カフェを開きましょう。
男の勝機とは、ざっくり言えば別館でカフェを開くことであった。
カフェを開き、さまざまなお菓子を広め、食事の奥深さのほんの少しでも伝えていけたのなら、この世界での、娯楽面での文化水準も上がり、美味しいモノを食べたり、作ったりすれば、子供達の笑顔も増え、アリスティアの願いを解決できるかと考えたのである。
現時点で、食事面の方は、確認出来ていないが、お粗末なスイーツ事情は把握できたため、男は勝機を感じていたのだ。
と言うのは建前で、男の本音は違った。
カフェを開き、店が繁盛しさえすれば、従業員が必要になり、それを口実に、麗しいロリータ達に、従業員をやってもらいたかったのだ。
従業員をやるにしても、男が調理全般をこなせるため、ウェイトレスとしての起用が好ましい。
そうすると、ノエルやリリムと言った、極上ロリータ達に、可愛らしい格好や、際どい格好をさせる大義名分が出来るのだ。
さらに、同じ時間を共有する事も出来、要するに、可愛い格好の、極上ロリータ達を、四六時中眺めまわしていたかっただけなのである。
女神のお願いとかは、深くは考えておらず、あの場での熱も収まり、聞いていた内容だけでは、状況が判然としないため、まずは情報を集める事と、趣味を満たす事を優先していた男であった。
ひと通りの質問を終えたあと、夜交は何かを考えるように黙り込んだ。
はたから見れば、真剣に未来を考慮しているように見えるだろう。
しかし、夜交の変態性を唯一知るリリムだけは違った。
リリムの瞳には、姉を守るための覚悟を決めた強い光があり、今は椅子に浅く腰かけながら、真剣な表情を浮かべていた。
その頃、自分の世界に没頭していたポンコツガールは、周りが静かすぎる事で、正気を取り戻したのか、お澄まし顔をすると、音を鳴らさぬよう、何事もなかったかのように、カップをソーサーに置いていた。
そんなノエルの癒される姿を、男は横目で見やると、内心で暴れる歓喜を押し殺し、表面は真剣に見える表情で、相談を持ち掛けた。
「エドガー様、シルヴィア様、提案があるのですが聞いてもらえますか?」
夜交の瞳は誠実そのもので、エドガーは気まずそうに瞳を逸らし、シルヴィアは軽くうなずいた。
「提案というのは、先ほどの別館の方で、私たちの世界にあったカフェを開きたいというものです。」
「まだ、どれほどの食材やお菓子があるかは、把握出来ていないのですけど、焼き菓子を見るに、需要はあると思うのです。」
「「「かふぇ?」」」
「かふぇという、聞きなれない言葉に、フォーチュン一家は、仲良く揃って言葉を返していた。
どうやら、全ての言葉が翻訳されるわけではないようであった。
あまりにも揃った動作で、同じような表情を一家が浮かべるモノだから、男は緩みそうになる口元をどうにか引き締め、疑問を解消するかのように、説明を続けた。
「申し訳ございません。 こちらにはない言葉だったんですね。」
「カフェと言うのは、給仕がお客さんに対して、お茶や軽食やお菓子などをふるまって商売をするものです。」
「私も、身1つでこちらに来たものですから、働く手段と寝床を確保しなければと、思って、提案させてもらいました。」
男はすまなそうな表情をしながらも、淡々と言葉を続けていた。
彼の表情には、悲壮感などなく、楽観的とも取れる余裕も浮かんでいた。
「アリスティア様には、この家にお世話になると聞いていたのですが、年頃の娘さん達がいらっしゃる家に転がり込むのも憚れるので、教会にお世話になれないか、伺おうと考えていたのです。」
「特に、エドガー様の深い愛情を見てしまっては、気も変わりまして、ノエルさん達の心労を減らすためにも、境界に、他の住居を提供してもらえないか、この後打診しに行こうと考えていました。」
「ここには通いになるとは思いますが、いろいろと、お世話して頂けると、ありがたいです。」
夜交は、深々と頭を下げながら、丁寧に話をしていた。
ロリータ達との時間は、流石に惜しいモノがあるが、これからの人間関係を考えると、異性でもある自身は、一線引いた方が良いと思えていたのだ。
そんな説明に、シルヴィアは、驚いた顔をすると、隣の夫を激しくにらみつけた。
彼女が、内容を咀嚼するまでは、しばらくかかっていたが、表情を豹変させると、声を荒らげていた。
