欲深い俺が歴史戦略ゲームの世界に迷い込んだ
文才無くても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:欲深い
「収穫を最大にすることだけを考えろ」
半ば怒気を含んでいるのを自覚しながら、俺はそう言い放った。
変な時代に迷い込んで早半年。苛立ちが募っていても仕方ないとは自分でも思う。
それがどうやら某歴史シミュレーションの世界で、身分に応じた命令の強制力だけならゲームの時と同様にあると分かりはしたが、それがなんの救いになるのかと。
「作りすぎて商人に足元を見られるとか一切考えるな。ただ作れ!」
逆の意味でゲームではありえない理屈通りの相場の動きが、ゲームで培った収入増加のノウハウを阻害する。
部下も足りない。かなり足りない。それへの対策を考慮して、説明して、理解を求めて自己判断できる人材を育てようとしたが、長年その肌で米相場の変動を実感してきた農民どもは頑なで、ほとんどが使いものにならない。
自然と、身分を盾にしたシステムの強制力で命令するばかりになってしまう。
「次男三男ほか部屋住みの者はちょっと来い。お前ら極潰しどもには兵になってもらう」
こんな戦国の世なら当たり前の事もわざわざ通達しなければいけない。
例えば前田利家だって武家だから出世を頑張ったわけじゃない。結果論で前田家を継ぐ事ができたが、彼は土豪前田家の四男に生まれて家督を継げる見込みがなかったからこそ馬廻り集として最前線で奮戦して身代を築き上げる必要に迫られていたんだ。
閑話休題。要するに一つの家で食っていける後継者なんてのは一家族が限界なんだ。
だったら奪うしかないだろう。
「この山の稜線の南西裾根付近にある小さい集落を狙え。降伏したらそれでよし。どちらにせよ兵となった者はいったん帰農し、今回の収穫の余剰が尽きるまで延々と開墾し続けてろ」
商人が買い叩き、武家が買い漁り、兵卒に扶持として配られる。なら最初から配ったら
いいんだ。
土地に縛られ民に縛られる武家でもない。成功報酬で徒党を生かす傭兵集団でもない。
兵の数のほとんどは、支給された食料を貪って、けれど命を惜しんで戦場では逃げ出す、
そんな日々生きることが精一杯の貧しく惨めで懸命な者達だ。
俺は飯を用意してそいつらを買い叩く。
商人がいくら収穫から相場情報を計算しようが、市場に一切流さずに現物そのまま消費してやる。そして土地を奪って与えてやる。開墾する余裕を与えてやる。
「あ? 離れたところで開発すると南の奴ばらの動向が懸念されるだと?」
意見は聞いてやると通達してるとこういう愚にもつかない怯えに満ちた質問が舞い込んできたりする。
この時代の常識を、文字の上ではなく実感で理解できていなかったときは重宝したが、今となってごくごくたま~に砂の中から砂金が見つかる程度の価値しかない。それでも、情報は金も同然だから大切にはするが、砂のような雑多な質問には腹が立つ。
「いいか、一から十まで説明するから良く聞けよ?」
それでもこうして逐一教えるのは、これもごくごくたまにの砂中の砂金レベルのことではあるが、頭のできのマシなヤツが見い出せたりするからだ。
「俺達は山の奥地で貧しい。あいつらは平地で豊かだ。だが、だからこそ俺達は頑強で、あいつら脆弱だ。結束も、一村一丸となってようやく食えてる俺らと違って、あいつらは各々が好き勝手やってもそこそこ食える。つまり、こっちは全員が動くがあいつらは少ししか動かないし動けない」
知性の働きを瞳に見せるやつがいるかどうかじっくりと陳情に訪れた一人ひとりの目を覗き込む。理解しているかどうかあやふやだが、とりあえず異論はないようだ。
「で、ここより平地に近い西の尾根だが。平地に慣れた者共に夜討ち朝駆けは困難だろ。なら日中からの行軍になるが、日は西に沈むもんだ。夕日を背中にするのと夕日に目が眩むのと、どっちが有利か少し考えたら分かるだろ」
ていうか少しは考えてから来いよ。ゲームの通りにはいかないってのは分かったが、これを理解するのには地動説も孫氏の兵法もいらんだろ。農民の経験則と知恵だけでいい。
