表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリータっていいですよね。  作者: くれふじ
6/104

エドガー・フォーチュン

 3人が、別館の扉をくぐると、大通りは、相変わらず、大勢の人達が、老若男女関係なく、自由気ままに行き交っていた。

 その通りは、活気に満ちて、この街の活発さを物語っている。


 ただ、今の男は、前を歩くノエルを見る事に集中しており、周囲には関心がなさそうであった。

 通りを歩いて行く人々には、リリムまでとは言えないが、充分に愛らしいロリータも、明らかに何か抱えてますよと言わんばかりの、淀んだ表情のシスター服姿の人間もいたが、男の脳は、情報を受け取る事を拒否でもしているかのように、前を歩く少女に集中していた。


 そんな、揺れる銀髪を追うのに忙しい男は、陽光に煌めくその白銀を、生え際から、毛先まで、記憶に焼き付けるかのように、首を忙しなく縦に動かしながら眺めていた。

 正面や横からは、充分に彼女を眺める事が出来ていた男であったが、後ろからのアングルは、ノエルが照れで背を向けて以来拝めていなかった。

 そのため、日焼けを知らぬ、透き通るような項も、ほのかに実り始めた、まだ薄いヒップラインも、胆のうするかのように、じっとりと見つめていた。

 惜しむのならば、彼女の露出度が低い服装のため、前からでは思わず撫でたくなるだろう鎖骨や、後ろからでは、腕を動かす度に、魅惑的な曲線を変化させる肩甲骨が拝めない事が心の残りではある。


 この偏執的な男の視線には、ぽけーっとしている当人は微塵も気付いておらず、彼の斜め後ろから、咎めるような視線が飛んでくるだけである。



 母家と別館は、直接は繋がっていないのか、玄関扉を出て、ノエルが開いた小さな門を通り抜けると、転移後に、男の見た風景があった。


 転移地点であった、薄暗い路地は、明るい所から見つめると、妖しい雰囲気が漂っており、他者に気付かれないよう配慮した女神の采配は、この点だけは、グッジョブと言っても良いのかも知れない。


この街に、衛兵やそれに類する治安維持組織があったのならば、薄暗い路地から、挙動府不振に出て来た男が、何をするでもなく、ただ茫然と風景を眺めていれば、通報された可能性が高い。



 男に続き、リリムも通りに出た事を、横目で確認したノエルは、微笑みを浮かべると、ふわりと髪を揺らすよう、後ろを向くと、、弾んだ声音でこの辺りの説明を始めた。


 「この通りはブリュー通りと言って、このウェルシュで1番人が通るんですよ。」

 「それで、このあたりは特に栄えている区域で、私たちのお父さんのお店もあるんです。」


 自身が大好きな街の紹介をできて嬉しいのか、ノエルはニコニコと、後ろ手を組んで、話し続けている。


 暗い部屋の中に、ほのかに差し込む陽光の中、拝む彼女の表情も素晴らしいモノがあったが、温かな太陽の下で眺める彼女の美しさは、また違う印象を与えていた。


 箱入りも箱入りな彼女であるため、溺愛している父親には、もっとこの輝きを、ウェルシュ所か、大陸全土に広めるためにも、もっと自由を与えてあげて欲しく思える。


 「それでですね、私の大親友のアイリスちゃんの家も少し離れたところにあるんです。」

 「私とおんなじ年で、小さいころからよく遊んでるんですよ。」

 「アイリスちゃんは、リリムをもっと元気にしたみたいな娘なんですけど、なぜかとっても仲良しなんです。」

 「私が同年代で仲がいいのは彼女ぐらいなんですが  それは、置いておいて。」


 ノエルは、こぼれんばかりの笑顔で親友の話をしていたが、しまったっ という顔を一瞬浮かべていた。

 話に詰まった部分は、仲が良い人間が、1人との部分であったものの、彼女はそれほど気にしている様子はなかった。


 よほど親友の娘の事が好きなのか、喜々とした様子で話しをしている。


 その話題の中で、、言外に、リリムが元気過ぎると言っているノエルであったが、小悪魔は、話題にしてもらえただけで、、こちらもこちらで嬉しそうである。


 ノエルの満面の笑顔はなりを潜めた者の、ニコニコとした表情が崩れることはなかった。

 そのまま、何事もなかったかのような態度の彼女は、実に嬉しそうに、この街の紹介を続けた。


 「他にはですね、、お父さんと特に仲がいいお店が2つあるんです。」

 「このウェルシュでも、私達のお店を入れたその3つのお店が…。」


 ノエルの口調はどんどん早口になり、しゃべり慣れていない感じが出ていたが、それも可愛らしく見えるのは見た目か仁徳か?