「あなたはッ、異世界から来られたお客様に失礼を働いただけでなくッ、必要な説明すらしていなかったのですかッ!!」
この怒り方は、ノエルによく似たもので、温かみと心に満ちるやさしさがあった。
エドガーは、気まずそうにしていたが、さらに身を縮み込ませるとまたもや言い訳を始めた。
「すまない。 元宮さん。 説明をすっかり忘れていた。」
「別館の2階は、来客用のスペースとなっていて、君にはそこにしばらくいてもらうこととなっていたのだ。」
どうにもエドガーの悪びれることのない説明は、夜交には不快には響かなかったようであるが、女性陣には違った。
ノエルは、一瞬父親を悲しそうににらんだあと、静かに目を逸らしていた。
今日だけでも、仲良くなった夜交に対して、失礼を重ねているのに、反省すらせず、対応を続ける姿は、彼女の心を傷つけるには充分であった。
警戒心バリバリだったリリムでさえも、夜交に同情の視線を向けていた。
アリスティアから、事情を聞いている1人であり、彼が身1つでこの世界に訪れた事を知っている彼女は、姉よりも世間の厳しさを知っており、何も持っていない夜交を、そのまま野に放つような、父親の所業に、思う処があったのだ。
そして、女王様の視線は射殺すようなものになり、笑顔がまた怖くなった。
なんかすっごい怖くなった。
明らかに場の空気は、エドガーの発現以降重くなっていた。
と言うよりは、もう誰も声を発していなかった。
会話をしていた夜交でさえも、あまりにも女性陣から剣呑な雰囲気が漏れていたため、口をつぐんでしまっていた。
そんな空気に耐えかねたのか、エドガーの瞳には、涙が浮かび、心からの謝罪を始めた。
やっぱり、自覚はあったようである。
「まことに申し訳なかった。」
「身1つで、こちらに来てもらって、不安だったであろうに、こちらの気遣いがまったく足りていなかった。」
「いくら私が、娘たちのことで頭がいっぱいだったとしても、元宮さんのことを考えなくてよいことにはならない。」
「先ほどまでの失礼な態度も含めて、心から謝罪させてもらう。 申し訳なかった。」
彼の言葉は尊大であったが、エドガーの表情や声音は真剣で、本当に反省している様であった。
エドガーは、神妙な顔で、深々と頭を下げながら、夜交への非礼をわびていた。
しっかりとした反省を見せたエドガーの態度を見届けた家族は、ほっとした息をついていた。
危うく父親の大切なものがいろいろと、なくなる所であったようである。
夜交自身は、述べたことは特に裏やエドガーへの謝罪を求めるものではなく、アリスティアなら、生活基盤くらいは保証してくれると楽観的に考えていて、まったく他意はなかった。
男と女神との雑談の中では、彼女が、「生活には苦労させませんよ。」と、ヒモ男を飼うみたいな、発現をしており、その時のアリスティアのドヤ顔が、どうにも不安ではあったが、世界を渡るなら、もうどうにでもなぁれだった男の頭からは、思考力が落ちていた。
あんな白過ぎる空間に呼び出したり、脳内に直接話かけたり、男を異世界に転移させたりと、超常を見せつけられ続けた男の濃は緩んでしまっていた。
あのポンコツ女神を挟むと、物事がろくなことにならないのかもしれない。
そんな緩み始めた空間に、シルヴィアの申し訳なさそうな声が響いた。
「元宮様、度々申し訳ありませんでした。」
「あとで夫には、分からせておきますので…、かふぇ?の続きを聞かせてもらえますか?」
分からせておくとは、一体、何なのかは、精神衛生上考えない方が良さそうであるが、シルヴィアの疑問調の一言は、年齢と見た目にそぐわず、あどけなかった。
若干、舌っ足らずに「かふぇ?」と問いかける様は、男の胸を貫いていた。
不意打ち気味に、ロリータ要素をぶつけられた夜交は、少々硬直していたが、こっくりと頷くと説明を続けた。
決して、「分からせておく。」にビビッた訳ではない。
「こちらの食文化がどこまで進んでいるかは分かりませんが、お菓子文化には明らかな遅延が見えます。」
「私も下手の横好きで、お菓子をよく作ってはいたのでこちらにある食材などを見せてもらえれば、このクッキーは簡単に作れると思います。」
「また、他にもレシピがありますので、いろいろ試してみてもよろしいでしょうか?」
男は、大皿で数が少なくなっているクッキーに目を向けながら、説得を試みていた。
