鳥のはばたき
学校の花壇のコスモスがとても綺麗だったので、休み時間に写真を撮ることにした。露出を確認して、絞りとシャッタースピードを決め、ピントを合わせる。ファインダーを覗きながら構図を考えていると、
「良いカメラ、ですわね」
声のする方に目をやると、花園さんが立っていた。
「あ、花園さん。ありがとう。私のおじいちゃんが使っていたものなんだ」
「あなたの割には良い趣味してるじゃない」
相変わらず嫌味な人だなあ、と思う。けれどなんだかいつもと雰囲気が違う気がする。
「花園さん、フィルムカメラとか知ってるんだね。なんか意外だな。フルート一筋なイメージだったから」
「う、うるさいわね。常識ですわ」
花園さんはそう言うと、私のカメラの構え方を指摘した。
「そんなに脇が開いていたらシャッターを押すときにぶれてしまいますわ!」
「わ、すごいね花園さん。あたし、ピントを合わせてるうちに脇が開いちゃうのが癖なんだ」
「ちょっと貸してごらんなさい」
花園さんは、私からカメラを受け取ると、ネックストラップを首に掛けた。ポケットからスマートフォンを取り出し、画面を確認した後、絞りとシャッタースピード、ピントを合わせ、ふぅ、と呼吸を整えている。花園さんの姿勢の美しさに目を奪われる。この一連の動作から、彼女がカメラを好きなのだろうということがひしひしと伝わってきた。カシャン。小気味よい音が鳴る。
「花園さん、すごいね。露出計のアプリ何使ってるの?結構よく撮ってるの?おすすめの現像屋さんある?」
苦手だと思っていた花園さんとの思わぬ共通点に嬉しくなって、矢継ぎ早に質問してしまう私に、呆れ顔で答える彼女からは、今までの嫌な感じがしなかった。
現像から返ってきた写真を見ていると、とても美しい花壇の写真が目に留まる。
「あの時、花園さんが撮った写真だ。綺麗……」
私も同じような構図で撮っていたけれど、光の入り方や写真の雰囲気が私のものとはまるで違っていた。
翌朝登校すると、下駄箱の前に花園さんの姿が見えた。駆け寄って声をかける。
「花園さん、おはよう!この間撮ってくれた写真、現像に出してきたよ!すっごく綺麗でびっくりしちゃった!カメラマンさんみたいだよ」
興奮気味に話しかけると、花園さんは一瞬目を見開いた後、少し寂しそうにつぶやいた。
「朝から元気ね。おはようございます。わたくし、本当はカメラマンになりたかったのよ」
「素敵な夢だね!でも『なりたかった』って、どうして過去形なの?」
「桜木さんも知っているでしょう?わたくしの家系は代々音楽家なのよ?カメラマンなんてお父様が許してくれるわけないじゃない」
「そう、なんだ。おうちのことはあたしには口出しできないけどさ、あたしは、素敵だなって思ったよ。フルートが得意な花園さんも、写真を撮るのが上手な花園さんも、なんて言うか、どっちもほんとの花園さんでしょ?あたしは、花園さんてちょっと嫌な感じだなって思ってたけど、頑張り屋さんで好きなものにまっすぐなとこ知って、良いなって思ったよ」
「生意気ね。なんだか力が抜けてしまいましたわ」
そう小言を言う花園さんの表情は、わずかに柔らかく見えた。
昼休み。いつものように唯ちゃんと屋上でお昼ご飯を食べる。思い切り深呼吸をすると、秋の匂いが胸いっぱいに広がった。落ち葉が風でくるくると舞っている。秋の日差しはやわらかく、少し眩しかった。
パックの牛乳を一口飲む。うっすらと形になっていた将来への思いが、今なら口に出せそうな気がした。
「私、決めた。今すぐに、この職業っていうのは思いつかないけど、前世の記憶に縛られてる人のサポートがしたい。あたしだからこそ出来ることが、あるような気がするんだよね」
「なにそれ!めっちゃ良いじゃん!すっごく陽に合ってると思う。実はさ、さっき花園が、陽と話して心が軽くなった、的なこと話しててさ。むかつくけど花園の言ってることわかるんだよね。陽と話してると、『なんでも受け止めてもらえる』って感じがして落ち着くから」
「むかつくって。でも、花園さんて、案外ツンデレなのかも?」
「うげー。ま、とにかく!なんかすっきりしたっぽいね!」
「うん!いろいろありがとね!」
「いえいえ!親友ですから!」
なんて笑いながら、唯ちゃんとハイタッチをした。パァン!と乾いた音が空に抜ける。屋上のフェンスに止まっていた雀が3羽、羽撃いていくのが見えた。