「なるほど、では開墾に取り掛かるのは集落の更に西、南の奴バラによく見えるよう、尾根の突端に向けて畑を広げるのですな?」
おう。脳内で愚痴ってたら、しっかり俺の意図を察してくれたヤツがでてきたわ。
「分かってんじゃねーか。開墾は部屋住み連中の未来で、くそ貧しい家での更なる内紛を避ける措置で、……おまけで南の平地連中への罠だ」
なんと! だの、そうであったか! だのとざわざわ五月蝿く盛り上がってきた中で、俺は開発提案をしてきた顔を見てみた。見覚えはある顔ではあるが、誰だ。
「お前は……村の北で、山中深くに入ってよく芋を掘ってる奴だよな。名前は何だ?」
「はっ。てつと申しまする」
「よし、お前は今後山中鉄之助と名乗れ。漢字はこう書け。確たる身分はまだやれんが、西の攻略が済めばお前の家名を村の名前にしてろ」
「ありがたき幸せでござじゃります」
農民が無理スンナ。
とはいえ、知識と教養は後で付け加えればいい。今必要なのはこういうその場その場で知恵が回る奴だ。
「いいか、最初の二年は防衛に徹せよ。落とされる前には必ず救援に向かう。だがお前らは山中の強みを生かして水源を握れ。水車と鼓の準備が八割方整ったら、一気に日干しを仕掛ける。その時に、平地の連中には戦えば勝てると自惚れて貰わなくては困る。よってそれまでの間、追撃は禁ずる。いいな?」
「はっ」
「死ぬ気で守り、死ぬ気で戦え。だができれば生き延びろ。数年内に平地を手に入れる。それに隣する海も手に入れる。山の幸は旨い。だが米も旨い。そして魚も旨い筈なんだ。みんなでおいしいものを腹いっぱい食うぞ!」
おうおう。欲深いものどもが目をらんらんと輝かせ始めたわ。
「殿もそれをお望みでしたか」
「あん? よりよく生きたいのはお前らの望みだろ?」
なんだか同類を見つけたかのように馴れ馴れしく言ってきたから思わず言葉でばっさり返してしまったが、まあ、そんなに根に持ってなさそうで笑顔のままだから別にいいか。
「では、殿は何を?」
「見てみろよ、あの纏まりのない小さな境界争いでジグザグになった田んぼの形を」
じぐざぐ……? という呟きは聞こえるが、まあ大体の内容は通じているだろ。
「あれを全部俺のものにして、もっとよりよく整えて、もっとより沢山の米を作る」
「そんなに作っても食いきれませんぞ」
「なら、他に奴に食わせればいい。で、そいつらでまた新しい田畑を作ればいい」
この理屈が理解できないのか一様にキョトンとした面を向けてくる。面倒臭いが、まあもう少し細かく説明してやるか。
「なら飯を食えずに争う奴もいなくなるだろ? だが、その分そいつらにも一度命を掛けて貰い、また新たな土地も開墾するんだ」
この偉大な俺の構想を理解したのかしてないのか、少しばかりの沈黙が流れて……ややもって鉄之助が静かに口を開いた。
「殿はそれでよろしいので?」
「ああ、なんてったって俺は内政フェチだからな」
”彼”にとっては強引な命令が通用するのはシステムのお陰のようです。
真実は皆様の胸の中に……。
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90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/24(水) 11:48:42.42 ID:MyiDTiqD0
と思ったけど、某ホラー祭りの為にじっくり書いてる最中だったので……も一つ何か下さいな
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/24(水) 11:49:31.25 ID:BNSKスレ民
>>90
欲深い
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/24(水) 11:54:00.96 ID:MyiDTiqD0
今度こそしっかり把握しました。書いてきます