記憶の女神
世界史の授業で出たレポートの課題に必要な資料を探すため、唯ちゃんと一緒に市立図書館に来た。課題は歴史上の人物について一人選んで詳細をまとめるというものだ。正直興味が出なかった私は、世界史の本がずらりと並ぶ棚から適当に偉人伝を一冊取り出した。パラパラとめくると一枚の肖像画が目に留まる。それは、穏やかな表情で微笑む老人の画だった。ふと、脳裏にオレンジ色の帽子が浮かぶ。あのおじいさんにとてもよく似ている。気になって注釈を読むと、「詳細不明」とだけ書かれていた。隣のページには美しい少女の肖像画があり、「記憶の女神」と書かれていた。なんだか興味が湧いてこの本を借りようと顔を上げると、唯ちゃんがこちらを見て立っていた。
「決まった?」
「うん。唯ちゃんは?」
「私も決まった。じゃあ帰ろっか!」
貸出手続きを済ませて外に出ると、唯ちゃんが顔を覗き込んで聞いてきた。
「さっき陽さ、なんかすごく考え込んでるような顔してたけど、どうかした?」
「えっ、そうだった?あのね、今日借りた偉人伝に載ってた肖像画のおじいさんが、何度か会ったことのある人にすごく似ててさ」
「へえ。どんな人?」
「いつも鮮やかなオレンジ色の帽子を被ってる人でね、私と同じカメラを持ってたんだ」
「なんかすごい偶然だね。で、そのおじいさんに似てる人物は何の偉人だったの?」
「私もそれ気になったんだけどさ、『詳細不明』としか書かれてなかったんだよね」
「えー?なにそれ!肖像画だけ載ってたってこと?変なのー。もしかして、何かの神様だったりして!」
べっ、と舌を出していたずらっぽく笑う唯ちゃんの笑顔は、今日も太陽みたいに輝いていた。“神様”か。不思議な穏やかさを持つあの老人には、神様だと言われても妙に納得出来る雰囲気があった。
「あとね、その隣のページに『記憶の女神』って書かれた少女が載っててね。気になったから課題はその子にすることにしたんだ」
「へぇ!記憶の女神かあ……気になるね」
「うん。唯ちゃんはどんな人を選んだの?」
「ウチはね、世界初の女優って言われてる人!」
「いいね、唯ちゃんらしい人選だ!」
「えへへ。あっ、そういえば!この間ウォーキング中に、ウチの家の近くにおしゃれなカフェを見つけたの。今まで全然気が付かなかったんだけど、隠れ家的雰囲気で良さそうだったから、今度の休み、一緒に行ってみない?」
「いいね!賛成!」




