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【完結済】ループ転生した女騎士は今度こそ幼馴染と添い遂げる……はずが、嫁入り先が公爵家違いです!  作者: 夏八木アオ


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10. 挙式

いよいよナターシャ様とレイの挙式が執り行われることになり、私はキース様と共に王都に出発した。私は先日のキース様との会話からずっとキース様との距離を測りかねていた。自分の気持ちが変わっていることを告げるべきではないと分かるが、ずっとレイを好きでいるとは思われたくない。そしてどんな言葉を使えば伝わるのか悩んでいた。あの様子では私が何を言ったところで責任感からくる言葉だと勘違いされそうだ。


そして妻として何も求めぬというのなら、キース様は何を目的に私をこの屋敷に迎えたのだろうか。それが不思議でならない。


爵位を継ぐ条件であることも含め政治的な理由で縁を結ぶには、実のところ公爵家と比較し私の家は位が低すぎる。そしてキース様は私に触れる気配がなく、妻としての役割を求めない。貴族の妻に求められることといえば男子を産むことと、使用人と家を管理することと、縁戚及びその他関係者との良縁を保つこと。

今のところ私はそのどれも勉強しろとも言われていないし、茶会への参加は無理をするなと言われ、キース様や公爵家の役に立っていない。


当初は公爵家を継ぐために妻という立場の人間が必要で、顔を知っている女性が私しかいないから消去法で声をかけたのだと思っていた。公爵ともなれば立場上正式なパートナーが必要な場があるのは分かる。そしてキース様に女性の知り合いが少ないことも特に疑問に思わなかった。


しかし、ローラとメアリーの話ではこれまで数多の縁談があったがキース様が詳細も聞かずに断ったという。私のように途中から貴婦人教育を放棄した伯爵家の末娘よりも、よっぽど公爵家の嫁として相応しい娘もいたことだろう。


「ソフィア?」

「……」

「気分が悪いのか」

「はっ、いえ、失礼いたしました。少し考え事を」


王都まで10日ほどかかる。今回も中継地を挟みながらの小旅行になる。時間がかかるから自分で馬に乗り移動しようかと思ったが、どちらにせよ祝いの品や着替えを運ぶために馬車は必須のため、私とキース様だけ早く到着しても意味がないということで使用人たちから強く拒否された。


「わっ」


馬車が揺れ、前に倒れそうになったところをキース様が手を取り支えてくれた。


「大丈夫か」

「はい、ありがとうございます」


妻として拒否されても、一度自分の気持ちに気づいてしまうと、目があったり触れたりするたびに心臓が高鳴るのは止められない。いっそこの鼓動が早くなることに気付いて私の気持ちにも感づいてくれないかと思ってしまう。

私はキース様の手を握りしめて、拒絶されないことを確認してそのまま座り直した。


「ソフィア」

「何です」

「手を……」

「何か問題がありますか。以前キース様もこうして私の手を握っていたと思いますが」

「根に持っているのか」

「根に持ってなどいません」

「……あの時は少し浮かれていたんだ。許せ」


想定していなかった告白に驚いてキース様の顔を見ると、窓側を向いてしまっていて表情がわからなかった。浮かれていたと聞いてあの日の様子を思い浮かべてみても、表情や声は浮かれている人間のそれではなかった。言ってくれなければずっと知らなかったままだったろう。意図が分からず混乱し、もはや、腹が立ってきた。


(浮かれていたというのはまさか私がサラマンダーの蒸し焼きを作ったことに関してではあるまいな。この人ならあり得るか……)


意地のように手を握っていたら離すタイミングを逃してそのまま次の中継地に到着し、休憩したらまた出発ということを繰り返しているうちに王都についた。


私はナターシャ様から贈られたグリーンのドレスに身を包み、髪にはキース様から頂いた髪飾りをつけてもらった。

ドレスも髪飾りも繊細で美しく見えるが、その実はどちらの贈り主にも遠慮なく暴れても壊れないものだと言われている。まだまだ自分が完全には立場を切り替えられずにいることが二人に知られている。


国内最大の中央神殿で挙式が執り行われた後、王都を一周するパレードが実施される予定となっている。神殿は親族とごく近しい者のみが立ち入りを許される場所で私とキース様は同行を許され荘厳な式を見守った。


神殿での式は厳格な規則に基づいて行われる。過去に参加した姉たちの式も自分の式もあくびを殺すのに必死で楽しいものではなかった。しかし、ナターシャ様が祈りの言葉を捧げる様子は、人生で初めて式に参加して良かったと思わせてくれた。色ガラス越しの鮮やかな光がナターシャ様を照らす様子は息を呑むほど神聖だった。