 このノエルの語りを、申し訳なさそうにリリムが断ち切った。


 「すっごい話たいのは分かるんだけど、お姉ちゃんは、お母さんたちのことわすれてない?」


 リリムの言葉で気付いたのか、ノエルは悲しそうな顔をすると、無言で母屋の方に体を向けて、顔を俯けると、小さな声で恥ずかしそうに「忘れてました。」とつぶやいて歩き始めた。


 とぼとぼと歩みを進める彼女の後ろ姿には、好物を取り上げられた小動物が、諦めきれない態度を示す様子が重なり、小さな罪悪感と、それを遥かに上回る快感が男と小悪魔を貫いていた。

 歩き始めるノエルの姿を見る2人の顔には少しの罪悪感と、それを遥かに凌ぐ程の、小動物を愛でる恍惚とした表情が浮かんでいた。



 好意的にかつ、内面を知らずに見れば、かなり上機嫌なだけの満面の笑顔の幼女と、どう好意的に見ても、明らかに不審者な笑みを浮かべている妖しい男を、引き連れたしょんぼりガールは、ほんの少しの距離を、歩き、母家の門の前に立っていた。

 改めて見る母家は、別館より1周り大きな建物で、来客をもてなす用途の別館とは違い、生活感がいたるところに沁み出ていた。

 同じ時期に建てられたであろう2棟であるが、やはり使用頻度の高い母家の玄関扉は、少々くたびれて見える。

 門から玄関までの石畳は、頻繁に踏まれているのか、表面がくすんでいる。

 門の割きには、立派な庭が広がっているが、端の方では、雑草達が日光浴に勤しんでいる。

 通りから見える所には、洗濯物はさすがに干してはなかったが、別館で感じた雰囲気とは違い、母家は温かい雰囲気に満ちている。

 隣合って立つ2棟は、家庭的でうっかり屋なノエルと、表面を繕う事が上手いが、芯が通っているリリムのように見えて、仲良し姉妹みたいに並んでいる。



 母家の外壁は、別館よりはしっかりとした造りで、1m程の高さの石造りの兵の中央に、鉄製の、ウサギのレリーフをあしらった門が構えられている。

 ウサギのレリーフは、背を向けるよう、ちょこんとお座りしており、愛らしい瞳をこちらに向けている。

 ウサギの耳は、ピンっと元気よく跳ね、もこもこの尻尾や、ふにふにの後ろ脚がチャームポイントとなっている。

 瞳の色だけは、鉄色の門の中で、唯一色付けされており、深紅の双眸が、鮮烈な印象を与える。



 このような印象的な風景があれば、頭に残ってもおかしくはなかったであろうが、転移して間もない必死な男の頭には欠片も残っていないようで門やそのウサギを、まじまじと、細部まで観察していた。

