第二十話 闘い
「それにしても、本当に久しぶりだね。せっかくだから、思い出話でもしながら、少し遊ぼうよ。昔ここでよくやったでしょ? 木の棒を使ってチャンバラごっことか。ただし、今回のは命をかけた遊びだけど」
そう言うと、悠は後ろに隠しておいた刀を翔へと放り投げた。投げられた刀は翔の目の前の地面へと突き刺さった。
「さ、手にとりなよ。しっかり動かないと、話もできない身体になっちゃうよ」
そう言うと、悠は鉄鋼から腰を上げ翔のほうへと持っていたもう一つの刀を振りかざしながら向かっていった。翔も悠のその行動に刀を取り構える。そして、刀と刀は接触し、切り風音と共に火花が散った。しかし、それに怯む事もなく悠は次から次へと翔に向かって刀を振り続ける。そのたびに激しい音と、火花がまるで花火を乱舞するかのように踊り狂った炎のように木霊する。
「どうしたの? 受けてばっかりじゃ面白くないよ。それとも、僕の動きはその心を垣間見る能力で見切ってるから反撃する必要はないって思ってる?」
激しくぶつかり合った刀同士の衝撃で、翔は後ろへとはじき飛ばされる。
「もし、そう思ってるなら、それほど甘い考えはないよ」
そう言うと、悠はいままでにはないほどのスピードでその間合いをつめた。そして、刀を横なぎに振り払うと、翔の腹部を目掛けて斬り放った。翔はそれを紙一重で避けることに成功したものの腹部に浅い傷を作ってしまった。斬りつけられた腹部からは紅い血がにじみ出てきていた。
「どう? 今のも僕がそこを斬りに行くって読んでたんでしょ? でも、僕の行動が読めていても身体が僕のスピードについてこれないんでしょ? それが君の弱点だよ。君はその能力に頼りすぎている。心を読むことに慣れすぎて身体が言うことを聞かないんだよ」
腹部に斬撃を受けた翔は、少しよろめいたが傷口を押さえながら立ち上がる。
「そうでなくっちゃ」
そして、再び悠は翔目掛けて刀を振るう。
「僕が、ここまで強くなれたのは君のおかげだよ。ずっと考えていたんだ。どうやって君を殺してやろうかって。そして辿りついた答えがこれだった。君が僕の母さんをナイフで刺したように、僕も君を刃物で刺して殺してやろうって! でもすぐには死なせない。いたぶっていたぶって、もうこれ以上にないほどに肉体的にも精神的にも追い詰めてから殺してやろうと思うんだっ!」
再び激しい衝撃で翔は身体を飛ばされた。今度はそれを逃さぬように悠も飛ぶ。翔は地面へと仰向けに倒れる。その上から悠は刀を翔の顔面へと突き刺す。そして刀は翔の顔スレスレを通り地面へと突き刺さった。
「どうだい? 翔。命を弄ばれる感覚は。僕がこの刀を少し横にずらすだけで君は死に至る。怖いだろ? 母さんはそんな死の恐怖を君に与えられたんだ。君にもそれ同様の、いやそれ以上の恐怖を味あわせてやるよ」
悠の眼は焦点があっていない。もはや、翔を目の前にしてただ暴れるだけの怪物に等しかった。その眼には輝きはなく、ただ復讐を考え、殺すことだけを目的としていた。そして、それが今まさに達成されようとしていることに悠は心から歓喜した。
「……死ぬことは怖くはない。俺は、あの日から死を望んで生きてきたんだから」
「やっと喋ったね。口も利けないくらい恐怖してるのかと思ったよ」
「俺は、いままで犯罪者として、この世界を闇に染めるために人を殺し、テロなどの犯罪に手を染め、世界を恐怖の渦に巻き込んできた。その中には、家族がいたものもいただろう。俺がお前にしてしまったことを俺は何度も繰り返した。その過ちと、罪は一生消えないだろう」
「よく分かってるじゃないか。そんなお前はもちろん死刑だ。僕が世界に変わって裁いてやるよ」
「……だけど、俺は死ねない」
