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おさわりには制限時間を設けましょう

「……ヒナ。そうして魔力を吸収してくれるのはありがたいが、あまり無茶はしないでくれ」


「吸収?」


 クロの言葉に首を傾げる。


「ああ。先ほどからずっと俺の魔力を吸い取ってくれているだろう? ()()()()による痛苦が解消されて、俺は楽になるが————もしや無意識か?」


 ハテナを浮かべながら呆けていると、クロにも()()()()()()()()()が伝わったらしい。


「えーと……はい、たぶん」


 今現在何もしている意識はないので、何かしているというなら無意識なのだろう。


「体内になんらかの違和を感じるはずだ。——今もほら。手のひらに触れた部分から、熱を散らす大気のように、閉ざされた部屋の戸を開け放つように、ずっと魔力を吸収し続けてくれている」


「うーん……?」


 心配そうに近づけられた指先に、手を伸ばしてペタリと触れてみる。

 触れた手のひらからもドクドクと、いつも通り心地よい『ぬるま湯』の流れ込む感覚。


「あっ、()()が魔力?」


「ああ、おそらく。いくら魔力干渉を受けない存在だといっても、他者の魔力を取り込むのは相当な負荷だろう。制御できるのなら吸収を絶ったほうがいい」


「え? でも私が『吸収』をやめたら、クロはまた苦しくなっちゃうんですよね?」


「俺はもう慣れている」


 ……それは嘘だと思う。

 あんなに苦しげにうなされて、私が触れた途端ほっとしたように安らかな寝息を立てはじめるくせに。


 侵入者で窃盗犯の怪しい妖精もどきなんて、もっと自分に都合よく利用してしまえばいいものを。

 よくわからないけれど、痛苦を伴うという『魔力抑制』だって、周囲の人に魔力干渉とやらをしないためにやっているのではないだろうか。

 あまりにも自己犠牲的すぎて心配になってきた。


「やめ方もわからないし……それに、大丈夫ですよ! 全然嫌な感じはしないです! むしろ、ぬるめの温泉みたいで気持ちいいくらい」


 大きな指先に頬をすり寄せる。

 ……うん。温かくて穏やかで、不快感や身体に害を及ぼされそうな感覚なんて微塵もない。


「そんなにも親和性が高いのか?」


 壊れ物にでも触れるかのようにそろそろと頬を撫でられて、くすぐったさに目を細める。

 そんなに不安そうな顔をしなくても、私はなんともないから安心してほしい。


「……もう少し触れていてもいいだろうか?」


「ふふっ、いくらでもどうぞ」







 つんつん

 ふにふに


「小さい……、やわらかい……」


 ………………


 なでなで

 すりすり


「可愛さには上限がないのか……?」


 ………………

 …………

 ……



「あのー、まだですかね……」


 頭を撫でまわされてぐらぐらと首を揺らしながら、いい加減げんなりとした声が出る。


「すまない、もう少しだけ」


 この答えを聞くのも、もう何度目になるだろう。

 誰だ、「いくらでもどうぞ」なんて言ったのは。


 触れ方は優しく紳士的だけれど、ずっと触られている頭と顔と腕に関しては、たぶん一回りすり減った。

 この分では消えてなくなるのも時間の問題である。


 だらんと下げた手のひらをすくい取られ、大きな指先と握手握手。


「こんなに小さくてどうして動けるんだ……」


 さあねぇ……。


 クロの四本指を背にして座椅子のようにもたれかかった私は、遠い目をして飽くなき触れ合いの終わりを待つのだった。





 ようやく撫でるのをやめたらしいクロの指先が、たすき掛けにしたリボンの裾をちょんとつつく。


「これはプレゼントの包みに使っていたものだろう。身につけるほど気に入ってくれたのか?」


「え? あー、えーと……」


 リボンを握りしめ、後ろめたさに視線を泳がせる。

 ちらりと至近にあるクロの顔を見れば、表情は険しくともその瞳の穏やかなことがよくわかる。


 疑われるより、信じられるほうが辛いこともあるもので……。


「う……、その……これでフルーツを背負って、ドールハウスまで持ち帰るつもりだったんです……。すみません……」


 まさに犯行計画の自供である。

 なんでも食べていいと言ってくれた心優しいクロに対し、盗難を(くわだ)てていた自分。

 なんて酷い対比だ。


 私はもう申し開きの言葉もなく、ガックリと項垂れて両手首を差し出した。


「? 何をしているんだ?」


「どうぞ、縄でも手錠でも……」


 さすがに私サイズの手錠はないかもしれないけれど、毛糸の一本でもあれば十分縄代わりになるだろう。

 ああ、いっそこのリボンを使ってくれたっていい。


 呆気に取られたように目を瞬いたクロは、おかしそうに口端を上げ……てないかも。気のせいかも。


「ヒナを()()()()()()()()()()というのは魅力的な申し出だが、あいにくこちらが礼をしたい立場なのでな」


 私だってそんな申し出をした覚えはないのだけど!?


「そんなにフルーツを気に入ったのなら、ヒナ用にも盛り合わせを用意しよう」


 専用のフルーツ! ——いやしかし、今の私にはフルーツよりも切実に欲しているものがある。

 このチャンスを逃せば、もう手に入らないかもしれない……。


「……あのっ! 図々しいお願いをしてもいいですか!?」


「なんでも言ってくれ」


「お、お水を一杯いただきたいです……っ!」


 寝起きから、喉が渇いて渇いて辛い! もう耐えられないっ!!


「——ああ、あのドールハウスは水が出ないんだったな」


 こくこくと頷く。

 明かりも火もつくのに、水だけは出ないのだ。


「下水道の設置が困難でやめてしまったんだ。水だけ出ても、流れる先がなくてはどうしようもないから——と、そんなことより水だったな。隣の部屋にあるんだが、一緒に行くか?」


「! 行きます! 行ってみたいです!!」


 前のめりになってぶんぶんと頷く。

 この夢の空間はどうやら、この部屋より外側にも広がっているようだ。

一回りすり減ったヒナ……?

タイトル回収完了(*`・ω・)ゞ

いざ、部屋の外へ!



次回更新は~、今夜!٩( ᐛ )و

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