2話 狂人追加、『説狂』
「なあ、マリン」
「何、クテン君。戦う?戦う?」
「そうじゃなくて、なんでこうなったんだ?マリン」
「えーと、別に面倒だったからじゃないよ。本当だよ」
「...お前。バカだr、いやバカだったな。だからこうなったんだな。うん」
「ちーがーう!バカじゃない!」
「だったら、何でこんな事になってるんだよ」
そう呆れる俺の周りには、無数の村人、否、無数の屍が倒れていた。
◇■◇■◇
話は数時間前に遡る。
クテンとマリンは先日聞いた、最初の被害者である夫婦の家に来ていた。
その夫婦の家は至って普通。それこそ呪いわれてるだとか、魔獣と呼ばれる凶暴な知性の無い生き物が住み着いているといったことはなく、何処にでもある平凡な家。それに荒らされた形跡も無い。
何故、この家の夫婦が攫われたのかクテンは分からずにいた。マリンに至ってはそんなことを考えてなどいない。
「ねえ、クテン君」
「なんだ?何か分かったのか?」
「うん。きっとこの家の人は・・・・」
「人は?」
「家出したんだよ!」
自信満々に宣言し、ドヤァとでも言いたそうな顔をするマリンにあからさまなため息を吐きながら頭を抱える。まず家具や生活用品は残っているのに何故家出という結論に至るのか、バカにしか分からない何かがあるのだろうか。あとそのドヤ顔が腹立つからやめろ。
「どう考えたらそうなるんだ。まず、家出ならこの家の家具や、小物、服、食料が少しでも無くなってる筈だろ。どう見ても変ってないだろ?」
「確かに、まだ住んでるみたいだね」
まだ住んでるみたい?確かに埃も無いし定期的に掃除されているのが分かる。食材も新鮮だ。
俺は頭脳派じゃないんだが。こういう時はマリンじゃなくて、エメルが居れば。
「呼びましたか?」
「いや、呼んで...うお!」
「人の顔を見て何ですか?そこに直りなさい」
「あ、エメルだ!何しに来たの?」
「貴方もです。マリン。クテンの横に座りなさい」
「ええー!」
「+30分」
「分かった、分かったから~。説教はやめて~」
エメル=コルティア。『説狂』。読みから分かるように説教することに狂っているおかしな奴だが、うちでは数少ない常識を持っている奴だ。ちなみにマリンと違い、見た目は幼い。もしそのことでからかったりすると一日の全てを説教に費やすほどキレる。
彼女は、間違っていたら説教、正しくても説教。どんなことでも説教をする奴で、賭けの罰ゲームで説教が入ると皆必死になるくらいのレベルだ。
そんな彼女は実質的にギルドの副リーダーの役割を果たしている。そんな彼女が此処に何をしに来たのだろうか。
「なあ、なんでエメルが此処に来たんだ?」
「それはですね、団長がクテンとマリンだけでは心配だから一緒に行ってくれとの事なので、現在依頼を受けてない私が此処に来たのですが、何ですかこの低落は。だいたいですね...」
10分経過
「...だから貴方はいつも...」
さらに30分経過
「...そういう態度が...」
「だいたいお前はいつもそういうことだから...」
「う、うぅ...」
さらにさらに1時間経過
「...であるからして、こうなるのです。分かりましたか?」
「...分かったか?」
「...分かりました。」
計1時間40分か。いつもと比べてまだ短い方だな。俺も影響されて一緒に説教をしてたから大丈夫だったがマリンが...
「・・・・」
真っ白く燃え尽きてる。何処からかチーンなんて音が聞こえてきそうで怖い。それでも一晩寝ればすぐに忘れてるだろうがな。ちなみにエメルはまだ物足りなさそうにしている。あれでまだ足りんのかお前は。
「少し話が逸れてしまいましたね。それで何処まで進展したのですか、クテン」
「全然分からん。正直俺はこういうのが苦手なんだが。このバカはこんな感じだし。何の頼りにもならん」
「ああーっ!今クテン君私のことバカって言った!バカって言うほうがバカなんだよ!バーカ、バーカ!」
「・・・ほらな」
「そうですね。とりあえず30分後で追加ですね」
「ええぇーーっ!」
呆れるようなため息を吐いたエメルがチャームポイントだと言うメガネの位置を指で調節する。
「本当に分からないのですか、クテン」
「ああ、俺には分かりません。教えてくださいエメルさん」
とりあえず、棒読みで返す。
「やはり帰ったら学習のやり直しです。こんな簡単なことも分からないとは」
「エメルは分かってんだろ。だったらそれでいいじゃないか、早く終わらせようぜ」
「マリンは少しは分かっているようですが?」
「え?わ、私が?」
エメルの言葉が俺には分からなかった。マリンには少しだけど分かってる?
「このバカが?」
「ええ、マリンがです。まあ、無意識みたいですが」
「......もう少し考える」
「まあ、あなたがそういうのなら待ちましょう」
―――村長の言葉、態度、村人の証言、最初の被害者である夫婦の家の不可思議な真新しさ、マリンのまるで住んでるみたいという言葉。
何処に不自然な所がある、何処に気付ける所が―――
「あ、分かった」
「分かりましたか?なら、今日は宿に戻りましょう。もう月が見えてますから、ね」
話が進まない(笑)