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ロリータっていいですよね。  作者: くれふじ
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ロリータ・ティータイム

 フォーチュン夫妻が戻ってくるまでは、さほど時間はかからなかった。


 リリムがおこなっていた、遅延策は効果的に働き過ぎていたのかもしれない。


 夫妻が戻るまでに、ノエルが父親の事を、すまなそうに謝って来たりもしていたが、銀髪ロリータに、浮かない表情をさせる男ではないため、早々に謝罪を打ち切ると、別の話題を振っていた。

 夜交は、ノエルが、通りで話したそうにしていた、店の下りを振って、にこやかに相槌を打っていた。


 彼女への接し方が、少々分かってきた男であった。


 その頃妹は、紅茶も両親も待たずに、大皿に盛られた焼き菓子にぱくつきながら、ちょこちょこと話題に混ざっていた。

 ノエルが補完できない所に、ニヤニヤの笑みで言葉を足しては、愉悦に浸っている。


 この家の中でも、小悪魔は、最も自由人と言っても過言ではない振る舞いを見せていた。



 クッキーにかぶりついている妹を、物欲しそうに見つめるノエルは、、見た目よりもあどけなく見えて、その視線に気付いている小悪魔は、実に美味しそうに、サクサクッと快音を鳴らしている。


 夜交は、愛らしく我慢しているノエルを見かねて、声をかけていたが、固い笑顔で、彼女は断っていた。


 会話を続けている内に、彼女達も、警戒心が薄れて来たのか、ノエルの無表情に近かった表情からは険が取れ、リリムも冗談混じりのからかいを飛ばすようになっていた。



 そんな、極上ロリータと過ごす時間は男には幸福に過ぎた。



 彼女達は、3人でテーブルを囲みながら談笑しており、姉妹が机の左右の短辺に腰かけ、男はその間に挟まれるよう、1人で長辺に座っていた。

 男の正面には、2脚の椅子が仲良く置かれ、さっきまでエドガーが、そこに立っていた。


 この部屋に設えてある椅子には、それぞれクッションが置いてあり、動物の毛のようなものを、柔らかい布で包んでいるモノである。


 日本の化学繊維で造られたクッション達とは違い、座り心地はイマイチなものの、自然の温かさがあった。


 部屋の隅に寄せてある椅子にも、しっかりとクッションは置いてあり、同じように、客人を迎える用途の、別館にクッションがなかったのが不思議ではある。


 あの落ち着いた配色を保つために、あえてインテリアの1部として取り入れているのならば、ギリギリ分かるのであるが、嫌がらせで片付けさせていたならば、彼の器が悲しく思える。


 もし、男を歓迎しないとの意思表示で、その行動を彼が取っていたならば、素直に片付けを手伝い、寒々しい部屋で、不安に押しつぶされそうだったノエルが、どうにも可愛そうである。



 気遣い屋さんなノエルは、入り口近くに陣取って、いつでも母親を手伝えるように、ちょこんと座っている。


 一方リリムは、窓際の温かい日差しの注ぐ場所にふんぞり返り、クッキーの載った大皿を、手元に引き寄せ、口をもぞもぞと動かしながら、濁った瞳で姉を見つめていた。



 そんなロリータ達との癒しを男が味わっていると、トントンと軽いノック音の後に、仏頂面でティーサーバーを握ったエドガーと、その後ろから微笑んだシルヴィアが入って来た。


 夫妻は立ち上がろうとする長女を手で制すると、テーブルの中央にサーバーを置いて、男の正面に腰かけていた。


 シルヴィアは、「お待たせして申し訳ありません。」と笑顔で声をかけ、次女の近くに引き寄せられた大皿から、クッキーが目減りしている事を全く笑っていない瞳でしばらく見つめると、、そのままリリムに視線を移し、無言のまま、口元だけで笑った。