 緻密に造られたレリーフから、鉄製品の加工技術の高さと、ノエルがトイレからお出ましした際の、肺水温などから、それなりの技術の発展がある事が伺える。

 また、舗装された街路や、ゴミのない通りや、孤児や浮浪者の影がない事を見ると、ある程度の文化水準も感じられる。



 男がウサギに釣られ、思わず周囲まで観察してしまっていると、ギシリとの重い音と共に、門扉が開かれていた。

 ノエルは、清められた石畳の上で、呆ける夜交を気遣わし気に見やった後、玄関扉へと歩いて行った。

 外壁や、門扉はもちろんであるが、周囲と比べても大きな母家に加えて、一般家庭の家屋を凌ぐような、別館を備えたこの家は、かなり裕福に思える。

 手入れされた芝のようなモノもそうであるが、実用面以外にも、それ以外の、外面に費やせる資金力があるように見える。

 やんちゃを体現したかのような、薄汚れた格好をしているリリムはともかく、清楚可憐なノエルは、深層のご令嬢と言われてもあっさり信じてしまいそうである。


 男の先を歩んでいた彼女は、玄関扉の前で立ち止まると、くるりと嬉しさを表すよう、、夜交の方を向き、はにかみながら、小さくお辞儀をして、改めて彼を迎えるのであった。



 男が玄関の扉をくぐると、12畳程度の大きなホールが広がっていた。

 玄関ホールには、ライトブラウンの床材が用いられ、明るい雰囲気をかもし、来客を笑顔で迎え入れてくれるようであった。

 光を反射する床材に誘われて、頭上を向くと、ホールの天上には、華美な装飾のない、柔らかな明かりを届けてくれるシャンデリアが吊るされていた。

 別館のように、ここには採光用の窓はなかったものの、明るい色彩で統一された空間は、心を落ち着けてくれる温かみがあった。



 目を奪われていたシャンデリアから視線を外した男が正面を向くと、2人の天使の絵が飾られていた。

 1人は、輝く銀髪を後ろに流し、恥じらいに染めた顔を浮かべているが、もう1人の手を柔らかく、愛おしそうに握っている。

 もう1人は、満面の笑顔をこれでもかと浮かべ、短い黒髪を跳ねさせながら、こちらまで笑顔になりそうな表情で、瞳を輝かせている。

 2人は、おそろいの純白のワンピースを纏い、この家の庭であろう緑輝く上にいた。

 陽光を煌めかせるエメラルドの上には、2脚の椅子が置かれ、片方にはノエルが腰かけ、リリムは立ち上がっている。

 画家の要望か、家族の要望かは分からないが、2人ともが裸足であり、各々の生足を見せつけている。

 姉と一緒に描いてもらえる事が、よほど嬉しいのか、リリムは足裏をチクチクと刺してくる植物など気になっていない表情で、姉を引っ張っており、ノエルは困った笑顔を浮かべているものの、お姉ちゃんらしい、柔らかな微笑みを浮かべている。

