した。弾は血でぬらぬらと鈍い輝きを放っている。


「ピンセットちょうだい」

「はい」


 助手からピンセットを受け取り、銃弾を取り出す。ここら辺のヤクザが争いの時によく使う拳銃に使われている弾で、もう女医には見飽きた代物だ。事もなげに彼女は弾をステンレス製のトレイに入れ、次の傷に取り掛かる。同じように、手早く弾を取り出してはトレイに入れて、縫合を行う。手術は手早くあっと言う間に終了した。

 

「終わりっ!全くヤクザ相手の手術はこれを最後にしたいもんだわ」


 手術道具を片付けながら女医がぼやく。トカゲ男は傷の痛みにしかめ面をしつつも、出血が完全に止まった事に安心し、口のタオルを外してしゃべり始めた。


「……ったく、麻酔が全く効かないとかあり得ねえ。先生、もう少し優しくできなかったのかよ?」

「あんたら相手の手術なんかこれで十分よ」

「全く、優しさの欠片もねえなぁ」


 トカゲ男がぼやきながらすっかり後ろに倒れてしまったモヒカンを撫でる。


「そういうなよ。この辺では先生ンとこのクリニックが一番腕が確かなんだぜ?」

「それに、こういう怪我を診てくれる所なんてこの辺じゃここしかないんだ。文句垂れるなよ」


 仲間の男二人がトカゲ男を慰める。女医は手術用衣を脱ぎながらため息をついていた。


「全く。うちはそもそも遺伝美容整形外科であって怪我人を見るためのクリニックじゃないんだっつの。もう二度と来ないようにね」

「まあそういわずに今後ともよろしくお願いしますよ。じゃあお代はここに置いておきますね」


 サングラスをかけた方のチンピラが、懐から封筒を取り出してテーブルに置いた。結構な厚みがある。女医が封筒を手に取ると、ずっしりとした重さを感じた。結構中身が入っている。女医は思わず顔をほころばせた。


「迷惑料も込みですのでね。次もあったらぜひとも利用させてください」


 二人の男はトカゲ男を抱えながら、病院入口を出て新宿の街へと消えていった。女医は普段の診察に着ている白衣に着替えなおし、自分の部屋である院長室に戻る。彼女の白衣にピン止めされているネームプレートには、


『遺伝美容整形外科ベイビーリザード院長:山賀椎香』


 と記載されていた。山賀は自分の部屋の重厚な作りの椅子に背を預けながら、備え付けてあるTVモニタの画面を眺める。モニタにはいつもの、昼に流れる下らないバラエティ番組が放送されていた。画面に表示された時計の時間を見るとすでに正午を過ぎている。


「あいつらの手術なんかしてるうちにもう昼じゃないか。出前とろう」


 山賀は懐から携帯電話を取り出し、なじみの定食屋に連絡を取った。


「あ、山賀ですけども。はい、いつもの定食お願いします。ええ、料金は月末にまとめて支払いますので。ええ、よろしくお願いします~」


 電話を終えて懐に携帯電話をしまうと、山賀はふうと一息ついて、目を瞑った。昼食の出前が来るまでの少しの間でも仮眠を取っておきたいのだろう。目を瞑ってすぐに寝息を立て始めた。


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第一話:ベイビーリザード END

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