02: 秘密
「……なぁ楓、今日本当に一緒に帰れないのかよ。今日一緒にゲーセン行く約束してたろ?」6限目が終わった。俺は啓介に詰められていた。
「すまん。ってかお前朝俺たちのこと見てたろ」俺は荷物の整理を無言でしている詩遥を見た。詩遥はキャップを深くかぶっていてよく顔が見えない。
「はいはい見てましたよっ!お前もついにリア充かぁ……俺、お前のことが羨ましいよ」
「うるせぇ!お前も恋人探しの1つでもしたらどうなんだ?」
「俺はそんなつまんねぇことなんかに付き合ってる暇はねぇ。おれは軽音部とゲームが命の次に大事なんだからな」啓介がそう言った瞬間――予鈴が鳴った。俺と啓介は飛び上がって急いで席につく。
「さて皆さん、帰りのホームルームですが……長く話したくはないです。なので皆さんは静かに私の話を聞いていてください」俺は右隣を見る。
「なぁリュースケ……お前彼女バレしたらしいな。朝一番に聞きたかったんだけど暁さんの登場で……」リュースケはご自慢の茶髪をさわやかに振りながらこっちを向いて真っ黒な目をぱちくりさせた。
「……お前何言ってんの?俺、彼女なんかいないぜ?」俺は目をぱちぱちさせた。
「……冗談いいって!照れんなよ!」
「いやマジでいないんだけど。お前どうした?朝からなんかおかしいぞ?」
「……はぁぁ?いや、今朝クラスの中島からクラスラインに投下されてたぞ?――待ってろ証拠見せるから……」俺はポケットからスマホを取り出して何もいじくってないはずの通知を漁った。
「中島中島……は?そんな通知ないんだけど」俺は目をこする。確かに今朝こいつの彼女バラされてたよな?俺の見間違い……?いや、それを見ながら朝飯食ってインスタにあげたから多分正しい。
「……ん?中島のアイコンこんなんだっけ――?……あでっ!」すると俺の額にチョークが飛んできた。
「結城。ホームルーム中にスマホいじるな。もう一日の終わりでいろいろたまってるのは分かるけど少しくらい我慢したらどうなんだ?」
「……へぇい。すんませーん」俺はスマホをポケットをしまった。担任はため息をして続けた。
「……これにて私からの連絡は以上です。では皆さん、また明日。気をつけて帰ってください」担任はそう言って教室から出て行った。その瞬間――教室はまたいつものように騒がしくなった。
「……ちょリュースケ……!」俺はリュースケに向き直る。
「……ごめん楓。今日俺早く帰らねぇとなんだよ。ほら、期末試験まであと一カ月きったろ?勉強くらいしないとな。じゃ、また明日な。とにかく、ゆっくり休んでくれ」リュースケはヘッドホンを流れるようにつけてカバンを肩に引っ提げて教室を出て行った。
「…………リュースケ……!」すると俺の肩を誰かがちょんちょんとつついた。振り返ると――詩遥がにっこりと笑いかけていた。
「やっほ!ごめんね放課後のこらせちゃって!」俺はうなずいた。教室の後ろの方で啓介が「今日カラオケ行こうぜー!」と騒いでいる。
「放課後のこってもらったのは少し君と話したいことがあって!……ほんと少しだけで終わるから!」
「……話って……?もしかして学校案内してほしいとか?」
「それは私だけでも出来る。話したいことって――ここんとこ最近起きている異変についてなんだ」いつの間にか教室の中にいた人たちは空気を読んだかのように出て行って俺たち二人だけが取り残された。詩遥は立ちあがって教室の鍵を閉めて、また俺の傍に戻ってきた。
「異変って……朝話したあれ?」
「そう。君が私と仲良くなろうとして話してくれたあれ」俺は一気に頬が真っ赤になるのを感じた。
「まず初めになんで君を引き留めたかって言うと――」俺は手を挙げて制止した。
「ごめん。……ずっと気になってたんだけど、なんで君はいきなり俺だけに明るくなったの?」
「それは……!」詩遥は一瞬口を閉じて言った。彼女は一瞬だけ目を逸らし、指先を胸の前でぎゅっと握りしめた。
「……楓君だからだよ。君なら、信じてくれるって思った。――それに、これが本当の私なんだよ?」
「……それって……?」
「今から話すから!」詩遥は思いついたかのように教室のカーテンを閉めに行きながら言った。
「君が朝から感じてる異変……それはね」詩遥はカーテンを閉じる手を止めて言った。
「……この世界が崩壊しているから……なんだ」教室にはカーテンがひかれる音と時計の音だけが響いていた。
「…………はぁぁ?」
「そう……だよね……最初はだれでも混乱するよ。私だってそうだった」詩遥はカーテンのすぐ近くの机に座った。
「この異変の原因……これはゲームで言うアップデートの後のバグみたいなもの。そのバグは私が毎晩崩壊を食い止めているから起きてるんだ」
「…………はにゃ?」
「ほんっと!はにゃ?だよこれは!」俺は手を振って制止した。
「え?何?今どんな状況?世界は今崩壊していて君は今崩壊を食い止めて食い止めたら異変が起きるってこと!?」
「大正解!つまりね――」
「いや待て待て待て!何そんな非現実すぎる事実述べられても!証拠とか無いの!?」詩遥は動きを止める。
「……証拠かぁ……」詩遥はこっちに歩み寄ってきた。
「……ねぇ、誰にも言わないって約束してくれる?」俺は黙ってうなずく。
「……ほんとに?見た以上もう引き返せないよ?」俺はもう一度、さっきよりも深くうなずいた。詩遥は深く深呼吸してキャップのつばに手を掛け――帽子を取った。
「……これが……証拠。これが、私が毎晩翻弄している証拠」詩遥の髪は――実体のないホログラムのように光りながら消えたり現れたりしていた。
「これって……?」
「崩壊。私が前無理をしすぎて私の一部分が崩れ始めてるの。どう?信じてくれた?」
「…………」俺は黙ってうなずいた。だってこんなの見せられたら嘘だと言い切る方が無理だもん。
「……よかった。そこで君には折り入って頼みがあるの」詩遥はそう言いながらキャップを深くかぶりなおした。
「……君も、私の活動の仲間になってくれないかな……って……」
「…………はぁぁ!?俺世界救うってこと!?」詩遥は少しだけ笑みを浮かべながらうなずいた。
「……ほら!男子ってなんかそういうの好きそうじゃん!」
「いや好きだけど……え?いきなり世界救ってくださいって言われても!言われたのがどんなに俺タイプの女の子でも!」
「そこをなんとか!」
「いや今は決めかねますよ!さすがに段階ってもの踏みません?一緒に帰るとかでも……」
「あーそだね。あとで交換しよ」
「今ちゃうんかい!でも多分俺は仲間になる気は――」詩遥は俺の口をふさいだ。
「私言ったよ……?もう……引き返せないって。だから――お願い!」詩遥は俺のことを上目遣いで見つめてきながら手を合わせた。
「……むぐぐ……ずりぃぞそれは……!」俺は頭を掻きむしる。
「……わかった!折れた!乗るから!」俺はため息をつきながらも何とか笑顔を作って詩遥に微笑みかけた。
「やった!」詩遥は嬉しそうに頷いた後、俺の右手にそっと手を重ねた。
「じゃあこれで……契約、成立だね!まだ話したりない事もたくさんあるからさ……」詩遥はスマホを取り出した。
「連絡先の交換がてら、一緒に帰らない?」俺は詩遥のいたずらっぽい笑顔になぜか顔を合わせることが出来なかった。
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