 明らかな殺気に、小悪魔は顔の筋肉を総動員して笑顔を作ろうと、何事もなかったかのように、サーバーの隣に大皿を押しやっていた。



 テーブル上に置かれた、淹れなおされたティーサーバーは、おいしそうな湯気を立てており、ベルガモットのような、華やかな香りを立てている。

 香りは強すぎることはなく、上品な香りであった。


 中に満たされた茶は、鮮やかな紅を輝かせ、澄み渡っている。


 サーバーの底に、茶葉が沈殿している事もなく、茶こしないし、茶葉自体が上等品の可能性が高い。



 次女の様子を満足そうに確認した人妻は、サーバーを持って立ち上がると、各々の前に置いてあるカップに茶を注ぎ始めた。


 彼女は、茶を注ぐ際に、ソーサーに裏向きで置いてあるカップを元に戻し、丁寧にゆっくりと茶を注いでいた。


 偶然か必然か、正面に腰かけていた男の眼前では、シルヴィアの豊満な双丘が跳ねるように揺れ、覗く胸元から、純白が垣間見えていた。


 茶を注ぐ事に集中している彼女は、まったく気付いておらず、リリムからはじっとりとした視線が男に向けられていた。


 その動作は、エドガー以外で繰り返され、様々なアングルで、無意識的に人妻の人妻を、男に見せつけていた。


 先程、カップとサーバーを片付けたのに、サーバーしか持って来なければこうなるのは必定である。

 サーバーを運んできていたエドガーは、妻からの裏切りに、涙目になっていた。



 そんなエドガーに頓着することはないシルヴィアは、、「改めて、よろしくお願いしますね。」と微笑むと、カップと大皿を手で示しながら、説明を始めた。



 「この茶とお菓子達は、アリスティア教会で造られているんですよ。」

 「時々、アリスティア様、直々にご神託があって、便利な道具や美味しい物が広められるんです。」

 「このお茶とお菓子なんて、ほんの少し前に出回り始めたばかりで、美味しくて、良く飲んでるんです。」



 彼女は、アリスティアに陶酔でもしているのか、熱っぽい口調で話していた。


 転移前に、女神が言っていた事の一端が見えたように思える。



 ニコニコと童女のように微笑むシルヴィアは、、茶を音をたてずに1口すすると、夜交にも茶を勧めた。


 夜交も礼を返し、ためらいなく茶をすすった。



 口の中に広がった茶は、紅茶であった。

 より正確に言うと、市販品でも、喫茶店でもおなじみの、アールグレイであった。

 名前の由来に、所説云々あるアールグレイであった。


 彼女の話では、この茶が広まったのは、最近らしく、何故アリスティアがフレーバーティーから広めたのかが不可解であった。


 紅茶と1言で言っても、大きく分類するならば、茶そのものを味わうモノと、香りを付けて味わうモノがある。


 前者には、オリジンティーとかピュアティーと呼ばれる、茶葉の原産地を統一したモノや、ブレンドティーと言って、原産地などの統一はないが、茶葉に香りを付けず、茶葉そのものの香りを楽しむモノがある。

 これには、ダージリンとかキーマンなどの、初心者にも飲みやすいすっきりした渋みの少ないモノと、低地で栽培されたディンブラやアッサムなどの渋みの強い低価格帯のモノがある。


 後者には、フレーバーティー(着香茶)があって、一般的なアールグレイやアップルティーやジャスミンティーなどがある。


 数ある紅茶の中でも、何故、アールグレイが選ばれているかは分からないが、教会で製造されているとの事であるため、女神の浅い知識の結果なのかも知れない。



 茶葉の本来の素晴らしさを味わうならば、果実の精油を用いて香り付けしたフレーバーティーよりも、ダージリンなどのストレートな茶葉をまず味わってもらいたかった。

 アリスティアの采配に、若干の苦々しさを覚えた男であったが、出された紅茶は、男が普段飲んでいる低価格艘の紅茶よりも美味しかった。



 また、1口にアールグレイと言っても、メーカーごとに、味はまったく違うもので、様々な紅茶を飲んだことがある男にはすぐにわかった。


 仲には、香り付けをし過ぎて、何を飲んでいるか分からない茶であったり、逆に、アールグレイですか?と缶に問いかけたくなる茶もあった。


 そう、ペットボトルとは違うのだ。



 今飲んでいる茶は、イギリスにある、老舗ながらも、高くはない値段で味わえる紅茶のような味がしていた。

 その店の有名所だと、皇太子にちなんだ名前のモノだったり、アールグレイをベースに、ヤグルマギクとオレンジの果皮を用いて着香した茶などがある。

 深めに淹れて、男は常飲していた。



 男がそんな益体もないことを考えながら、恍惚とした表情を浮かべていると、うれしそうな表情を浮かべたシルヴィアが、「お口にあったようで良かったです。」と微笑んできた。