式が終わると、パレードから戻る二人をお迎えするため、一足早く王城に戻った。


「ナターシャ様を初めて目にした時のことを思い出しました。ハセネ湖の神殿で舞っているお姿に一目惚れして騎士に志願したんです」


私はキース様に腹を立てていたことも忘れてナターシャ様のことを興奮気味に話していた。キース様は頷いて話を聞いてくれていたが、時折小さな子どもに向けるような目をするのでそのたびに私は一旦停止して咳払いすることになった。


雑談を続けていると、ドアがノックされ、赤毛の背の低い男が入ってきた。そこにいたのは旅の仲間であり、私の魔法の師匠のホムラだ。ハーフエルフのホムラは王都が大嫌いだ。厄災討伐の祝賀パーティーさえ辞退しようと隠れていたが、フェガリ様から隠れられず、ナターシャ様に引っ張り出されていた。


「ホムラ!久しぶりだな!」

「キース、ソフィア、元気そうだな」

「元気だぞ!」


親愛をこめてハグしようとすると拒否された。ホムラは人に触れるのも嫌いだ。この世に嫌いなものばかりで、能天気に生きている奴らを見ると全部めちゃくちゃにしてやりたくなる、とおよそ英雄と思えぬことをよく口走っている。ホムラの実力であれば国一つくらいいつでもめちゃくちゃにできるだろうが実行する気配がないのは良かった。


「挙式にはいなかったな」

「当たり前だろ。あんなところ気持ち悪くて立ち寄れない。精霊がうじゃうじゃ足元に寄ってきて不愉快だ」

「そうだったな。もったいない。ナターシャ様はとても美しかったぞ」

「興味ないよ」


ホムラはふいっと顔を背けると、持っているカバンから水を取り出して飲んだ。人の淹れた茶は絶対に口にしないのだ。この後は食事が出るが、人の作ったものは嫌いらしいので、多分口にしないはずだ。


「今日は王都に泊まるのか?」

「いや、あいつらとあんたらの顔を見たら帰る。次期国王夫妻様に公爵夫妻様じゃあ、もう気軽に会えないだろ?祝いの品くらい直接贈ってやろうと思ってね。おれは案外義理堅いんだ」

「そんなことはないぞ。グラニエル領にはいつでも遊びにきてくれ」

「やだよ、遠すぎる」

「なら私に通行手当を発行してくれればカレジニアに行くぞ」

「来なくていい。あんなゴミ溜めに来たら目が腐るからやめとけ」


相変わらず嫌いなものばかりのようだ。幼い顔を思い切り歪めて悪態をつく様子は、本人には絶対に言わないが少し愛らしさがあって頬が緩んでしまう。


ホムラが居住する魔法都市カレジニアは治外法権が認められており、立ち入りは厳しく管理されている。その上、ホムラは部外者一切立ち入り禁止の魔法学院で研究員をしているため、会いたいからといって自由に足を運ぶことはできない。

私自身が魔法の研究員として認められるような功績を残した上で、さらに内部の人間に手当を発行してもらう必要がある。それ以外の方法は全て違法だ。


「おい、結婚したならあんたがちゃんと手綱握っとけよ。ナターシャがいないと何しでかすか分かんないだろ。勝手に移動させんなよ」


ホムラは窓際で腕を組んでいるキース様に呼びかけた。


「ああ、その時は俺も行く」

「馬鹿二人か。来るなって言ってんだよ。わざわざ人が出てきてやったのに……そら、これやるよ」


ホムラはカバンから小さな円形の機器を取り出して私に投げ渡した。複雑な魔導回路が埋め込まれていて、何に使うのかさっぱり分からない。


「これはなんだ?」

「遠隔通信魔法用の魔導機器。グラニエルとカレジニアの距離でも通話可能で、俺しか作れないから盗聴もされない」

「本当か?!すごいな!流石だ」

「知ってる。欠点は1回しか使えないところだな。必要な魔力量が強すぎて1回で回路が焼き切れる。これはお遊びのおまけでこっちが本命な」


ホムラはまたもカバンからランプのようなものを取り出した。どう考えてもカバンの容量より中身の方が大きいのだが、その辺りは秘密らしく詳細を聞いても教えてもらえない。


「魔石ランタンか?」

「ああ。魔石の入れ替えが面倒だろ。これは500年は保つ。一応結婚祝いだから、あんたらの未来がずっと明るくあるように、って意味で受け取ってくれ」


ホムラは自分のことを究極のめんどくさがりで怠け者だと言う。そしてそのほうが魔法の研究には向いているのだと。今あるものをめんどくさくてやりたくないと思うことが研究の原動力になるらしい。

