08: 未練
「ナイトコードって奴は言っちゃえば――なんてんだろ、まぁ時間と時間の間の空間って表現が正しいかな?でも昼の時間帯と同じようにナイトコードでも時間は経つからね!」俺は詩遥を見つめる。――何か違和感が……。
「……え?どうした?なんか変なのついてる?……もしかして……クモ!?」詩遥はぴょんと飛び上がって髪を撫でつけ始めた。――ん?髪?
「詩遥……お前……」
「んー?」詩遥は俺の顔を覗き込んだ。
「……なんか髪伸びた?」
「……え?」詩遥は歩くのをやめて身をよじって彼女の背後を見る。
「あー!これか!言ったじゃん!私の髪が消えかかってんのはナイトコードの影響だって!なんか結構前に髪が消えたから詳しくは覚えてないんだけど、コーダの強い護りによってなんか消えた部分が現れるみたい。でも、なんか色は変わってるけどね!」
「……ちょっとその帽子とって」
「え?まぁいいけど……」詩遥は帽子を取り払う。――確かに。詩遥の髪は彼女のコーダを境に色が変わっていた。元はふんわりとした栗色の髪だったのがコーダを越した部分から目を奪うように鮮やかなクリーム色に変わっていた。しかも毛先に行けば行くほど銀色に染まっている。
「……ほら、色……変わってるでしょ?なんかすっぽり空いた穴をコンクリートで埋められてる感じに思えてくる。――いや、虫歯の表現のほうが正しいかな……?」詩遥はそう言いながら慣れた手つきで帽子をかぶった。
「ま、そんな話はさておき!この空間では少しでもネガティブな感情持っちゃうと――なんか危ないって聞いたことあるから!わかんないけど!元気に行こ元気に!デートだと思ってさ!」俺は盛大にむせた。
「で!?……ででででで!?でぇとぉ!?」詩遥は何が悪いんだという顔で俺を見た。
「え?デートでそんな驚く?」
「驚くだろぉ!そりゃお前が俺を――」詩遥は尻すぼみになった俺の声を掻き消した。
「デートって仲がいい人とのお出かけってこと言うんじゃないの?ほら、デートって兄妹とか母親とか父親とでもなんとかデート!って言ったりするじゃん!――あれ!?私間違ってる!?」
「…………知らん」俺はそう言ってなんとなく頭を掻いた。目の前では詩遥がどう見ても恨むことのできない笑顔で格闘ゲームの待機モーションみたいに少し弾みながら俺のこと待ってるし。
「……さて、初めてナイトコードの時に出歩いたけど――俺たちは何をすればいいんだ?」すると詩遥はピョンピョン跳ねるのをやめて俺の傍に立って――興奮気味に言った。
「コーダの機能の登場でーす!――コーダ、今日私たちが達成すべきタスクは?」詩遥はそう言うと――詩遥とコーダが光り出した。
【今晩、貴方達が達成すべきタスクは主に1つです】すると詩遥のヘッドホンの耳らへんからいくつもの細い光が一気に出て空中で光の輪となって――いつの間に、目の前に大きな画面が浮かび上がった。
【今晩、世界の崩壊が起きているのはこの街の清雄川付近――現在地からの距離はおおよそ850メートルです】画面には俺たちが今いる街の地図が出てきて学校らへんに俺たちのコーダについているマークが表示されている。そこから川までは光でつながていて――なんかかっけぇ。
【この場所は9年前、ある家族の兄妹が夏祭りに来ていたところ、突然の大雨が起きました】画面には――顔だけぼかされた映像が浮かび上がった。
【二人は川のすぐそばに座り、花火を待っている時に大雨で川が氾濫、花火を見れなかったどころか、妹は川の激流に流され、かろうじて兄が助けたものの妹はずっと大事にしていた家族写真をなくしてしまいました】画面は一瞬のうちに消えた。
【あなたたちのタスクはこの兄弟の未練を昇華することです】詩遥はゆっくり俺を振り返った。
「……わかった!?」
「……わからん」
「ま、簡単に言えば――演技!それだけ!」詩遥はそう言ってにっこりと笑った。
「……それって――」
「楽しそうでしょ!?実際めっちゃ楽しいから!――でも未練って何だろ……」
「え?わかんないの?」すると詩遥は怒ったように言った。
「バァカ!私だって人間!そんな万能少女じゃないの!コーダが毎回何が起こったか入ってくれんのに何を演技すればいいのか教えてくれないのが不親切でさ、私ったら毎回それを考えなければいけないの!うーん……川に流される演技をするべきか家族写真を探す演技をすればいいのか……」
「……俺はこの兄弟が1番大事にしてるのは家族だと思う」
「……え?」
「だって、そうじゃん。家族で夏祭りに来て家族で花火を見ようとして氾濫した川に流された家族を助け、ずっと大事にしてた家族写真をずっと探してる」詩遥は目を丸くして――ふっと笑った。
「そっか。めっちゃ見落としてた!つまり私たちがすべき演技は――」
「花火を見る演技……だと思う」詩遥はニコッと笑った。
「楓君!きっとそれだよ!本当に初めてのナイトコード!?」
「初めて……だぜ?」詩遥はこくりと頷いた。
「じゃ、早く行こ!私人と演技するの初めてだからめっちゃ楽しみ!あ、そだ!川の場所わかんないから案内してよ!」
「おう!じゃあ着いてこい!」
「あ、まって!ただ行くだけじゃつまんないから鬼ごっこしよ!私鬼ね!私が捕まえたら演技するロールを私が先に決める!じゃー!よーいどん!」
「あ、おい卑怯だぞっ!」俺たちは音のない世界でその音を切り開くかのように走り出した。
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