男の口癖
「2次元の銀髪ロリータと仲良くなりたい。」
「仲良くなれなくても、会えるだけでもいいから、機会が欲しい…。」
男の口癖はこうであった。
周囲の人間や親類縁者はこれを初めて聞いたときは、目をむくほど驚くものの、これが繰り返されれば、こんな者だと割り切ってスルーするようになる。
気を揉んでくれる家族からは、たまに注意は飛んでくるものの、飽きれの方が強くなっているため、流す事が多くなっている。
あまりにも無意識的につぶやいているため、男の意識に口癖を発している自覚はほとんど昇っていないが、その独り言が周囲の人間にもたらす感情は、気持ち悪いや妄執が宿ってるなどの、負の印象である。
仕事面や、性格免が多少良くとも、このような欲を抱いている人間と、関わろうとする危篤な知人はいなかった。
これが男の日常であり、同好の士であれば、この気持ちを分かってくれる者もいると男は勝手に考えている。
しかし、今の所理解者は現れておらず、男の交友関係は家族と職場に限られていた。
職場では、仕事はある程度できるものの、考え方や性癖が合わない人間がほとんどであるため、腫れ物にでも触れるように扱われている。
もちろんであるが、交友関係も一切なく、昔に築いた友情も、夢幻のように過行く時間に押し流されていた。
自ら交友を保とうと、行動を起こしていれば、まだ違う結果にも至ったであろうが、もう男との友好を欲する友人はいなかった。
今は、幸いせまい部屋に1人きりであり、男の寂し気なつぶやきを聞いている生命体はいなかった。
そんな、少しズレた男の容姿は格好良くもなければ、不細工でもない、印象に残らないような顔立ちをしている。
ただ瞳は、世界へのあきれか自身へのあきれかわからないが、活力を失い暗く淀んでいる。
そのぼやけた瞳は、男の現状を痛いくらいに物語っており、現世での生きる理由がおぼつかなくなっている様である。
趣味に没頭している時間だけは、刹那的な楽しみを味わえているが、思考が現実に戻ると、生きていく意味を考えてしまう。
現在努めている会社は、ぬるま湯のような、やりがいはないが、給料や福利厚生はそこそこと、新しい職を探す程の飢餓感や不満感を与えては来なかった。
もしも、男の人生を搾取するだけの、ブラックな職場であれば、また違ったのかも知れないが、彼は現状を変えたいとは思えていなかった。
業務の中で、スキルアップをしたり、成果を出したりすれば、上司や同僚から褒められたりもするものの、今後の人生で、役に立つのかは分からない。
いつまでこの仕事を続けられるかも読めないし、かと言って、次にやりたい仕事や生き方も分からない。
数年に1人程度、夢を追って退職する同僚もいたが、その人達がこなしていた枠には、すぐに新しい人間が収まり、何事もなかったかのように、つつがなく業務が進む。
そんな、会社の仕組みを見ていると、自身が必要とされているかすら不明瞭になる。
夢や情熱があれば、退職した人達みたいに、若さに任せて、走れただろうが、そこまでの熱い感情も今の男にはない。
ただ淡々と、任された仕事をこなし、育ててくれた家族に心配をかけないようにとの、表面だけをなぞったような、虚ろな生き方をしてしまっていた。
そんな男にとって、現世での唯一の縁が2次元のロリータであった。
もしも、アニメやライトノベルと言った惜し気もなく時間を費やせるコンテンツがなければ、違った選択しも出ていたのかも知れない。
思いを募らせれば募らせる程、男の気持ちは現世への執着を失っていく。
世間への興味関心を無くしている男であるため、もしも、2次元への片道切符があったならば、難の迷いも見せずに飛びこんだであろう。
現在男が暮らしている部屋は、7畳ほどのリビングと、コンロ1つと何をすれば良いか分からないくらいに小さいシンクのキッチンがあり、その向かいに、せせこましい浴室と、ウォシュレットのついていない便器が鎮座するトイレが並ぶ、1Kの物件である。
男の強いこだわりで、風呂とトイレが別の物件を選んだせいで、古くて狭いアパートのわりに、家賃はそこそこであった。
玄関の小さな上り框の割きのシンクの隣には、5合炊きの炊飯器を載せたくすんだ白の冷蔵庫があり、洗濯カゴが載せられた、年季の入った縦型の洗濯機がぴったりと壁際に押し込まれている。
玄関扉から続く細い通路の先にある7畳ほどのリビングには、使い古された家具と、真新しい家電が混在していた。
リビングのコンセントの間近には、丹念に清掃された立派なオーブンレンジが設えられたキャスターつきの3段ラックがあり、一緒に使い込まれた茶器と安っぽいトースターが載せられていた。
