殺し屋さんと出会いましたー殺し屋sideー
殺し屋side
ただ殺したいだけだった
ー殺し屋sideー
1章「出会い」
いつも通りの日常でつまらなく、ただ、惰性で生きてた僕がとあるネットの個人チャットで
死にたいと呟いている少女に出会った。
「殺してさしあげます」
と非日常を味わいたくて書いてみた。
それから連絡を取るようになった。死にたいと毎日言う彼女、メッセージ上では優しく接してたが、内心、さっさと自分で死ねばいいのにでも死ぬ気ないんでしょ?と思っていた。
今日は初めて会う日。僕は、本当に殺す気で待ち合わせ場所に来た。
トントンと方を叩いたら振り返る彼女。小柄ですぐ壊れそうな細い腕に足。
「君がるあさんかい?」
「はい」
今から殺されるというのに、普通だった。真っ黒な暗闇を持った瞳をしていた。
「普通にしてるね、怖くないの?」
「はい」
彼女は淡々と答える。
「んー…おいで」
「はい」
僕は何を思ったのか、足を進めた先が何故かショッピングモールだった。
「好きな服選びなよ」
「え?」
彼女はキョトンとした。何を言ってるんだろう。今から殺されるというのに。と思ってるんだろう。
「んー…こっちがいいかな、いやこっちも…」
「あの、その、」
「ん?あー名前?こーくんでいいよ」
「いや、そうじゃなくて」
それ以上何も聞いてこない彼女。
大多数の人間ならこの状況なら色々と聞いてきそうなのに彼女は違った。
ただ、真っ暗な瞳を持ち色も変えず、淡々としていた。
「はい、着替えて」
「はい」
綺麗でお似合いですね!とショッピングの店員さんが褒める。
「あ、はい」
彼女は本当に死ぬ気らしい。どんなに店員さんが褒めても瞳の色は変わらなかった。
「行こっか」
会計を済ませた僕は、彼女を連れ家に帰った。
ガチャ
生活感のない綺麗な部屋。
「ねぇ、なんで今日来たの?」
と聞くと
「死にたいから」
と彼女は答えた。
僕は思ったまま伝えた
「ねぇ、ごめんけど、僕は君を殺せない」
「だって君は既にもう死んでるから」
2章「人形」
「だって君は既にもう死んでるから」
その言葉でしんと静寂が広まった。
僕は一呼吸置いて続けた
「君はまるで人形みたいだ。
されるがまま。感情の起伏もない、意思もない、それで生きてると言えるかい?」
なんでこんなこと言ってるんだろう。殺すつもりだったのに。
そう思いながら言葉を紡ぐ。
「君の目は死んでいる。恐怖の色も感じれない、ショッピングの時もそうだ、ただただその場しのぎの笑顔を出しただけ。自分の意思ではない。」
「そんな君を僕は殺せない。だって死んでるから。でも約束だろ?殺すってだからまず生きてみろ、そしたら殺してあげる」
「わかった」
淡々と彼女は答えた
なんでこんな約束をしてしまったのか、なんでこんなことを言ったのか僕でもわからなかったが、もう少し彼女を見てみたいと思った。
3章「過去」
あの日から奇妙な彼女との二人暮しが始まった。
ある日唐突に僕は、
「るあはなんで殺されたいの?」
と聞いた。
「それは…」
とたんたんと話していく君がいた。
「そうか。それで死にたくなったの?」
僕はきく。
彼女は疫病神だから。みんなを不幸にする。生きているだけで邪魔な存在。大切なものも全部自分で壊した。そんなものが生きてはいけない。そう、生きてはいけないのだ。
と言う。
「それってさ、るあは死にたいわけじゃないよね」
「るあは、死にたいと自分で選択してる訳じゃなくて、死ななきゃいけないと義務化してるだけだよね」
「るあはしたいことがあるかい?」
「…。わかんない」
そう答える君を置いて、僕はふとあの事故のことが頭をよぎった。
僕が子どもの頃。両親とドライブをしていた。
だが、相手の酒気帯び運転での交通事故で両親は他界した。
僕だけが生き残ってしまった。
それ以来色んな親戚のところをたらい回しにされた。
その度に人の顔色を伺っていたら、いつの間にか自然とその人の考えていることがわかるようになった。