 絵画とは思えない程美麗に描かれたその絵は、彼女達の魅力を存分にアピールしている。

 絵の中の2人は、絵に見惚れている男を恥ずかしそうに見つめるノエルや、その姉をニタニタと見つめるリリムよりも、あどけなく見える。

 今の2人と、見比べると、絵の方が、若干幼く見え、今も昔も変わらないであろう幸せな雰囲気が伝わってくるようである。



 あまりにも絵を凝視したまま動かない夜交に、ノエルがか細い声で、動くように促すと、男は辺りを見回して、ノエルに焦点を合わせた。

 この天使過ぎるフォーチュン姉妹の肖像画が飾られている玄関ホールには、絵以外には、7つの扉と、2階とを繋ぐ階段があった。

 声をかけたノエルは、頬を朱に染め、絵の右の扉を無言で指さしている。

 どうやら彼女は、あの絵が恥ずかしいようで、先に進めと無言で訴えている。

 だが妹は、そんな姉を愛おしそうに見つめて動かなくなっていた。


 ノエル以外は、実に楽しそうである。



 そんな動かなくなった2人に諦めの表情を浮かべ、ノエルは話を進めようとしていた。


 「あんまり、お父さんたちを待たせると、可哀想なので、行きますね。」


 無言の訴えを、あっさりとスルーされた銀髪ロリータは、諦めて声をかけると、緩慢に扉に向き直っていた。

 しかし、ノエルを愛でる事に集中している2人は、聞こえない振りを通していた。


 「右奥に応接間があるので、そこから見ていっていいですか?」

 「もうだいぶ待たせちゃったので、お母さんたちもどこかに行ってるかもしれません。」


 そう告げると、もう彼女は後ろを振り向く事はなく、すたすたと件の扉へと向かって行った。


 そんな庇護欲と嗜虐心の相反する感情を掻き立てるノエルの仕草や表情に、男が動けずにいると、ちょいちょいとズボンの引っ張られる感覚があった。

 男が斜め後ろを向くと、リリムが何か言いたそうな目で、男を見つめていた。


リリムは、真剣な表情を作ると、男に釘を刺した。


 「わかってるよねお兄ちゃん。  いくらお姉ちゃんが可愛くても、何かしようとしたら、どんな手を使っても阻止するからね。」

 「まぁ あのお姉ちゃんだから恋愛だのはないと思うけど、わかってるよね?」


 リリムはそれだけを言うと、男を軽く睨んでから、速足で、スタスタと歩き始めた。



 姉想いな妹に、夜交は気圧されたものの、歩き去る2人に贈れないよう、足を進めようとした処で、小悪魔が突然振り向き、いたずらっぽい表情で話しかけてきた。


 「あの2階の階段の先にある部屋ってなにかわかる?」


 男が突然の問に、呆然としていると、リリムはニタニタと意地の悪い表情を浮かべ、そのまま、固まった男の回答など元から聞く気はありませんでしたよと言わんばかりに楽しそうに続けた。


 「2階にはね、私とお姉ちゃんの部屋があるんだよ。」

 「特にお姉ちゃんの部屋はね、同性の私でもクラクラしちゃうくらいいい匂いがしてるんだよね。」


 その香しさを思い出してでもいるのか、リリムは溶ろけそうな、淫靡な笑顔となっていた。

 彼女は、トロトロの顔の中に自慢げな色を浮かべると、くるりと背中を向けて、何事もなかったように姉の背中を追いかけ始めた。

 その背中は、実に清々しく、鬱陶しい程に晴れやかであった。



 そんな小悪魔の、澄み渡る愉悦とは真逆に、男の心は欲望に濁り始めた。

 もう何度も、彼女達の愛らしさをぶつけられているため、今の発現が気になって、気になって仕方がないのである。

 想像のきっかけを与えられれば、ノエルの部屋も、もちろん気になるし、小悪魔ガールの部屋も深呼吸しに行きたくなってしまう。

 いくら想像を重ねた処で、年頃の美少女の部屋の香を嗅ぐなど、天変地異程の、ミラクルコミュニケーションを起こすか、お縄につく覚悟を決めるしか思いつかない。

 もしかしたら、階段下までいけば、香しい香りの1片でも味わえるかも知れないが、リスクとリターンが見合っていない。

 近づくだけでリリムには怪しまれるだろうし、ノエルにもいらない詮索をされるかも知れない。

 男の妄想は広がっていくものの、実物を味わえない蛇の生殺し状態であった。


 夜交は、解決しようもない妄想に、泣きそうな顔で見切りを付けると、玄関ホールを横木言って扉に近づいて行った。

 苦渋に歪む男の顔を、小悪魔は肩越しに見やっており、ノエルはちょうど、件の扉をノックしていた。


 慎ましやかな音ながらも、透き通るようなノック音に、ノエルの思慮深さが見える。

 3度のノック音の後、夜交に接していた時よりも、幾分柔和な声で、彼女が中に呼びかけると、低いながらも、柔らかさを感じさせる男の返答が聞こえて来た。



 3人が中に入ると、艶のない銀髪をオールバックにした、30中盤くらいに見える男性が仁王立ちで構えていた。

 男性は、部屋越しに響かせた穏やかな声音からは、想像できないような、険しい表情で男を睨んでおり、全身から緊張感を発散していた。

 部屋の中には、応接用と思われるローテーブルや椅子が鎮座しているが、今にも噛みついて来そうな男性が立っているだけで、歓迎する気がない事が伺える。

 大き目に取られた採光用の窓からは、部屋の雰囲気を和らげようと、温かい日差しが差し込んできているが、高い位置から注ぐ陽光によって、彫りの深い男性の顔面を、より凶悪に照らしている。