ホムラは下の方についている小さなレバーを右に動かした。


「ついでにここを右にすると魔獣が嫌う魔導波が出る。王都一体に王宮の結界師レベルの結界が張れると思ってくれ。反対側はウヨウヨ寄ってくる特殊な魔導波が出るようになってんだ。これで魔獣を集めて素材にしたらカレドニアに送れ。特に蛇の王者の皮と牙」

「相変わらずやることが規格外な……わかった。任せてくれ」


遠征時には兵糧のあるキャンプ地を守るための結界担当者が必須になるが、これがあればそれもいらなくなる。頷くと、ホムラは眉を顰めた。キース様に視線を送り小さくため息をつく。


「……ほどほどでいいからな。改めて、祝いの気持ちは本当だ。おめでとう、キース、ソフィア」

「ありがとう」


ホムラはナターシャ様とレイの姿を見るまでここに残ると言うので、ともに二人を待つことになった。披露パーティー会場にはカバンも魔法道具も持ち込むことはできないため、ナターシャ様たちの分もこの部屋に置いておくということだ。ホムラ以外は誰も解けなさそうな強固な結界を張っていた。


「来たぞ」


窓の外に目を向けていたキース様が呟く。急いで窓際によると、ずっと遠くの方に大通りを行軍する王立騎士団の姿と、その後ろに華麗に装飾された馬と馬車がゆったりと走ってきた。上側が開放された特殊な形状の馬車で、道路に並ぶ民衆にナターシャ様とレイが手を振っているのが見える。


「私もナターシャ様に手を振りたかった」

「その服で下に降りたら見ぐるみ剥がされるぞ」

「だから簡素な服で警備に参加したかったんだ……」

「そろそろ下に降りるぞ」


王城の門を潜るのは相当先のことになるが、待ちきれないので外に出ることにする。


「待て。なんだあれ」


ホムラが呟いた。キース様が窓の外に目をこらす。


「黒竜教会の紋だな。……あの男、商会で見たことがある顔だ」

「黒竜教会?!」

「なるほどね。よく王都の聖女様の加護の下で我慢して大人しくしてたもんだ」


窓際に寄るとホムラが視覚支援の魔法をかけてくれた。場所と追跡できるようマークされた人影と、その首元に黒竜の入れ墨が見える。


黒竜教会は厄災による破壊行為を神の意志として受け入れるべきだと信じている。それに抗おうとする聖女を魔女と呼んで忌み嫌っており、聖女と神殿の加護が強い王都は忌地であり通常不用意には近づいてこない。

もちろんそれでも討伐の邪魔をするため王都に潜んでいる間者はいるが、一度目の討伐の時に顔を見せた人間は全員国王と騎士団長に報告して調査してもらっていた。


男の視線は明らかにナターシャ様とレイのいる方角に向いている。


「ナターシャ様に何をする気だ!」


窓を開けてナターシャ様のところまでの道筋を確認する。屋根の上を行けば地上に降りるよりもかなり早く到達できそうだ。窓枠に足をかけ、ドレスの骨組みとパニエが邪魔なことに気付いて脱ぎ捨てた。ドレスの裾は捲り上げて結び、ようやく足が自由に動くようになる。


「ソフィア、待て」


窓枠に手をかけるとキース様に呼ばれ、はっとした。また考えなしに駆けつけようとしてしまった。何度かそれで失敗しているのだが、ナターシャ様に危機が迫っているかと思うと冷静な判断ができなくなってしまう。


反省して振り返ると、キース様は腰に差していた剣を投げて寄越した。


「式典用だが刃は打ってある。俺は騎士団に情報を共有してから合流するから男を見張ってくれ。ホムラ、頼む」

「はいはい」


ホムラが剣に手を伸ばして魔力付与を行う。剣の纏う魔法が何重にも重なっていくのが分かる。


「あまり負荷をかけると折れるぞ」

「大丈夫だよ。おれを誰だと思ってんだ。靴脱げ」


言われた通りに高いヒールの靴を脱いで、パニエの裾を破って足に巻きつけた。ホムラはドレスの裾と布に状態硬化をかける。


「ついでにこれもな。よし、行ってこい」


ホムラは髪留めに指先で触れると、私の背を押した。髪留めにも何か付与してくれたのだろう。私は感謝の気持ちを込めて頷いた。


私は考えるより身体が先に動いてしまうため、細かい作戦や様子を見るような役目は苦手だ。それは一度死んでも変わらなかった。だからこそ私が余計なことに頭を悩まさずに、実力を発揮できるように舞台を整えてくれる仲間の存在ほどありがたいものはない。


「祝いの席だ。できるだけ隠密に処理してやる」


私は窓から飛び降りた。

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