人間は所詮上っ面だけで生きている。
それか僕の学んだこと。
だからネットにハマった。
だけどやっぱりそこにも言葉だけのやつが大勢いた。「死にたい」と簡単に言葉に出す人々。僕の両親は簡単に死んだ。だから許せなかった。上っ面の「死にたい」が。
4章「自分」
彼女との毎日はたんたんと過ぎていった。
ダラダラとテレビを見たり、ゲームをしたり、一緒にご飯を作ったり。
ある日何も聞かない彼女が聞いてきた
「ねぇ、なんでこーさんは、何も要求してこないの?」
僕は答えた。
「だってるあはるあだから。」
そう言うとほんのりだが笑顔が見えた気がした。ニコリとも笑わない君が、死んだ目の君が少しづつだが変わっていってるのがわかった。
最近じゃよく質問もするし、ゲームをしてて負けると落ち込んだような顔をするようになった。本人はまだ気づいていないみたいだが、人形だった彼女が少し人らしくなった。
とある日僕は言った
「るあ、出ていってくれ」
彼女はぼろぼろと泣き出した
「なんで、どうして、やっぱり私は邪魔なんだ、いない方がいいんだ、やっぱり」
「ふっっ」
なんだか嬉しくて笑いが込み上げてきた。
「嘘だよ」
ぽかんとする彼女
「初めて泣いたね、どうだった?」
「わかんないです…。でも、何故か止まらなくて」
「それがるあなんだよ」
僕は優しく彼女の頭を撫でた。大声でなく君を見てなんだかほっとした。
最初のうちはなんでこんなことをするのか分からなかった。さっさと殺すつもりだったから。
だが、彼女の瞳は僕とよく似ていて、そして、何故かひかれた。本当に非日常を味わいたかっただけかもしれないが、それでも僕は最初は非日常だった日々が日常に変わっても彼女を捨てようとは思わなかった。
彼女と出会って僕の心も変化したのかもしれない。そう思った。
5章「別れ」
僕はいつもいう
「したいことをしろ、しなきゃいけないじゃなく、したいと思うことを考えろ」
彼女は一生懸命に考える。自分を見つめることは大変だ。だけど諦めなかった。そんな彼女が生き生きとしてて輝いて僕には見えた。
「そろそろかな…」
と言うとかのじょは聞いた
「そろそろって?」
僕は立ち上がりベランダに行き言った。
「お別れだ。」
「え?」
ぼくは目を瞑りできるだけたんたんというようにした。
「これは、冗談じゃないよ」
「僕はもう君を殺した。だからさよならだ。」
そう言って今日は寝た。そして朝、彼女の寝顔を見ながら静かに警察署へと向かった。
6章「生」
僕は自首をした。最初はそんな気はなかった。殺して見つかったらゲームオーバーその程度だった。
だが、彼女と暮らす中で、彼女が必死に変わろうとする姿を見てきた。
僕も変わらなきゃと思ったのだ。
ふと思った。あの時なんで殺さなかったのか。それは彼女が本気で死ぬ事を考えていたからだ。惰性で生きてる僕からしたら、ちゃんと命と見つめてる気がしたのかもしれない。一生懸命に生きたからこそ、どうしようもなかったからこそ死にたかったんだろう。
そう思った。
君が変わっていくのを見ていて、こんな僕にも人の心をうごかせることを知った。僕はその事実があれば、もう満足だと思った。
彼女とすごした日々はとても当たり前の日常だったが、生きている感じがした。ちゃんと人と向き合った気がした。
ある日刑務所に彼女からの手紙が届き返事を書いた。
「君は僕が殺しました。死んでいる人形のような君を殺しました。今君は大変かもしれない。生きるってことは辛いことと隣り合わせだから。だけどるあ、るあはるあだから。勝手なお願いかもしれないけど、僕との生活を忘れないで欲しい。」
世間一般的には僕は排他されるべき存在なのかもしれない。だが彼女は僕に、「ありがとうございます」と言ってきた。僕は生きててよかった。ちゃんと人と向き合ってよかった。そう思わせてくれた彼女のことを僕は忘れない。
ここまで最後まで読んでくださってありがとうございます!
2つ視点で書くのは大変でしたが楽しかったです。