 そんな男性の体は、細くはあるが、しっかりと筋肉がついており、下半身と二の腕の発達具合が著しかった。


威圧感を出していた彼は細めていた瞳を、いきなりだらしないモノに変化させると、強張らせていた表情すら崩壊させ、夜交などいないように、愛娘達に声をかけ始めた。


 ただ単に、落差がキモかった。


 「ノエル、それにリリムも出迎えに向かってくれてありがとう。」

 「お父さんは、ちょっと待つ時間が長かったんで、お菓子とかお茶とか全部食べてしまったんだ。」

 「申し訳ないが、シルヴィアを呼んでくるついでに、茶菓子とかの準備を2人で手伝ってきてくれないか?」


 イカつい顔面から、無駄に低い猫なで声を出した男性は、ノエルとリリムを交互に見つめながら要件を告げていた。

 言葉を告げた男性の前のローテーブルの上には、茶器やら皿が並べられていた。

 男性が立つテーブルの近くには、1組のカップとソーサーに、1人用とは思えない、大きなガラス製のティーサーバーが置いてあった。

 そのどちらもが空になっており、カップには水滴が垂れている。


 男性が座っていたであろう椅子の他には、ローテーブルを囲むように、4脚の椅子と、壁際に1脚の椅子が置いてある。

 椅子の前のテーブルには、逆さにされたカップが、ソーサーに綺麗に並べられて、空のサーバーのせいで、物寂しさをかもしている。

 夜交の来客を見越して、用意してあったモノであろうが、夜交に対しては、剣呑な雰囲気を隠さない男が片付けたようである。


 その他にも、お菓子のクズみたいなものがのった大皿があり、男性がひまを持て余していた様子が見える。


 応接用に用意してあったのであろうが5人前を食べきるとは、よっぽどである。



 こうした空間を見て、リリムは、面白そうなものが見れそうだとニヤニヤとしていたが、姉は見咎めるよう、父親を見ていた。

 ノエルは、父親の使った茶器と皿を脇に置いてあったお盆に、そそくさと乗せると、リリムの手を引っ張って、無言で部屋を出ていった。


 この際の、リリムの勿体なさそうな表情は、だれに見とがめられることもなかった。


 2人が部屋を出ていく寸前に、「あと、シルヴィアに、そんなに急がなくていいからと伝えておいてくれないかな?」との男性の声が響いたが、少しムッとしたノエルは反応せず、リリムが満面の笑顔で頷いていた。


 こうして、応接室からは、癒しは失われた。



 姉妹が元来た扉から出ていくと、オールバックの男性が、再び表情を険しくしながら話始めた。


 「初めまして。 私は、エドガー・フォーチュンと言う。」

 「異邦人度の、女神さまからは話は聞いているが、娘たちを省いて話しがしたかったため、こうさせてもらった。」

 「気分を悪くさせてしまったなら申し訳ない。」


 エドガーは、まったく悪びれた様子を見せず話しかけていた。

 歓迎する態度など一切見せず、男をもてなす道具は、エドガーが早々に片づけてしまっていたのだ。


他にも、ノエルがこぼした事から類推すると、彼が別館の方にも手を回し、殺風景な出迎えを指示していたようである。


 エドガーの様子は、初対面の右も左もわかってない人間に対するには、刺々しかった。

 可愛くて可愛くてしょうがない愛娘を心配していたからこその態度であったが、事情を上手く把握していない男に対しては、あまりにも失礼であった。


 いくら女神からのお願いであったとしても、意味の分からない理由で、どこの馬の骨とも知れぬ男と、世間知らずが服を着て歩いている絶世の愛娘を、2人きりで会わせて欲しいなど、アリスティアの信用があったとしても、エドガーには看過できない内容であったのだ。

