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4話 集う狂人達

 依頼が終わり、俺とマリンは自分達のギルドホームに帰って来た。



「ただいま~」


「ただいま」


「あ、おかえり~」


 誰も居ないと思いながら、帰って来たので返事が返ってきたことに驚いた。更にそれがうちのギルドの中でもかなり変わってる奴だったからだ。


「え、レナムが起きてる!」


「お、マジか。じゃあ今日は槍が振ってんじゃないか?」


「も~酷いよ~」


 エメルの説教がネタ扱いなのがこのギルドの常識だ。

 こいつはレナム。レナム=ノイン。【睡狂】

 レナムはこのギルドの唯一の非戦闘員なのだが、恐ろしい能力(センス)を持っている。その名も【白昼予知(リアルシーイング)】。簡単に言うと未来予知だ。寝ている時にしか使えないが、こいつは【睡狂】と言って眠ることに狂っているから人生の大半を寝て過ごしているため、常時使っているようなものだ。逆に何時起きるか分からないため予知をしても皆に伝えられないのが欠点だ。

 ちなみに容姿は男なのだが藍色の髪が長く伸び、同じ色の瞳がタレ目をしている上に寝たきりのせいで華奢な体をしているため、どうしても女の子に見えてしまう。そして俺(17歳)より年上だったりする。

 そんな寝ることが生きることのような奴が起きていることは、六分の一のサイコロで連続12回同じ目を出すくらい珍しい。


「で、何で起きてるんだ?」


「ああ、そうそう~。さっきね、グレンが呼んでたよ~。起きてるのはたまたま。お腹空いたし~久々に何か食べようと思って」


「リーダーが呼んでたのは、俺とマリンどっちだ?」


「え~と、確かクテンだったような~」


 何も憶えてなさそうなレナムに軽く呆れながら思考する。普通ならばここで呼ばれるのは俺だろう。


「ちゃんと憶えておけよ。いや、お前には期待するほうが間違いか。とりあえず俺が言ってくるよ」


「そうそう、そのとぉ~り。んじゃ~ね~」


 そう言うとレナムはゆったりとした足取りで歩いていった。




 うちのギルドのホームはかなりでかい。自分で言うのもなんだが、このギルドは優秀だ。狂っているが―――狂っているが故に優秀なのだ。

 その報酬で貰った何処の貴族の屋敷だ、と思うくらいの屋敷を貰ったのだ。ぶっちゃけ、ここまで大きくなくてもいいんじゃないかと思うが口には出さない。

 その無駄に長い廊下を歩いていると見ているだけでむさ苦しい筋肉の塊を見つける。


「おお、クテンにマリン!帰ってきたのか!」


「ああ、ゲンも帰ってきたのか」


「ただいま~」


「おう!俺もちょうどさっき帰って来たんだ!」


 ムキムキのマッチョ姿がこれでもかと強調されてるピチピチの服を着たある意味変体的な男。

 名前はゲン=ルクシル。【露出狂】。

 自分の筋肉をこれでもかと自慢する奴だ。

 何故そんなやつが服を着ているかと言うと、前はブーメラン型の水泳パンツを穿いていたが色々と苦情がうちのギルドに来て、団長命令で服を着ないといけなくなったゲンは、ピチピチの服を泣く泣く着ることを義務付けられたからだ。それでも今は気に入って、服の上から筋肉を見せびらかそうとしている。


「で、どうだった!良い筋肉の奴は居たか!」


「全然、全く消化不良だよ。ねえ、ちょっと付き合ってよ」


「おう、良いね!この筋肉の凄さを分からせてやるぜ!」


 この意味不明な会話がこいつらの何時もの日常だ。おそらくこいつらは筋肉、戦うという単語だけで会話できるはずだ。

 マリンとゲンはよく裏の訓練場で模擬戦をする。マリンは戦うという欲求を、ゲンは戦いで自分を見せるために。よく俺も影響されて巻き込まれたものだ。


「クテンも行くか!」


「誰が行くか。それに団長に顔出してくる」


「お、そうなのか。じゃあマリンと1対1か。久々に筋肉が鳴るぜ!」


「それを言うなら腕だ。腕。筋肉が鳴るわけないだろ」


「じゃあ、行こう!」


「おう!」


「あんまり派手にやるなよー」


 ゲンは腕まくりというか服が破れそうになりながら、マリンは指をパキパキ鳴らしながら歩いていった。

 あれは話を聞いて無いなと半分諦めながら歩き進めようと思うが、新しい声が掛かる。


「全く、品が無いんだから。あの2人は」


「そんなこと言わないの、ちゃんと愛してあげなきゃ」


「あ、エリザとミカ。何してんだ?」


 目の前に居るのはギルド内の自称三大美女と言っているエリザとミカだ。後1人は此処には居ないため省略する。マリンとエメルが入ってないのは、美女と言うには幼いからだそうだ。

