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少女と狼。  作者: ザトミ
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begining

********



ドイツ、バイエルン州。

そこは、美しい山並みと深い森に包まれて、数多くの伝説が残っている地。


バンベルクの旧市街の一角の宿屋に若い二人組が滞在していた。


年は10代後半ぐらいの男女。


ここの宿屋に来たには理由があった。





ある日のことである。

夜が更けた頃に宿屋の大家の家に例の二人組の男女が何処からかやってきた。



真夜中だというのに若い二人の男女が泊まりに来るのは変な話だと大家は思った。

そんな二人のうち、男はよく見ると儚げ表情をしているが、美青年と言ってもいいだろう。

女は男に担がれて、眠っているため顔はよく見えない。

二人共、長旅で疲れ切っている様子だ。


大家は二人で夜逃げでもして来たのかと思った。


だけど、正確には違う。


強いていうなら、あるモノ達から逃げて来たのだった。


よく見れば、青年の上着の袖口とか、所々に少し返り血が付いているのが見える。


大家はそれに気付き、

人殺しか…?いやいや、あり得ない。万が一、この男が人殺しをしたとしても、こんなにも落ち着いた様子でいられるのはおかしい。でも、泊めてやらないとこいつ等このままだと野たれ死んじまうかもしれねぇかもな。



「大変だったな。おいらのとこに泊めてやるよ。代は安くしとくからさァ。」

一瞬、青年は大家が言った言葉を信じられないでいた。が、

「ありがとうごさいます。ここ数日僕達は眠っていません。どうかこの子、ユリカをちゃんとしたベッドでゆっくり寝かしてやりたかったのです。本当にありがとう。」

青年は泊めて貰えることを認めてくれたおかげか、もとより引き攣っていた顔も解れ、少し赤みを取り戻したように見えた。


そんな青年を見て、大家は、こんな謙虚な奴が人を殺すわけねぇ。こいつ等きっと親に苛められたんでねぇか。可哀相に。少しの間でも二人に元気を取り戻せるようにと思い、大家は普段は使わないとされる物置部屋(大家の自室)に案内した。



青年はベッドに担いでいた少女を寝かし、布団を被せた。


彼はベッドの側にある椅子に座り、少女の顔を見つめていた。


すやすや眠る美少女。

ほんのちょっと見ただけの者にも可愛がられるくらいの。

一番その子を愛していたのはその子のお婆さん。だけど、お婆さん以上に今、ユリカを愛しているのは隣にいる青年であった。

勿論、そんなこと彼女は知らない。ただの仲の良すぎる幼馴染としか思われてないのだろう、と。


ユリカのお婆さんはもうこの世には居ない。


数週間前にあるモノに噛み付かれ、頸動脈を噛み切られて無惨な状態で亡くなっていた。


亡くなったのはお婆さんだけでなく、

村に住むほとんどの人間。皆同じような状態で死体となっていた。


その死の原因は一体何なのか。


その亡骸の姿から予想される犯人は、人間でないことは確かだ。


人に噛み付いたりするのは、野良犬あるいは狼。

傷痕から言うと、人間の首を噛み切るぐらい犬歯が異常に発達しているから、犬とは到底言えまい。猟慣れしている狼だ。


そのことがニュースになったのは5日前。

報道陣が押し寄せてくる以前に二人は堪らなくなって村を出た。

村は深い山間部の中にあり、朝夕には分厚い濃霧で全く周りが見えない。車で山から降りるのに4.5時間掛かるほどの場所だから、人間の足では丸一日以上掛かってしまう。

そんなところを当ても無く歩き回っていた二人は、眠れず、ゆっくりと身体を休めさしてあげることも出来ず。寝てしまったら、狼に食べられてしまいそうで。



「ねぇ。ユリカ。今日はゆっくり休めるからね。」


青年は優しそうな声をしていた。


「もう、ここ、バイエルンにいたら危ない。

いつ奴らが君を襲ってくるかが分からないからね。」


「君をこの苦しみから救うにはドイツを離れるしかないんだ。もうここには僕達の身を寄せる友人なんていない。(みんな殺されてしまったんだよ)」


少女は何も答えなかった。

少女は眠っている様に見えるが、実際は意識を失っていた。


青年は話を続ける。


「敵はもう僕達のすぐそばに潜んでいる。だからね…に」


トントン…。ノックする音が聞こえた。

建て付けが少し悪い戸が開く音と青年の続き言葉が同時だったので掻き消されてしまった。


それはあまりにも寝心地悪い音だったのか、ユリカは目を覚ました。




「大丈夫かい?お二人さん。」


さっきの親切な大家だ。大きな包装紙を右手に抱えていた。そこから、何とも言えない芳ばしい匂いが薫ってくる。パンだ。


それより、ユリカは大家をこの人は誰なんだろうという目で見ていた。

そんなユリカに目があった大家は、


「ここの大家だよ。ユリカちゃん。

えっと、名前聞きそびれちまったよ。今更だが教えてくれ。」

「エドワルドです。」

ほうか。覚えたぞ。


それより… んだ、君たち今までろくに飯食ってなかっただろ。

と、二人分には十分すぎるくらいの量のパンをテーブルに置いて行った。


大家は部屋を出る前、宿屋を出る時はおいらに言ってくれ。隣の部屋にいるから。



「美味しいかい?ユリカ。」


「ちょっと堅いけど、美味しいから良い。」


ユリカは急いでいる訳ではないのだけど、まるで自分のパンが無くならように食べていた。


エドワルドはそんな彼女を見て、


「ははっ。よっぽど美味しんだね、良かったよ。今晩ここに泊まって正解だった。」


とクスクス笑った。


「ねぇ、エド。」


「何?ユリカ。」


「ドイツを出るって話だけど私は賛成よ。」


エドは驚いた。

ユリカが寝ている時に話したことなのに。いつの間に起きたんだろう。


「あのさ、ユリカ。僕達は身寄りが無いけど、君のお父さんの友達が日本に住んでいるんだ。だから…。「日本に行くのね…!私、楽しみよ! 確かキョウト(京都)にはジンジャ(神社)が沢山あって…。」


元気になったみたいで良かった。

数日前までは話も出来なかったのに。


本当にここに来て良かったと思うエドであった。




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