1人暮らしの男にはふさわしくないであろう、綺麗に磨かれたオーブンのせいで、単身者らしくない雰囲気をかもしているが、その他の家具は雑であった。
部屋の中央には、細い鉄だけで支えられた丸テーブルが、威風堂々に居座って屋内の移動を妨げている。
その奥には、万年床のふとんが放置されており、枕の近くには所々の木がはがれ、クルリと丸まった木皮の目立つテレビラックが備えてある。
テレビラックには、年季の入った24インチの液晶テレビがあり、側面の端子には、複数のケーブルが繋がれていた。
ラックの上段には、ミニタワーのPCと、ワイヤレスのマウスとキーボードが無造作に収納してあり、それとは対照的に、下段には、購入特典の箱に詰められた円盤達が、丁寧に並べられていた。
購入しただけで満足なのか、ぎっしりと詰め込まれた円盤達には、うっすらとほこりが積もっている。
箱の表面で多種多様な表情を見せる美少女達の笑顔はそのままであったが、なんだか悲しそうに見えた。
そんな男の1人暮らしですよと言わんばかりの部屋にも、特に異様なものがあった。
それは、銀髪の幼い美少女たちが輝かんばかりの笑顔を浮かべあちこちを向いて愛嬌を振りまいてポーズを決めている集合住宅のようなカラーボックスである。
美少女たちは、様々なポーズで3段カラーボックスの天板の上から1番したの段まで雑然としながらも、一種の規則性をのぞかせるかのように佇んでいた。
その美少女たちは、様々な服装をしており、紺色のスクール水着と紺のオーバーニーソックスだけを纏ったアラレモナイ格好の者もいれば、生足を惜しげもなくさらしたミニスカサンタの者もおり、大きなリボンでツインテールを結っている巫女服姿の者や何故かデフォルメされていないいかついマグロのかぶり物までしたものと、より取り見取りである。
同じような顔立ちをした美少女達は、きらめいた表情で微笑んでいた李、恥じらいを隠しきれていない紅潮した照れ顔を見せていたり、是非ともお叱りを受けたくなるような、まなじりを釣り上げた愛らしい怒り顔をしていたりと、様々な表情で並んでいる。
1人1人は、魅力あふれる美少女なのだが、銀髪貧乳低身長ロリータばかりが騒然とカラーボックスいっぱいに並ぶ様は、嫌悪感を抱かせるには充分であった。
たまに訪れる両親は、じわじわと増え続けるロリータ達に、初めは苦言を呈していたが、スタンスを変える気のない男に、諦めを見せていた。
男は壁にかけられたデジタル時計の無機質な文字を見やると、会社へ向かう準備を始めるべく、トースターに4枚切りの食パンを入れて、キッチンから準備しておいた、温めたカップと湯気を立てるティーサーバーを運んできた。
サーバーには、濃く鮮やかな色の紅茶がなみなみと注がれており、気品あふれる香りを漂わせている。
男のこだわりで、ティーポットとティーサーバーを熱湯で温めた後、新鮮な水道水を改めて沸かし、茶葉を多めにして、淹れたお気に入りの紅茶であった。
男はカップに紅茶を注ぐと、ほのかな渋みの効いた味を堪能した。
カップの中身が、半分程になった頃、トースターから小気味良い音が響き、男は皿とバターを運んでくると、慣れた手つきでバターを塗ると、掌を合わせて、食事を始めた。
しばらくの間、朝のひと時を無表情で過ごしていた男は、「美味しい」とは呟いてはうたが、その声には覇気などなく、虚しさだけがあった。
男にとって、この時間は、もう当たり前になってしまっており、美味しいと言う感情は浮かんでくるものの、心を揺さぶってはくれなかった。
そのため、表情にも変化がなく、感情に揺れを起こしてもくれていなかった。
他に一緒に食事を執ってくれる者がいたり、男以外の人間が、料理を作ってくれたりしていれば、また違ったのかも知れないが、もう習慣化してしまっているため、変化させる気力も湧いて来なかった。
感情に揺れをもたらさない寂しい食事では、温かい料理を食べていても、心は全く温かくならず、冷めていくばかりである。
ほぼ無感情に紅茶を嗜みつつ、食パンをかじっていると、すぐに食べ終わってしまっていた。
食事をしている時は、無表情を張り付けていた男であったが、食器を片付け終わると、嫌な事でも思い出したのか、表情が崩れた。
そんな男は、気のすすまない表情で、ケーブルに繋ぎっぱなしのスマートフォンを握ると、連絡が来ていないかの確認を始めた。
画面には、家族からのメッセージがあり、仕事の要件ではなかった。
うんざりとした顔をした男は、手早く目を通すと、特に返事をする事もなく、電源を落としていた
要件を済ませた男は、テーブルにスマートフォンを放ると、表情を戻してスーツに着替え始めた。
彼がスーツに袖を通していると、特にお気に入りのロリータ達が並ぶ天板上の1人の銀髪ロリ婦警さんの帽子が落ちかかっていることに男は気が付いた。
