黒サンタとルイザ
『黒サンタとルイザ』
今日でクリスマスまで二十日を切った。十歳の少女、ルイザはベッドの中に入り外の音に耳を澄ましていた。外からは草や葉っぱが擦れる音が響く。そして、怒鳴り合う男同士の声が聞こえ、布団を頭まで被り、耳を塞いでルイザは眠りについた。
次の日。朝早く起きて、ルイザは母のスカートの裾を掴み、昨晩の喧嘩の事を話した。
「あら、まぁまぁ。もしかした誰かが怪我をしているかもしれないわ。様子を見に行きましょう」
そう言ってトナカイ小屋の方に向かう。すると、黒いフードを被り、地面に転がった三十代ぐらいの男がいた。ルイザと母は走り寄り、男に声をかける。
「大丈夫?」
「ああ。大事ない。ありがとう」
男を家に連れて帰り、ベッドに寝かす。男は衰弱していたから、パンとスープを手渡す。男の近くには白い袋が落ちていた。どうやら、男の私物のようだ。男は何度もお礼を言った。外見に似合わず、礼儀正しい。ルイザは男に好意を持った。
「ルイザ、おじさんの手当てをするから、桶に水を入れてタオルと包帯を持ってきて」
ルイザははーいと返事をして井戸まで走って行く。そして、桶に水を汲み、家まで運ぶ。
「お嬢ちゃん。すまないな。ありがとう」
男は服を脱ぎ、ベッドの上で上半身を起こした。母が男の体を拭いていく。男は何も言わないが、時折小さく声を漏らした。拭き終わると母は男の様子を観察して包帯を巻いていく。一通り作業を終えて母は部屋を出ていく。男はルイザを呼び、白い袋を持って来させる。
「お礼だ」
そう言って、袋から大量のジャガイモを取り出す。
「わぁ。シチューがたくさん作れるわ」
ルイザはジャガイモをスカートの上に置き喜んで母の元に向かう。
「お母さん。今日はシチューにしよう」
数日後、男の容体が良くなり、ルイザは男をトナカイ小屋に連れて行った。男は片手に白い袋を持っている。
「見て。おじさん」
ルイザは一頭のトナカイにキスをして鼻面を撫でる。
「ほぉ。立派なトナカイだな」
「名前はポインセチアと言うのよ。見て。鼻が赤いでしょう。だから、ポインセチアと言うの」
男は袋から鞍を取り出し、ポインセチアに乗せる。そして、家の周りを走る。まるで、風のように駆ける。
「凄いわ。おじさん」
ポインセチアから降りてルイザに近づく。
「看病ありがとう。私は黒サンタのニコラウス。兄の赤サンタのニコラウスと喧嘩してね。どうして何時までも黒サンタなのかとね。未熟さを怒られたんだ。その時、持っていたトナカイを取り上がられてしまってね」
「まぁ。可哀そう。おじさんはサンタクロースなの?」
男はにっこり笑う。
「そうだよ。でも、黒サンタだ。悪い子に罰を与えるサンタだよ」
ルイザは肩に手を置き、ぶるっと震える。
「なんて、恐ろしい」
「でも、ルイザはお母さんのお手伝いもよくするし、何より私によくしてくれた」
ルイザは得意げに胸を張る。
「当然よ。だって、私はルイザ。良い子のルイザよ」
男は頷きながら、白い袋に手を入れて白いテーブルクロスを取り出す。
「お礼にどんな食べ物でも出してくれる魔法のテーブルクロスをあげよう」
ルイザは早速、テーブルクロスを机の上に置き、「朝食を出して」と言った。すると、どうだろう。あっという間にパンと牛乳とヨーグルトが出てきた。
「本当に魔法のテーブルクロスなのね。凄いわ」
ルイザは手を叩いて喜んだ。そして、ポインセチアにまたキスをして手綱を男に握らせる。
「お礼にポインセチアをあげるわ。サンタクロースと言えばトナカイだもの」
「本当かい?それは嬉しいよ。ありがとう」
黒サンタの男、ニコラウスは袋から黒い上下の服を取り出して身に纏う。そして、ポインセチアの鼻面を撫でて跨る。
「はいよー」
と一声をかけるとポインセチアは駆けだした。風が逆巻き、ルイザは目を閉じる。ニコラウスとポインセチアは風に乗って消えてしまった。
「あの人は本物のサンタクロースだわ。このテーブルクロスが証拠よ」
ルイザはテーブルクロスを持って母の元に向かう。訳を話すと、母は男の正体に驚き目を瞬かせた。そして、テーブルクロスを机の上にひき、御馳走を出した。
「今日はクリスマスだから貧しい人達を呼んで御馳走しましょう」
そう言って、母はルイザを村にやり、貧し人達を呼んで席に着かせて御馳走を振舞った。それから、ルイザ一家は裕福になった。でも、貧しい人達に対する心遣いは忘れなかった。