 エリザは【清狂】でミカは【狂愛】だ。

 まず、エリザから紹介しよう。

 エリザ=キレメンス。【清狂】

 こいつは徹底的な綺麗好き。埃の塵すらも許さない、清潔なことに狂ってる奴だ。一々そんなことを考えていたら、常人ならば廃人になるのだがエリザには生まれながら能力(センス)があった。

 【浄化結界(デュティピュリティ)】。この能力は特殊な結界を作り出す。結界の効果は浄化と癒し。エリザは常に半径3メートルの結界を張っている。確か全力で半径15メートルだったはずだ。

 容姿は白髪のユルフワウェーブで蒼眼。

 ミカ=シャーロル。【狂愛】

 こいつは博愛主義者だ。人でなかろうと何でも愛す、愛に狂った奴だ。

 恋した数は星の数並みで、全てを振られてる。振られた理由は全て愛が重すぎるだそうだ。ちなみに恋するのは女でも可らしい。

 会話には必ず愛してると言う。もう何しても愛してると言われるため俺達ははいはいで済ませられるが、初めて会った人は軽く引く。

 容姿は赤髪のおかっぱで同じ色の瞳をしている。


「何をしているかって?それはね、さっきエリザちゃんが『あら、お茶が切れたみたいね。買ってこなくちゃ』って言ってたから一緒に行こうってね。全く几帳面なエリザちゃんも愛してる!」


「全く似てないわね。ま、そういうことだから少し外に出るわ」


「ふ~ん、いってらしゃい。あ、買い物行くんだったら俺の茶菓子も頼むわ。経費で」


 この間マリンに食われたばかりだからな、もっとうまく隠さなくては。


「分かったよ。愛しのクテンちゃんのためにね」


「ちゃん付けすな」


「いってきま~す」


「いってくるわ」


「いってら~」


 そう言ってエリザは華やかに、ミカはスキップをしながら歩いていった。

 その後誰とも会うことなく一室の部屋の前に着いた。


「団長、ただいま帰った」


「入ってもいいぞ」


 言われたとおり中に入ると中で座っていたのは、何処にでも居る普通(・・)の男。

 グレン=カノース。ギルド[三日月のウサギ]のリーダーである。

 いかにも普通に見えるこの男こそが、俺達の中で一番狂っていることをこの狂った奴らが知っている。

 俺の【影狂】は人が誰でもある影響力が人よりかなり高いだけであって、他の人間に影響力が無いわけではない。しかもそれがこんな狂人ばかりの中にいれば、少しはおかしくなったりする。朱に交われば赤くなる、というように少しは影響を受けなくてはおかしいのだ。

 この男は普通すぎる。言うならば【平常狂】なのだ。普通すぎて狂ってる。それが俺達のリーダー、グレンなのだ。

 容姿は黒と白の斑模様の髪に白に近い銀の瞳といった色彩的にありえない容姿も普通に見えてしまう。


「よう、帰ったか。どうだった?」


「ああ、いつも通り終わったよ」


「はっはっは。そうか、そうか。つーかエメルはどうした?」


「いつものだよ。いつもの」


 この‘いつもの‘とは説教のことである。心も折り、骨まで折るのがエメルだ


「あ~アレか。全く飽きないね~あいつも。そういえば何かエメルからクテンとマリンの始末書の催促が来てるぞ。何かあったのか?」


「あ~、はいはい。まあ、色々あったんだ。そ、そういえばシステルとメルナが見当たんないんだけど」


「ああ、あいつらなら今依頼が終わったって連絡が来たぞ。もうそろそろ帰ってくるだろうし、エメルが帰ってきたら久々に会議でもしようかと思ってる。レナムに頑張って起きてるように言っといてくれ」


「そんなの意味無いって知ってんだろ」


 狂人達にやめろと言っても聞くはずが無いのだ。その程度で止まるならそもそも狂ってない。


「そこはお前が能力で何とかしてくれ」


「いや、無理言うなよ」


「まあ、何とかしてくれ」


「何とかしてくれって」


「......ま、そろそろか」


「何がだ?」


「ん?あー、ほら満月」


 何処か怪しかったが顔には出さずにまだ明るいながらうっすらと見える月を見上げる。


「ああ、そうだな」


 一体何がそろそろなのか、知ったことではないが面倒なことには違いない。

 だが、そんな事は狂人には関係ない話だ。

感想、批評待ってます。

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