慌てた表情を浮かべた男は、着替えかけである事にも頓着せず、カラーボックスに近づき、両膝を着いた。
その婦警さんは、腰に両手を当てながら、プンスカッとでも聞こえてきそうな愛らしい怒り顔をし、外気にさらされた生脚が眩しいミニスカポリス姿で、半袖のシャツから見える日焼け痕も良く造りこまれていた。
ぷっくりと膨らんだ頬はあどけなく、現実にこんな婦警さんがいるならば、逮捕者が続出しそうな程には可愛らしかった。
ほんのりと日に焼けた色白の肌と、揺れるスカートとまくれた袖から垣間見える無垢な輝きには、背徳的な魅力があり、思わず拝みたくなってしまう魔性があった。
ロリ婦警さんに、思わず意識を持って行かれていた男は、次は、くるぶし丈の純白のソックスと硬質な輝きを灯す黒の革靴のコントラストを嘗め回すように、体を左右に動かして堪能し始めた。
現在の男の表情は、先程までの、無気力なモノから、童心に帰った男の子みたいに、ギラギラした光を灯していた。
生脚を充分に味わった男は、跪いたまま、手を組み合わせると、何やら祈りを捧げてから、おもむろに天板に指をかけると、見下してくるその視線をまっすぐに捉えながら、今度はロリータの秘境を拝み始めた。
上下にせわしなく動くその瞳は、とても愉しそうで、男は今を生きていた。
まぁ、この行動を、リアルロリータにやらかせば、社会的に、即死待ったなしである。
顔色に、生気を取り戻した男は、申し訳なさそうな表情をすると、何やら話し始めた。
「思わず君の大事な処まで、拝んでしまったよ。」
「こんな罪深い私を、是非とも君の美しい脚で裁いてはくれないだろうか?」
当然の事であるが、返事など返って来ない。
分かり切った反応に、男は何の痛痒も見せず、笑顔のままこくこくと頷くと、ゆっくりと立ち上がり、新たな行動に入った。
男は一刺し指で、ロリ婦警さんの坂だった銀髪を撫でると、顔を覗き込みながら謝り始めた。
「君の愛らしさに、帽子の位置を整えるのを忘れていたよ。」
「たまには、トロけるような、極上の笑顔も見せてくれないかな?」
笑顔の男は軽く婦警さんに謝りながら、見た目は艶やかな髪を丹念に撫でていた
謝り方も、生きている人間に接するように話しており、落ちかかった帽子をつまんでは、ちょっぴり主張するアホ毛を弄んでもいた。
あたかも、そのフィギュアに人格が乗り移っているかのように、男はふるまっていた。
帽子の位置を整え終わると、男はロリータから少し離れ、あごに手を当てながら呟いた。
「相変わらず思うんだが、君に逮捕してもらえるのはいつかな?」
「君の愛らしい声音で罵倒されるならば、喜んでお縄につきたいものだ。」
「もし許されるならば、その御御脚で、踏んでくれたり、蹴飛ばしてくれたりしてもらえるなら、天にも昇れそうだ。」
ここに、男の話を理解出来得る人類がいたのなら、彼を蹴とばしても他者から讃美されただろう。
しかし、ちょいちょい見える男の凝り性な部分や気持ち悪い部分は銀髪のロリータ達には許容されている。
男がどんな行動を取ろうとも、その表情が翳ることはないのだ。
男は、銀髪ロリータたちに見守られながら、着替えを終えて、腕時計をはめ、準備しておいたかばんを握ると、別のお気に入りの、ベレー帽を被り、不安気な表情で、首を傾けるロリータに、日課の出勤の挨拶とを告げて部屋の外へと踏み出していった。
外は冬にも近づいてきており、肌寒さの残る気候であった。
男は1つ身震いをすると、濁った瞳をさらに濁らせながら会社へと歩き始めた。
彼の暮らす街は都会ではあったものの、まだ早い時間であったため、すれ違う者はいなかった。
そんな閑散とした環境であるため、男の頭にとりとめもない考えが浮かぶのも、無理からぬことであろう。
(海外に行けば理想のロリータには会えるのだろうか?)
(北欧系だと、多少理想に近いとこもあるけど、2次元との壁が厚いんだよな。)
(それに、海外だと、日本とは風習や考え方も違うし、いくら見た目がど真ん中でも理想的とは言えないんだよな。)
(いっそ、日本のマンガや小説のようなロリはいないものかね。)
(もし、異世界に偏執的な趣味を抱えた神さまとかがいれば、日本の大きなお友達みたいに考えてくれて、日本人好みのロリータを量産しているのかな。)
男が、そんなたわいもないことを考えていると、突然目の前がホワイトアウトした。
皆様、これからどうぞよろしくお願いします。
書留をしていたのですが、文章の改稿をしていたら、魔改造する事になり、思った以上に時間がかかっております。
頑張って毎日1話投稿していけますので、ニヤニヤしてもらえれば幸いです。