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第十六話 手がかり

 葵の祖父が亡くなって数ヶ月。あの日以来、ハンスに関するニュースは流れなくなった。それはつまり、ハンスはこの数ヶ月、一切犯罪を行っていないことを示す。ハンスは犯罪を犯すときの法則と言うか、決まりのようなものを持っている。


 それは、必ず、どんな状況であろうと自分の姿をその場にいる人間に晒しだす。それは、自分がやったということを誇示しているのか。それとも自分の恐怖を世間に知らしめるためなのか。とにかくハンスは必ず姿を現す。だから、ハンスが行った犯罪は必ずハンスがやったと分かるのだ。





 葵は、今日も相変わらず自宅のソファーで介護の勉強をしながら、テレビを見ている。葵はハンスと出会って以来、ニュースをよく見るようになった。いつ、どこでハンスに関するニュースが流れるか分からない。それを即座に知るために葵は出来る限りニュースを見るようにしているのだ。


 葵はあの日以来、ハンスの過去がとても気になっていた。あそこまで、心が闇に染まるほどの過去。他の人には理解できないほどの苦しみや辛さを味わってきたのだろうか。興味や好奇心ではない。ただ、純粋にハンスの過去を知りたいと思っていた。


 そんなことを考えながら勉強をしていると、ニュースに突然、緊急特番が流れた。その内容は、飛行機が落とされたというのだ。テレビでは、事故ではなく、人為的に引き起こされた事件だと言っている。そして、その犯行の手口はハンスそのもの。しかし、テレビではこうも言っている。『ハンスの姿は目撃されていません』と。


 犯行の現場では必ず姿を現してきたハンスが始めて姿を現さなかったのだ。葵はその事実に疑問を抱きながら、あることを思い出した。ハンスの過去を知るために出来ること。それに適した人物が一人いた。葵はそれを思い出しはしたが、その人物に会いに行くことに躊躇いを感じていた。だが、それでも、ハンスの過去を知るために、葵が持つ手がかりと言えば、それしかないのも事実。葵は意を決してその人物に会いにいくことを決めた。


 次の日、葵は朝から電車を乗り継ぎ、その人物がいる場所へと向かった。向かった場所は留置所。そう、かつてハンスを捕まえるために、葵を利用したあの元刑事のところである。ハンスを捕まえるために、葵の心が読めないと言うハンスの行動を即座に察知し、犯罪を犯してでもハンスを捕まえようとした執念。あの刑事ならばハンスの過去について知っていると考えたからだ。


 留置所に着いた葵は、少し緊張な面持ちのまま、受付で書類を提出し、係りの人の後について面談室へと向かった。もちろん葵があの元刑事に会うのはあの事件があった時以来である。葵の心臓はとても鼓動が激しくなり、緊張しているのが手に取るように分かる。葵は椅子に座り彼が出てくるのを待っている。


 しばらく待っていると、奥のドアが開き、あの刑事が出てきた。刑事は葵の前にあるガラス越しに用意されていた椅子に座り葵のほうを見る。二人の間にはしばしの沈黙が流れた。それは、緊張からだろうか、それとも恐怖からだろうか。そんな沈黙をやぶったのは刑事のほうだった。刑事は座ってた椅子から突然立ち上がり、頭を下げた。


「すまなかった。許してもらえるとは思っていない。ただ……ほんとうにすまなかった」


 葵は刑事のその突然の行動に驚いた。


「ずっと、君にあの時のことを謝りたかった。あの時、私はどうかしていた。ほんとうにすまない」


「……刑事さん。もういいですよ。あたしは大丈夫です。頭を上げてください」


 そう言われた後も刑事はしばらく頭を下げていたが、ほどなく時間が経つと頭を上げた。


「今日は、刑事さんに聞きたいことがあって訪ねたんです。座ってください」


 刑事は再び椅子に座ると、葵のほうを見た。


「聞きたいこと?」


「実は、ハンスのことについて」


 葵はその刑事にハンスの過去を知りたいということを伝えた。そして、それを知るためにここへ来たのだと。


「そうか。ハンスの過去を。……本来は、こんなことは言っては駄目なんだけど。あんな目に合わせてしまったお詫びとして、特別に教えるよ。ただ私もハンスの過去について詳しくは知らない。……ハンスは孤児だったんだ」


「え?」


「ハンスは幼い時に親に捨てられた。そして孤児院で拾われそこでしばらく生活をしていたんだ。その時、ある事件を犯し、姿を消した」


「ある事件?」


「詳しくは、孤児院にいって聞くといい。今もまだあるはずだから、連絡先と地図を描いてあげるよ」


 そう言うと、刑事は後ろの刑事から紙とペンを借りて、連絡先と孤児院への地図を描いた。そして、それを葵に渡した。


「ありがとうございます」


 面会の終了時間になったため、元刑事は椅子から立ち上がり、面談室から去ろうとした。


「……刑事さん。あたしは、刑事さんの仕事のことをよく知らないし、この世界の事情もよくわかっていないただの一般人だけど。ハンスも、同じ人間なんです。彼にも心がある。それを分かってあげてください」


 刑事は葵の言葉に立ち止まり、葵のほうを向いた。


「ここを出たら、もう一度、一からやり直すつもりだ。君には本当に申し訳ないことをした。これからはもっと人のことを、人の気持ちを、心をしっかり見ていくことにするよ。そうすることで今まで見えていなかったものが見えてくる気がする」


「……そうですね。今日は本当にありがとうございました」


 葵は緊張の糸が全てほどけたかのような笑顔で言った。


「こちらこそ、ありがとう」


 そういい残し、刑事は面談室から去っていった。葵も面談室からそして留置所から出て行った。その手にはハンスの過去へと繋がる確かな手がかりがしっかりと握られていた。


読んで頂き本当にありがとうございます。

最終話まで後少しです。ついに物語は翔の確信部分へと向かいます。これからもよろしくお願いします

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