ある日、森の中。
皆さん、こんにちは。会うと幸せになる妖怪として知られている座敷童子です。
早速ですが、前回のおさらいです。
先程、大きな犬が意思疎通出来るようになり、私と相棒のお友達になったのですが、誰が主人殿と森へ行くのかと言う問題が、まだ解決していませんでした。
「…で?貴方は行かないんですか?」
「森危ない、一人で行って。」
「危ないって分かってんなら、つべこべ言わずについて来いやッ!!」
相棒は怒ると口が悪くなります。
「歩くのだるい。」
前にも言いましたが、私は生粋の怠惰妖怪なのです。
(良い事を思い付きました!ヘッヘッ…私の背中に乗って行くのはどうでしょうか?)
「採用。」
と言う事で私は、主人殿の森探索について行く事になりました。まぁ、少なからず、私には主人殿の保護者的役割がありますし、相棒がヒステリックになるので、仕方なくポチの背中に乗るのです。
「あの〜宜しければ私もお背中に……」
「ヴゥゥッ…!グルルルゥゥ…ッ!」
「ひぃぃッ!歩いて行きます…」
相棒は歩くのが好きなようです。
私は見えませんが、相棒とポチは主人殿に見えるので、バレないようにこっそりと見守る事にしました。
「ところで、屋敷主人は森に何の用事なんでしょう…?やはり、何か目的があるのでしょうか?」
森に入って数十分が経過した頃、相棒が疑問を投げかけましたが、理由なんてどうでも良いので無視します。
「探検ごっこー」
(このフェンリル!主人様と共になら、何処へでも参る所存にございます!)
「真面目に考えて下さい!」
考えるも何も、主人殿は森の探索をしているのです。
(主人様、魔物狩りなら私にお任せ下さい!)
「任せる。」
ポチは普通の犬より頼りになります。
「ふっ…(笑)フェンリルと言うより、飼い主に忠実な只の犬ですね。」
(口数の減らないチワワめ…噛み殺してやるッ!グルルル…)
「私を殺せば、貴方の大切なご主人様は悲しみますよ?」
(なんて小賢しい奴だ…)
話すのは面倒ですが、二人の会話を聞くのは楽しいのです。
「えっと…座敷童子さん?寝てますよね?」
あれから更に数十分が経過した頃、ポチが足を止めました。
「ポチ、どうした?」
(主人様。この先を進めば、エルフの集落があります。)
次々と新しい言葉が出て来るのです。
「エルフって何?」
(主に人間と同じ姿形をしていますが、全員耳が長く、金髪金眼をしている種族です。普段は穏和な性格をしていますが、他の魔力を察知した瞬間襲いかかって来る恐ろしい存在です。)
それは穏和な性格とは言わないのではないでしょうか?
ーガサッ...ガサッ...
しばらく進むと、森の奥から主人殿以外の足音が聞こえて来ました。
(主人様!隠れて下さいッ!)
私は元々見えないし、魔力と呼ばれる力も持っていないので、隠れなくて大丈夫なのです。
「あの犬は何処にッ?!」
「かくれんぼ?」
突然、ポチが姿を消しました。
「この足音に警戒しているようですが...一体、何が近づいているのでしょう...?」
大きくて可愛いポチが隠れる程の強者なのでしょうか?
ーガサッ...ガサッ...
「気を付けてください...フェンリルが警戒する程です。」
「何の足音だッ?!」
流石の主人殿も、徐々に近づいて来る足音には気が付いたようです。
ーガサガサッ...
主人殿と私達の前に現れたのは、綺麗なお姉さんでした。
耳が長く、髪の毛が金色…このお姉さんは恐らく、ポチが言っていたエルフなのです。魔力を察知した瞬間襲いかかって来ると言っていたので、ポチはそれを恐れて逃げたのでしょう。…主人殿が少し心配です。
「えっ...!他にもこの森に人が居たんですね。」
「えっと…冒険者の方々でしょうか?」
おっと...綺麗なお姉さんと目が合ってしまいました。あのお姉さんは、私の事が見えるみたいなのです。
「方々…?此処にいるのは私1人ですが…」
「えっ?見えてないのですか...?」
「え?もっもしかして...幽霊とかですか?(汗)」
そうでした。主人殿は私の事が見えないので、1人と思っているのです。
「それと、私は冒険者ではなく、ただのサラリーマンです。」
「サラリーマン…?初めて聞く職業ですね…宜しければ、お名前を教えて頂けませんか?」
「はっはい。私は山下康太です。日本と呼ばれる所から来ました。」
因みに、私の主人殿の名前は山下康太と言います。
まぁ、この物語の主人公は私で、その主人公の私はこの人の事を主人殿と呼んでいるので、これ以降名前が登場する事は滅多にないですし、覚えなくても特に問題はありません。
「ヤマシタ・コウタ…珍しいお名前ですね。私は、エルフ族のラグル・アマティスです。」
「エルフ?本とかゲームに登場する、あのエルフですか?!」
いくら無害なアラフォーとは言え、若いお姉さんに迫る40代男性は、朝に流れるニュースのテーマソング並みに気分を害すのです。
「えっと…ヤマシタ・コウタが知っているエルフかは分かりませんが…一応、エルフですよ。」
「うぉぉ〜!すげぇ〜!」
エルフのお姉さんが、絵に描いたような苦笑いをしています。
「アハハ…それよりも、此処は一級地帯に指定されている森です。そんな危険な森を少人数で探索するのは、自殺行為ですよ。」
「危険な森?かれこれ1時間以上は歩いていますけど、特に何も起きていませんし、そんな風には見えないのですが…一級地帯って何ですか?」
「1時間も森に入っていて、何もなかったのですかッ?!」
それは恐らく、私の力による影響でしょう。
だから言ったのです。一人で森を歩いても、私のオーラがあれば安全だと。
「妙ですね…この森へ入った者は、1分もしない間に殺されてしまう事が殆どなのですが…」
「そんなに危険なんですかッ?!なんか、聞いた瞬間恐ろしくなってきました…」
それは気持ちの問題です。ただ、エルフのお姉さんは私の幸運が付いてないので、少しだけ幸運が下がってしまうかも知れません。
無理やりオーラを付けるのは気が進みませんが...致し方ありません。幸運をお姉さんにも付けておきましょう。
「知らないとは言え、何故こんな危険な地帯に?」
「実は...かくかくしかじかでして。」
「そうですか...それは大変でしたね。」
こんな主人殿の為に真剣に話を聞いてあげるお姉さんは優しい人なのです。
「エルフ族は古くから魔法を扱って来た種族なので、転移についても何か分かるかも知れません。宜しければ、私の集落にお越しになりませんか?」
「えっ?!行っても良いんですか?!」
「...?はい。」
何故、そんなに驚くのでしょう?お姉さんの顔を見て下さい。「何言ってんだ?こいつ」みたいな顔をしています。
「でっでも...エルフの集落って、秘密の場所とかじゃないんですか?」
「そんな掟はありませんよ。一級地帯に集落があるだけで、入ってはならないという訳ではありません。」
なるほど。主人殿はゲームやアニメが好きなので、エルフと呼ばれる人達の事を勘違いしていたようです。
「そうなんですね。では、お言葉に甘えて。」
「はい、案内しますね。」
こうして、主人殿と私達は、エルフのお姉さんについて行く事になりました。