しばらくの間、カップを舐めるだけであったノエルは、男の視線に釣られて大皿の上を確認すると、泣きそうな顔になっていた。
紅茶が届くまでは、我慢していたのに、ろくに食べる事なく、またクッキーがなくなろうとしているのである。
先程、ムッとして部屋を出て行ったのは、クッキーをエドガーが1人で食べきった事もあるのかも知れない。
「まずは、試作品を作って、フォーチュン様方に味見をしていただいて、判断してもらえるとありがたいです。」
そして、ゆくゆくは、別館の方で、カフェの試験運用や、お知り合いの方への試食会などまで、出来ると形になると思うのですが。」
「もちろんですが、その結果を見てからで良いので、考えてはいただけないでしょうか?」
まだ、信用も実績も足りていない男であるため、軽い実績を積みながら、信用を勝ち取ろうと考えていたのだ。
別館で、カフェを開くにしても、家賃などは交渉の予知があるが、材料費や、夜交の生活費なども考えると、大きくは出られなかった。
お菓子類も、実際に食べてもらえれば、勝てる見込みもあっての発現であった。
夜交は、欲望に濁った瞳を煌めかせると、1番通したい願いを告げた。
「それと、このカフェをやるにあたって、給仕をノエルさんにやっていただきたいのです。」
「初めの方は、私1人でも回せると思うのですが、いずれ手が回らなくなると思います。」
「そんな時に、ノエルさんやリリムさんに手伝ってもらえると助かると思ったのです。」
当のノエルと女性陣は不思議そうな顔浮かべ、エドガーの眉間には不快しわができていた。
可愛くて可愛くて仕方がないノエルに給仕などさせようとは、どういった了見かと。
そんな一家に話を通すべく、男はさえずった。
「ノエルさんは、こんなにもお美しいのに、心は天使のように清らかで、そのうえ、情に厚く、初対面でオロオロするばかりだった私にも広い心で接してくださいました。」
「私は以前にいた世界で、こんなにも素晴らしい女性には会ったことがありませんでした。」
男のストレートな讃美に、エドガーは、当然だろうと言わんばかりな、尊大な態度で、あごを持ち上げ、先を促しており、話の中心たるピュアガールは、また顔を真っ赤にしていた。
現実的な思考を持つシルヴィアとリリムは、話の流れを待つように、黙って調子を上げる男を見つめていた。
そんな彼らを見つつ夜交は続けた。
「ですが、この純真無垢さも危ないと感じるのです。」
「私のいた世界では、心が優しすぎると、損をすることや取り返しのつかないことに巻き込まれることが多いようにみえました。」
「こちらの世界でも、私の世界程荒んではいないでしょうが、さすがに心配になりました。」
「ですので、目の届く範囲かつ、安全な環境で社会勉強をしてもらえないかと思ったのです。」
夫妻は、真剣に考え始め、小悪魔はいぶかし気な視線を夜交に向け始めた。
確かに、箱に厳重に梱包されて外をフィルタなしに見て来なかったノエルは、実際に外に出すと、取り返しのつかない事態に巻き込まれてもおかしくない。
現に、男の真っ向からの讃美だけで、ノエルは、可愛らしいポカン顔で硬直している。
途中で回旋がショートしたのかもしれない。
少しの沈黙のあと、夫妻が瞳を合わせると、エドガーが、「考えさせてほしい。」と申し出ていた。
夜交も、深く頷いた後例を述べていた。
リリムも、保留の流れには賛成なのか、なにも口をはさむことはなかった。
こうして、フォーチュン一家との初顔合わせは終了した。
ちなみに、阿呆面をさらしていた少女は、母親に揺られて正気を取り戻すと、無言のまま、下を向きカップを見つめる事となった。
読んで下さって、ありがとうございます。
なんとっ、ブクマを1つもらえたんです。
さらに、ポイントまでもらえるとは、思わず感動しちゃいました。
0と1では全く違いますし、ノエルの限りなく0に近い胸板と、リリムの前途溢れるロリぼでーでは、天と地ほどの、隔たりがあります。
そんな事は置いておいて、ブクマとポイントを下さった方、ありがとうございます。
まだまだ、のんびりと更新していきますのでよろしくお願い致します。
「なろうラジオ大賞2」の方も1つ挙げましたが、もう閃きが来ません。
「偽物」って聞いて、初めに思いついた内容で書いたんですけど、後付けは難しいですね。