 ノエルは、この家の中でも、人を疑う事を知らず、純真も純真であるため、あまりにも長い町時間に、痺れを切らせて、用心のために、リリムもけしかけていたのである。

 それでも、2人共、なかなか帰ってこないものだから、彼はじれに焦れていた。


 そんなエドガーの内心には、まったく気づかず、つっけんどんな態度で接されたため、夜交の態度も硬化した。

 彼は、湧いてきた怒りを出さないように、慇懃無礼に言葉を返していた。


 「丁寧に過ぎるご挨拶ありがとうございます。」

 「こちらこそ初めまして、異邦人の元宮 夜交 と申します。」

 「元宮が姓に当たりますので、そう呼んでもらえると助かります。」


 夜交は、初対面からあからさまな敵対心をぶつけられたため、隠す事のない皮肉で返していた。


 接する片方がいら立ちを覚えているならば、よほど慣用な人間でなければ、もう片方も怒りを抱くのは仕方がない。

 まだ、エドガーの心に余裕があったのならば、違った出会いもあったであろうが、ほとんど最低とも言っていい、初対面を迎えていた。


 エドガーは夜交を睨んだまま仁王立ちし、夜交は、不敵な笑みを浮かべたまま様子を見ている。



 表面上は取り繕おうとしているのだが、どちらとも不器用なのか、結局ギスギスしている。

 少しの沈黙の後、エドガーが話始めた。


 「ああ こちらこそよろしく頼む 元宮さん。」

 「ノエルやリリムに失礼な態度はなかったかね?」


 エドガーは、怒りでこめかみを引くつかせながら問いかけていた。

 絶対にそういう事がないと確信している問いかけには、「気味が失礼をしなかったのかね?」と言外に告げているようであった。


 「いいえ。  滅相もございません。」

 「ノエルさんには、とても丁寧に出迎えてもらえて、心が洗われましたし、リリムさんには、茶目っ気たっぷりに接してもらえたので、緊張がかなりとれました。」

 「そのおかげか、話が弾んでしまい、ずいぶんとお待たせしたようで申し訳ありません。」


夜交は思い出すかのように、斜め上を向きながら、嫌味な程の笑顔を浮かべると、ゆっくりと、丁寧に言葉を返していた。


 こちらもこちらで、謝っているのに、謝っていない。

 そんな捻くれた男は、笑顔のまま皮肉を飛ばし続けていた。


 「娘さんたちを見ているとずいぶんと、お母さまの教育が素晴らしいのだと感じました。」

 「奥様は、よほどの人格者なのですね。」


 夜交は嘘にならないように、ある意味言葉を選びながら、様子を伺っている。

 言葉の端々で、父親をあおるのも忘れていない。


 ロリータと言う、最上級の緩衝材を置かずに、娘を溺愛しすぎている父親と、それに近づく馬の骨を置いたら、こうなってもしょうがないだろう。



 エドガーは、怒りを隠す気が失せたのか、夜交をあからさまににらみながら、強い語調で単語を強調するように、応答した。


 「それはとても良かった。」

 「常識もない異邦人が、愛娘達に危害を加えているのではないかと気が気ではなくてね。」

 「いくら女神様から、直々に頼まれたとしても、異邦人のほうは信用が微塵もないからなっ。」


 ノエル達が帰ってこない時間は、エドガーから、余裕の一切を失わせていた。

 言葉の表面だけは、丁寧そうに聞こえなくもないだろうが、2人はなるべくして、敵意溢れる応酬を始めていた。


 もし、男がもたつかず、男がリリムに興奮しなければ、もっと円満な形の初対面となったかもしれない。

 女神らしき奴が、いらない気を回して、別館で合わせるプランなど立てなければ違ったのかもしれない。


 しかし、無理を通してしまえば、どこかで歪みが出てしまうのは必定で、不毛な争いへと繋がっていた。



 そのころリリムは、時間を引き延ばすためにいろいろやっていた。

 元からギスギスしそうな空気を感じていた小悪魔は、先ほどの恨みがあったのか、少しのイタズラがしたかったのかは分からないが、わざと沸かしたお湯をこぼしたり、茶葉を見えづらい位置に隠したりと、正反対の方向に、全身全霊の努力をしていた。


 そのため、ピリピリした、男たちの空間が続いていた。

 成人男性2人が、やり合う様は、どう見ても、子供の喧嘩にしか見えず、ちっちゃな小悪魔の手の平の上で、ころころされている様で、実にご迷惑なリリムであった。



 その後も、いくつかのやり取りは、男たちの間で続いてはいたが、お互いの心の距離は離れていく一方で合った。

 エドガーは、相変わらず仁王立ちで、腕まで組んで獰猛な笑みを浮かべて応対している。

 それに相対する夜交も立ったままで、あざけるような笑いで応答している。



 そんな不毛なやり取りは、ドンドンという無邪気なノックの後に、霧散することとなった。

 大きなノック音と同時に、間髪を入れずにリリムが扉を全開にしたため、立ったままにらみ合った男たちは、3人の女性の怪訝な瞳に見とがめられることとなったのである。



いつも読んで下さってありがとうございます。

今回も、なんやかんや長くなりましたね。

それと、別件なのですが、好きな著者さんが、「なろうラジオ大賞2」の話をされていて、衝動的に3つ書きました。

コメディを狙えそうなキーワードを選んだのですが、私の素が沁み出てしまいました。

個人的には、「文学少女」のモノがお気に入りで、「牛乳」のは意味が分からないです。

「おにぎり」に至っては、皮肉の塊みたいになっちゃいました。

はよ、続き修正せぇやって声は聞こえません。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