翔は、悠を押しのけた。悠はその際にバランスを崩したがすぐに体勢を立て直した。翔も立ち上がる。
「死ねないだと? あれだけたくさんの罪を犯しておいて、たくさんの人間の命を奪っておいて自分の命がそんなに惜しいのか!!」
「……惜しいさ。人はみな違う。誰一人、変わりになるものなんていない。悠の代わりがいないように、俺にも代わりはいない。俺は、俺にしかできないことを見つけたんだ。世界でただ一人俺だけが出来ること。俺は、それを実行する。だから、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ」
その言葉に、悠の心に変化が訪れた。これから嵐がやってくる前に静けさが訪れるように、悠の心も先ほどまで静けさを保っていた。しかし、それは全ての憎しみを爆発させるための布石。
「ふ、ふざけるな……ふざけるなぁ! お前は死ぬべきだ。お前はこの世界の害虫なんだよ。誰もお前を認めてやしない。お前は、今も昔も、ずっと孤独なんだ。生まれた瞬間から、死ぬべきだったんだぁ!」
悠は、刀を振りかざし、翔に切りかかる。乱れうち、その怒りをその憎しみを全てその刀に込めて。そして、悠は渾身の力を込めて刀を振る。金属音が鳴り響くと共に、その刀は折れた。悠が斬りつけたのは翔ではなく、鉄鋼だったのだ。悠の力と鉄鋼の強度により刀が折れたのだ。
「こっちだ」
翔は、悠の背後にいた。悠の乱れた心が、翔の動きを捉え切れなかったのだ。
「もうやめよう。悠、こんなことをしてもなにも解決しない。俺もお前も誰も救われない」
「……解決しない? なんでお前にそんなことが分かるんだ?」
悠は翔のほうを向かずに、背中越しに話をする。
「僕の心はお前の死なくして救われない。……殺してやる。殺してやる。ぶち殺してやるっ!」
悠は懐に手を忍ばせると、隠していた拳銃を手にとり、自分の身体を死角として翔目掛けてその引き金を引いた。翔は、悠の身体が死角となり、拳銃の存在に気がつくのが遅れてしまった。
孤児院では葵が翔の帰りを待ち、椅子に座ってテレビもなにもつけずにいた。すると、玄関のほうから物音と同時に葵を呼ぶ声が聞こえた。聞き覚えのある声に、葵は急いで玄関に向かう。
そこには息が途切れ、途切れとなっているみちこの姿があった。相当な距離を走ってきたのだろうか。なにかを話そうとしているが、息が切れうまく話せないようだ。
「みちこさん、無事だったんですか?」
「あ、葵さん。お願い。二人を止めてください。このままでは流さなくてもいい血を、失わなくてもいい命を失ってしまいます」
みちこは必死に葵に話しかける。葵もみちこの言っている言葉に理解が出来ずにいた。
「どういうことですか?」
「悠君は、昔となにも変わっていなかった。昔のままの心優しい子のままでした。一度は私をさらい翔君をおびき寄せるようにし、孤児院の子供達を心配して私を返してくれました」
この時葵は思った。翔がここで待てといったわけ。悠もここで育ったのだから分かってると言ったわけ。翔は悠がみちこを解放しこの孤児院に返すことが分かっていたのだ。二人ともここで育ったから、ここの子供達がみちこのことをどれだけ大切にしているのか分かっていたから。
二人は互いに言わなくてもそれを分かっていた。
「お願いです。葵さん。私には悠君を止めることができなかった。二人を止められるのはあなただけです。二人を止めてください」
「みちこさん。教えてください。二人が向かった場所を」
葵は、みちこからその場所を聞くと、すぐにその場所へと足を走らせた。
読んで頂きありがとうございます。なんか内容が少年誌っぽくなってしまいました。すいません。それも作品の一部として受け止めてください。残すところ後二話です。




