名前
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
美少女でお馴染みの座敷童子です。
この世界に来て、早一ヶ月。
私と相棒は相変わらず、外で鬼ごっこや隠れんぼをしたり、家中の畳の目を数えたり、壁に張り付いたりして、普通の日常を過ごしています。
一方、畑を手に入れた主人殿は、今日から森の探索を始めるらしく、大きな荷物を抱えていました。
「大変ですッ!屋敷主人は此処が一級地帯と知らないので、森へ行こうとしていますよ?!」
「へー」
「何が「へー」ですよッ!!一級地帯の森には、危険生物が沢山存在しています。油断すれば最後...悔やむ時間も与えられずに即死ですッ!」
主人殿には私の幸運がついているので、森へ出掛けたくらいで命を落とす事はありません。
「相棒、大袈裟。」
「私が大袈裟なんじゃなくて、貴方と屋敷主人が呑気過ぎるんですよッ!」
本当は家でゴロゴロしていたいし、座敷童子のプライドにかけて、オーラ以外の力はあまり使いたくないのですが…
「相棒だけじゃ駄目?」
「駄目に決まっています!屋敷主人に何かあった時、下級精霊の私では対処出来ません!」
「大きい犬は?」
「ぎゃぁぁぁ〜!!フェンリルッ!!何故またここに…?!」
実は、相棒が大きい犬と鬼ごっこをした後、私も一緒に遊びました。その時に、何故か懐かれてしまい、そのままお友達になったのです。
「大きい犬、お友達。」
「え?まさか、フェンリルをテイムしたんですかッ?!」
「テイム?」
またしても、新しい言葉が出て来ました。
「テイムとは、魔獣や動物を飼い慣らし、手懐ける事を意味しています。遊んでいる最中、フェンリルが光ったりしませんでしたか?」
言われてみれば、確かに光っていました。
「因みに、テイムした魔獣や動物に名前をつければ、意思疎通が出来るようになります。」
とても良い情報を聞きましたが、一つ問題があります。
名前をつける事自体は特に問題ないのですが、ネーミングセンスに問題がありました。
あれは確か、相棒と出会う前のお話です。
♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
今からおよそ200年前、私が昔住んでいた屋敷は、エベレストと呼ばれる山の麓にありました。
と言っても、住み着いていたのは少しだけなのですが、その山の周辺にある木の妖怪である木霊さんが、屋敷に住み着く猫と仲良くしていました。
私も時々、屋敷の外へ出て一緒に戯れていました。今思えば、猫が好きになったのは、この時からでした。
そんなある日、木霊さんから、猫の名前を考えていると相談を受けました。
「この子の名前を考えているんだけど、なかなか思いつかなくて…」
「なるほど…」
私は、悩む木霊さんに提案しました。
「海子は?」
「え?ここ山なのに何で海なの?」
海のように広い心の持ち主であって欲しい。その思いから名付けたのですが、T(時)P(場所)O(場合)が抜けていました。
今考えると、そもそも猫に広い心は必要ありませんでした。
♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
そんな事があり、名前を考えるのは、あまり得意ではありません。
「名前どうするんですか?」
そうですね...不自然ではなく、自然と愛着が湧くような名前は...
「……ポチ。」
ーシャーン…!
TPOを重要視した結果、犬と言う名前しか思い浮かばなかったので、ありきたりでシンプルな名前にする事にしました。
とは言え、「ポチ」は映画やアニメなど、幅広いジャンルで使われる人気の名前なのです。
「今日からお前はポチだ。」
「はぁ……絶対ポチって見た目じゃないですよね?せめてシロとかにしましょうよ…。」
「ヘッヘッヘ…ワオォォォォン!」
因みに「ポチ」は、フランス語で小さくて可愛いの「プチ」が由来なのですが…ポチは大きくてかっこいいので、また間違えてしまいましたが、私からすれば、ポチは小さくて可愛いのです。
「そう言えば、フェンリルと意思疎通が出来るようになったんですよね?何と言っているのですか?」
「フェンリルじゃない、ポチ。」
「…ポチさんは何と言ってますか?」
「ポチ、相棒がそう聞いてる。」
(フンッ…!下等種のくせに我に質問とは…主人様の相棒とやらは、何様のつもりだ?)
「だって。」
「いや、分かるかッ!貴方と読者には聞こえてるかも知れませんが、当事者の私は何言ってるのかさっぱりですからねッ!?」
ポチが喋る度に相棒に教えるのは面倒そうなので、霊力を繋げて、直接ポチと意思疎通が出来るようにする事にしました。
「えっと…ポチさん、宜しくお願いします。」
(ちッ...)
「え?!今舌打ちしました?喋れない時とのギャップ凄すぎませんか?!」
(はぁ…騒がしいチワワだ…。主人様は何故、こんな奴を相棒と呼ぶのだ…?)
「相棒って名前だからですよ…それと、私はチワワじゃなくて三毛猫です。て言うか、チワワって何ですか?」
2人は仲が良いようです。
「二匹、仲良い。」
「仲良くねぇからッ!!」
(そうです!下等種とは分かり合えません!)
この世界へ来て、初めて相棒にお友達が出来たのです。