 ノエルもリリムも紅茶が好きなのか、うっとりと香を楽しみながら飲んでいる。


 綺麗な姿勢で椅子に腰かけながら、紅茶を嗜む銀髪ロリータの姿は、絵になっていた。

 香りを楽しむように、瞳を閉じて、緩やかにカップを傾ける様は、思わず茶葉に転生して、彼女の1部になりたい欲を抱かせる。


 黒髪ロリータは、母が茶に気を取られているタイミングを見計らっては、大皿からクッキーを摘み取り、少し齧っては、茶をちびちびと流し込んでいた。

 よほど舌が敏感なのか、茶の熱さに、怯えながら茶をしばく様は、とても子供っぽかった。


 ここに、楽園ユートピアはあったのだ。


 1人、世界から取り残され、ディストピアしているエドガーもいたが、男は努めて見ない振りをしていた。



 紅茶を飲んで、安らいだ笑みを浮かべる人妻は、そのままテーブルの上に載った皿を手で示すと、「こちらもおいしいので。」と勧めてきた。

 大皿の上には、こんがりと焼かれ、小麦の良い香りのする長方形に切り分けられたクッキーがあった。


 クッキーは、粉砂糖やザラメやチョコなどのデコレーションがない素朴な仕上がりで、香ばしそうな表面とは違い、断面は妙に白かった。


 男が、薦められるがままにクッキーをかじると、小麦の芳醇さが口腔内に広がった。


 それは、素材本来の主張が素晴らしく、香ばしい小麦味であった。

 砂糖の量は少な目で、卵やバターなどの油脂類は入っていないようで、クッキーと言うより、日本で言うビスケットのようであった。

 海外では、また違う解釈もあるが、日本で言うビスケットみたいな触感であった。


 薄焼きであったため、まだ固めの触感ですんでいるが、これをクッキーと言い張って、流布した女神に、男は軽いイラ立ちを覚えた。


 使用されている小麦粉の分類まではわからないが、小麦に水と砂糖と少量の塩を加え、しっかりとこねた後、焼き上げた、最初期のような、どこからレシピを持って来たのかと言う程に振るいレシピのビスケットのような味である。

 小麦粉に、水をある程度加え、しっかりとこねると、粘りが出て、硬めの触感となるのである。


 特に、強力粉や際強力粉などの、グルテンの含有量が多い粉を使うと、クッキーはさっくりとした触感になるのだが、これをこね過ぎると、台無しになる。

 強力粉は、普段はパンなどに使われ、クッキーには基本的には用いないが、以前に流行ったスノーボール(ブールドネージュ)などに用いると、よりさっくりとなる。


 この粘りは、薄力粉のような、グルテンの少な目の粉でも言えて、男が以前食べたビスコッティを彷彿とさせた。

 ビスコッティは、ビスコッティで、ひたすらこねるお菓子ではないが、とにかくしっかりと焼くため、固いのだ。

 ビスコッティのように、あえて、しっかりと焼いて、ナッツの香りや共に楽しむ茶やワインなどを考慮して造っているならまだしも、このクッキーもどきは、紅茶と比較すると、仕事があまりにも雑に思えた。



