僕の可愛い婚約者
「クラリス、いい加減にして……もう……無理。俺と『待ってセシル』」
途中まで言いうも遮られた男は公爵家の長男のセシル18歳そして、目の前で瞳を潤わせてセシルを見つめるのは婚約者のクラリス17歳であった。
「クラリス?どうした?」
「あの……私は、セシルとお別れなの?もう、私の事を……好きじゃなくなったの?」
「いや、そうじゃなくてだね。クラリス、僕のお話を聞いて」
「だって、最近セシルが冷たい。私と婚約を解消してと言うつもりでしょ。しょぼ〜ん以外の何があるの?」
「クラリス……出来ればね。僕もさ、しょぼ〜んな事にはなりたくないよ。わかってる?」
「ん?何が?」
「ここさ、僕のベッドだよ」
「そうだよ」
――――
セシルは夜中、温かい柔らかな感触に目を覚ました。
「ひっ……。え?何?誰……ク、クラリス?」
「ん〜ん……えへへ。セシル〜」
頭をセシルの胸にスリスリしニマニマしながら寝る女の子は婚約者のクラリスであった。
セシルは、ゆっくりと思い出す。何故この様な状況なのか。
確か……寝る前は1人で本を読んで……寝落ちしたな。
どのタイミングでクラリスは来たのだろうか。
「ねぇ、クラリス起きて」
揺すり起こすセシル。
「んんっ〜セシル〜」
「はぁ〜。もう、なんで起きないんだよ」
――――
「うわっ、うわっ……セシル?セシル起きて……セシル」
「ん?クラリス」
「セシル……大変よ」
「ん……大変だね。でも僕の方が大変だったよ」
「セシル……私……セシルに……抱きしめられてるわ」
「そうだね。まだ、起きるのは早いね……もう少し」
セシルはクラリスを抱きしめながら再び眠りにつくも。
「それなら。コレ何?」
「ん〜そこはまだ。クラリスには早い」
「そうなの?」
モゾモゾとセシルの腕の中で動きだすクラリス。
「クラリス、あまり動かないで」
「だって、セシルが」
冒頭のやり取りに戻り。
「ここさ、僕のベッドだよ」
「そうだよ」
「クラリス、僕からお話をさせて」
「わかったわ」
「さて、いつ僕のベッドに潜り込んだの?」
「夜に来た」
「どこから入ったの?」
「窓からだよ」
「どうやって?」
「それは、家から抜け出し、お庭の秘密の扉からセシルのお家のお庭を通ってセシルの所にきたの」
「夜遅くに1人で?」
「そうよ」
「隣とはいえ怖くなかったの?暗かったでしょ」
「ほら、セシルから貰ったクマちゃんも一緒だから。あれ?どこに行った?」
「ん〜」
辺りを見渡すセシル。
「いたよ、あそこ窓の近く。寝ているのかな」
(クラリスが寝ながらぶん投げたに違いない)
「いたいた、あんな所で寝ちゃって困ったクマちゃんね」
「どうして窓から?」
「いつも鍵が開いているから」
「昔からクラリスが遊びにくるからね。鍵は閉めてないの」
(夜だけは閉めていたのに昨日は忘れていた。でも逆に閉めていなくて良かったよ)
以前はセシルの部屋は2階であった。現在使用している1階の部屋は、亡くなった祖母が使用しており足腰が弱くなり階段の昇り降りが大変となり、趣味の花壇へとすぐに行けるようにと祖母は1階の部屋を改装し使用していた。
セシルとクラリスが大好きだった祖母。祖母の生前はクラリスが庭へ出るための窓から出入りをして遊びに来ていた。祖母が亡くなった後も窓からやってきては祖母がいないことに大泣きしていた。
そのため、セシルが1階に引っ越しをしたのだ。
祖母が亡くなって8年がたち、ここ数年7割は、玄関から遊びに来ていたクラリスであった。
「今まで、夜に来たことなかったよね。どうしたの?」
「セシルは高等部に入学してから私と遊んでくれなくなった。寂しかったのよ。昨日ね。友達と街でブラブラしてたの。そしたらさ、セシル……女の子と歩いていた」
「え?昨日」
「セシルは、新しいクラスで新しいお友達もできただろうし。その中にセシルが気になる子が出来たのかと」
「クラリス、気になる子はクラリスだけだよ」
ベッドで横になったままの2人、セシルはクラリスをギュッと抱きしめた。
「あら、セシル。硬いのなくなった」
「あぁ……ん〜。クマちゃんの所に行ったのかな?」
「クマちゃんは、フワフワじゃなきゃダメなのに〜」
コンコンコン
「坊ちゃん、起きましたか?入りますよ」
「あっ、ちょっと待って」
ガチャ。
「坊ちゃん……そしてクラリス様?」
セシルの腕の中から、ひょっこり顔を出すクラリス。
「マーサ、おはようございます」
「マーサ……おはよう」
「……クラリス様、早く戻らないと大変な事になりますよ」
「そうね。セシル、私は帰るね」
「クラリス、学校が終わったら僕とお茶しようね」
「わかった」
「あとさ、玄関から入ってね」
「…………わかった。じゃあね」
クマちゃんを抱きしめ窓から出て行くクラリス。
「坊ちゃん?」
「夜這いにあったのだよ……高等部に入学して、僕が忙しくなったから寂しかったみたい」
「……今日は、クラリス様の好きなお菓子を用意しておきます」
「ありがと……で、やはり父には」
「はい、報告しますよ」
「だよね」
父に怒られるのだろうか。しかしクラリスの寝顔は可愛いな、早く結婚したいと思うのであった。
自宅に向かうクラリス。
「ん?クマちゃんはフワフワのままね。何だったのかしらセシルの硬いの」
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