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5ショートストーリーズ

5ショートストーリーズ1 その1【まさかの輪廻転生】

掲載日:2014/11/14

5つのショートショート、その1です。輪廻転生というものが存在するならば…無機質に転生するのはイヤだなぁ…

 はじめに光があった。彼はそこに自分がいる事に、やっと気がつ

いた。

『…あれ? …どうなってんだ…?』

 暫くの間、眩しい光の中で、彼はここが何処であるのかを、ぼん

やりとした頭で思い返していた。


 辺りは物音ひとつせず、静まり返っている。

 眩しい光がやがてオレンジ色の淡い光に代わり、彼の視界を徐々

にではあったが広げていった。

 そこは一坪も無いような狭い小部屋だった。壁は薄汚れた若草色

で、所々色が抜け落ちている。


『…いったいなぜ俺は…ここに…いるんだ…?』

 あ! 海で泳いでいて、そうか、溺れかけたんだっけ? という

事を、彼はふと思い出した。

『…そうか、あいつらが俺を助けてくれたんだな…』

 逆巻く波に巻かれ、自分が回転してゆく様が脳裏に浮かんだ。波

間に浮かんでいた友人達が、心配そうな顔をして辺りを探し回って

いるのも、まざまざと思い返す事が出来た。

『…あの後、俺は海から助け出されて…そうだ、今居るのはきっと

海岸にあった海の家…さもなきゃ病院だ…』


 彼はもう少し状況がよく分るように、辺りを確認しようと眼を凝

らした。病院にしてはやけに薄汚ない。だが、消毒剤のオキシドー

ルの匂いが、微かにではあったが感じられる気がした。ということ

は…

 暫く考えた後でそうか、ここはまだ海の家に違いない、と彼は確

信した。というのも、さっきからずっと彼を照らしていた淡いオレ

ンジ色の光が、裸電球のそれだ、という事に気づいたからだった。

『今時、裸電球のある所なんて、安っぽい海の家に違いない。それ

にこうまで狭い部屋なんていうのも、きっと着替え用に仕切ってあ

る小部屋のひとつなんだろう。そこで仰向けに寝かされているんだ。

まあ、俺達は金がないから、海の家すらも利用しようとは思いもし

なかったけれど。まあ、緊急事態だからしょうがないんだろう

な…』


 状況判断が出来た彼は一安心した。が、すぐに次なる疑惑が頭を

もたげてきた。

『あいつら、この俺を置いて何処に行ったんだろう? まだ泳いで

いるのだろうか? それとも…何か食いに行ってるのだろうか…?』

 彼は自分の腹が全然減ってない事から、連中はまだ泳いでいるん

だろう、と見当を付けた。溺れそうになる前、つまり海に入る前に

みんなで玉蜀黍を食べた。故に、海に来てからまだそんなに時間は

経っていないという事になる、彼はそう考えた。

『しかし…あいつらも一人くらい、俺の枕元に居てくれてもいいの

にな…』


 彼が気づいてからどれ位の時間が過ぎたのだろう。随分と過ぎた

様でもあるし、ほんの少し、という気もする。

『ああ、今は一体何時頃なんだろう?それが分かりゃ、大体の事は見

当がつくんだがな…』


『きっと俺は海で溺れる、という失態をしでかしたので、頭が少し

変になっているんだ。だから時間の感覚も少しおかしいし、そう言

えばさっきから視界に入る物も同じ物ばかりだ。考えてみればこれ

も変な話だ…』

 そう思いついた彼は、ぼんやりとしたオレンジ色の裸電球と、そ

れが照らし出す薄汚れた若草色の壁、それと木目が老婆の顔を彷彿

とさせる古びた天井、以外の物を見ようと努力した。が、いくら試

みてもそれ以外の物は、彼の視界には入ってこない。


『あれ? いくら俺がいつもより変だとはいっても、これは尋常じ

ゃないぞ!』

 彼は必死になって体を起こそうとした。が、やはり体はまるで床

に据え付けられたみたいにピクリともしない。それどころか自分自

身の体の一部、いつもなら良く動く、少し曲がり気味の彼の指先だ

とか、サクランボの軸で輪を結べる器用な長目の舌先だとかも、ま

るで動かない。

『一体どうなってるんだ? 体が全く動かないし、目に見えるもの

はさっきから同じものばかりだ。もしかしてここがこうも静かなの

も俺の耳が聞こえないだけなのかもしれない…』


 彼は声の限りに叫ぼうとした。が、声も出ない事に気づかされた

だけだった。


 それからどれ位の時間が過ぎた事だろう? もう彼には時間の感

覚、というものが意味を持たなくなってきた頃、周りの空気が一変

したと彼は感じた!

 と、バタン! とドアが開く気配と共に、一人の少年が彼の視界

に入った。少年は彼を上から覗き込むとズボンの前ボタンを開け、

彼に向かって放尿を始めた。

『お、おい! これは一体どうなってるんだ ?おーい!!』

 彼は悲鳴を上げていたが、誰に聞こえるすべもなかった。


 少年は放尿を終えるとほっとした顔になり、次に何かを引っ張っ

た様だった。と、ガボガボガボッという、波が逆巻く様な音が彼に

も聞こえた様な気がした。それは溺れる間際に聞いた、彼の最後の

記憶にあるソレと同じ音だった。


                   *


「ねえ、あんた、ちゃんとトイレでしてきたの?」

 少年の母親らしい中年女性が少年に向かってこう訊ねた。

「うん、ちゃんとトイレでしてきたよ。でもさ、ここのトイレ何だ

か変な感じなんだ。こう、誰かにじっと見られてるような気がする

んだ…」

「何言ってるんだいこの子は! そりゃ、お化け番組の観すぎだ

よ!」

 少年の母親は少年の頭を軽く小突くと豪快に笑った。でも、心の

片隅ではこの前パーマ屋さんで読んだ女性週刊誌の心霊特集を思い

出していた。

~幽霊は存在するし、人間は死んでも次には何かに生まれ変わる。

有名なお笑いタレントさんはなんでも河童の生まれ変わりらしい~

 そんな馬鹿な事ある訳ないさ。ありゃ、売れる為には何でも書く

というあの週刊誌のガセネタさ…

 が、少年の母親は自分もほんの少し尿意を覚えたけれど、自分は

家まで我慢する事に決めた。それから持ってきたスイカの形のビー

チボールの空気を抜きながら、少年に言った。

「帰りの電車が混むからもう帰る支度をしな。今から出れば十分に

間に合うからね!」

「母ちゃん、何に間に合うのさ?」

 少年が訊ねた。母親は少し困惑しながらも全く違った返答をした。

「土用波が出てきたからね。お前だって溺れたくはないだろう?」

  毎年ここではこの時期になると溺れる者が必ず出るんだ。確か

去年も…

「母ちゃん、母ちゃんってば! 帰りにアイス買ってくれる?」

「ああ、じゃあ、行こうか?」

 親子連れは砂浜を後にした。海はうねりが次第に強くなってゆくよ

うであった。



 



こんなの絶対イヤです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当にまさかでしたね(笑) 面白かったです!情景が浮かびました!
2014/11/15 01:02 退会済み
管理
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