 女神らしきものに焼き菓子の知識がなかったのか、基礎から入れていこうとしているかはわからないが、素朴に過ぎる味であった。


 現代日本に市販されている商品で例えると、月明りみたいな名前の、バターの効いたクッキーではなく、野生に目覚、ワイルドライフを謳歌するマリーちゃんみたいであった。

 それも、鬱陶しい程に、ギラつく太陽に焦がされた、かなり日焼けしたマリーちゃんみたいであった。


 味事態は、素材の味もあって素晴らしいのだが、様々な甘味を、日本で味わってきた男には物足りなかった。



 クッキー?をかじって、男がいぶかし気な顔をしていると、シルヴィアが不安そうに問いかけてきた。



 「クッキーの方は、お口に合いませんでしたか?」

 「こちらも、紅茶と同じく最近に出回ってきたものなのですが、果物やハチミツなどの甘味しかなかった私達にはとても新鮮だったんです。」



 試案にふけっていた男が意識を戻すと、申し訳なさそうな顔をするシルヴィアと驚いた表情を見せる姉妹の顔が写った。


 ノエルの照れ顔や少し怒った顔は、見れていた男であったが、今のような驚いた表情は初めてであった。

 口は小さく空いており、唇についたクッキーの破片がチャーミングである。

 小さな口の中には、真っ白な歯が見え、ピンク色の口腔内が、艶めかしく見える。


 夜交が呆然と、ノエルの顔に見とれていると、リリムから、愉快気な声が飛んできた。



 「お兄ちゃんったらまたお姉ちゃんに見とれちゃってるね。」

 「そんなに真剣な顔でお姉ちゃんを見つめ続けるから、お姉ちゃんの顔がだんだん赤くなっちゃテるじゃん。」



 リリムの指摘の通り、ノエルは恥じらいに満ちた顔をしており、夜交から顔を逸らして気を紛らわせるためか、茶をすすっている。


 そっぽを向きながら、恥じらう彼女も愛らしかったが、こてりと首を傾けながら、問いかけて来る幼女からの問に答えるように、男は顔を向けた。



 「お兄ちゃんの口にはこのクッキーって合わないの?」

 「私達の世界では、これってすんごいびっくりするもので、まだあんまり手に入んないんだよね。」

 「お兄ちゃんの世界にはもっとすんごい食べものとかあったのかな?」



 リリムの革新を就いてくるような質問は、夜交にもありがたいもので、弁明を始めた。


 あんまり手に入らないモノと知っていて、甘味が好物の姉の前で、煽るように味わっていた小悪魔は、流石である。



 「このクッキーがおいしくなかったということはないのです。」

 「ただ、素朴な味がしたもので、少し面食らってました。」

 「と言うのも、こちらの紅茶の方は、私の世界で常飲されている質と遜色なかったので茶菓子も同じようなものかと思っていたのです。」



 この話には、夫妻も興味があるのか真剣な顔となっている。

 さっきまで顔面で、虚無を体現していたエドガーは現世に帰って来たようである。



 一方、自身の世界に飛び込んで浮かんでこないピュアガールは、空のティーカップをすすっているのにすら気付いていない。


 リリムは満足そうな顔でノエルを見つめている。



 こんな姉妹たちに慣れてきたのか、そのまま夜交は、話を続けた。



 「私の世界では、バターや鳥の卵を使ったものもありますし、この小麦粉以外の粉を使って焼き上げる菓子もあるのです。」

 「私も趣味でいろいろ作ったりしていましたので、少し知識があります。」

 「ですので、いくつか聞いてもよろしいでしょうか?」



 夜交の質問の結果、次のことがわかった。



 この世界では、お菓子文化はほとんど進んでいない。


 女神らしきものの神託は、生活面の充実が最優先であったため、娯楽などは後回しにされたそうだ。

 男の感じた街のちぐはぐさは、トイレや鉄製品の加工技術など、現代日本と変わらないものもあれば、服装や、装飾品などは、現代の質には届いていないところからきているようだ。


 そのため、お菓子文化も未発掘の領域であり、真似をしようとしているものはいるが、この質にすら届くものはいないそうだ。


 教会も、信者への対応や日々の労働があるため、娯楽にさける時間は少ないとのことで、なかなか新しい商品は出ないらしい。

 商会がクッキーのレシピや販売権を買い取ろうとしても、教会も利権を手放したくないのか、貴重な収入源がなくなるのが困るのか、どちらもおこなっていないそうである。


 その結果、娯楽文化の発展は滞っているようである。



 男はそこに勝機を見出した。



 今日も読んで下さってありがとうございますっ。

 昨日書こうと思っててた話題なんですけど、忘れてたんで今書きます。


 1週間が経つのが早いのは、それだけ1週が充実していた。との暖かい言葉を書きたかったんです。

 とあるゲームの大体、木曜の16時にやってるニュースのコメントにあって、感動しました。

 そのニュースの頻度が、短く感じおれば、感じる程、じゅ充実してるんですかね? (裏覇者を上りながら)


 雑談は、これくらいにして、またまた「なろうラジオ大賞2の作品を投げました。

 もう飽きるまで続けると、思います。


 今回は、「伝説」と「聖女」で書きました。

 なんとファンタジーなのでしょう?


 今回はきっとひねくれたり、悪趣味ではないです。 たぶん‥。


 「聖女」の方のあとがきに、いろいろ書いてるので、読んでみて下さい。 (ダイマ)


 長々とうっとうしいあとがきを読んで下さって、ありがとうございます。

 今後とも、よろしく、お願い致します。

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