夫人達のお茶会
ピュアな心を持って、お読み下さい。
「旦那様は、とても大きくて、その、……太いんです」
今思えば、全ては伯爵夫人の言葉から始まったのだった。
◇◇◇
とある昼下がりの、とある薔薇の綺麗なお屋敷で、いつもの3人によるお茶会は開かれていた。
「グリェン様のは、長くて……先の方がピンク色で、存外可愛いらしいです」
ひそひそと悪戯っぽく公爵夫人も話す。
もちろん、グリェン様とは、彼女の夫である公爵のことだ。
あの強面で、気性の激しい公爵を、それも男女の性差の現れであるアレを「可愛い」と言うのは、彼女くらいだろう。
「ピンク色……!」
言い出した伯爵夫人も、思いがけない言葉に衝撃を受けている。
ーーーこれは、私も話に加わるべきなのかしら?
侯爵夫人イヴォンヌは、カップを静かに置いた。
彼女達は、同じ職場に務める夫を持つ、公爵、侯爵、伯爵の夫人である。
これまでも交流を深めるという名目で、月に一度ほど、お茶会を開いてきた。
公爵夫人と、伯爵夫人は年齢が近い。
侯爵夫人のイヴォンヌは少々(かなり)年上で、お茶会では話の内容に隔たりを感じていた。
まだまだ若い2人は、最新のドレスや化粧が気になるお年頃である。
一方で、イヴォンヌは体のたるみや、肌のくすみを隠すドレスと化粧が気になるお年頃であった。
子どもの話も、新婚の伯爵夫人は、まだ子どもがいない。
公爵夫人の子どもは、やっとよちよち歩き出したそうで、目を離した隙に何処かに行ってしまうと微笑ましい。
対してイヴォンヌは、娘が王立学園へ今年入学し、思春期特有のもどかしい母娘関係に悩んでいた。
それほど、イヴォンヌは少々(かなり)歳が離れているのだ。
もちろん、こうしてお茶会を続けているくらいだ。刺繍や、最近読んだ本など、共通の話題もいくらかはある。
しかし、それでも、イヴォンヌの前に立ちはだかる圧倒的な年齢の壁は、易々と砕けてくれなかった。
さて、現実に戻ると、目の前では「侯爵様はどのようですの?」と2人の視線が語っている。
せっかく、あの淑女と名高い伯爵夫人が、こんな話題を出したのだ。
夫のことなら、年齢が離れていても話しやすいだろうと、イヴォンヌに配慮してくれたのかもしれない。
意を決して、イヴォンヌも口を開いた。
「夫のフィリップ様も、大きくて、……血管が浮き出ていて、男らしいですわ」
小さな声で話すと、自然とお互いの距離が近くなった。
まるでお泊まり会でする恋話のような秘密の共有に、お互い興奮を隠せずにいる。
3人共々、扇子の内側では口角が上がり、頬を赤く染めていた。
「やっぱり、殿方は大きい方がトキメキませんか?」
次に、公爵夫人がそう提言する。
どうやら、彼女はこういう話に興味があるようだ。
「旦那様のは、私の顔くらいあるんです。近くだと、少し怖いですわ。結婚した今でも慣れません」
「か、顔くらい……!」
あまりの言葉に、公爵夫人は瞠目する。
イヴォンヌも、伯爵夫人の顔をまじまじと見てしまった。
ーーーそれは、たしかに恐怖してしまうかも。
だがそれは、新婚で、まだまだ男性経験が少ない彼女らしい意見である。
「私は大きい方が好きですわ。
触れた時に、そこからドクドクと脈拍を感じるのも好き。
力強い鼓動も、私を意識しているからだ思うと快感じゃない?」
イヴォンヌが年上らしく余裕あり気に話すと、2人はきゃあ!と生娘のような声を上げた。
もちろん、2人はそう振る舞っているだけで、話を止める気はさらさらない。
「たしかに、触れると温かくて、ううん、熱いくらいかも」
「見ていると、ときどき皮を剥きたくなりません?」
「でも、あまりやると痛がられてしまうわ」
「えっと、皮とかじゃなくて……旦那様のは、太すぎて入らないんです」
伯爵夫人の過激な言葉に、まぁ!と顔に手をあてる。
先ほどから話を聞くに、伯爵はずいぶん立派であられるようだ。
「それで、どうしたのですか!?」
「香油を塗って、なんとかしたのですが、……やっぱり、入らないのは問題がありますよね」
「でも、無理矢理するのも、お体に悪いですし……」
「そういうときは、専門のお店に頼むのが一番ですわ。王都の西に青い看板のお店があってーー」
夫人達のお茶会はいつにない盛り上がりを見せ、カップの紅茶は徐々に冷めていくのだった。
◇◇◇
「ただいま帰りましたわ!」
その日、お茶会に呼ばれた公爵夫人は、いつもより遅い帰宅であった。
どんなときでも、夕食前にきちんと帰宅する夫人にしては、珍しい。
夫である公爵は、キスと共に夫人を出迎えた。
「今日は、遅かったな」
「えぇ、お話が弾みまして、つい夢中になってしまいましたわ」
「どんな話をしたんだ?」
「手の話です。伯爵は、また太くなられたようで、結婚指輪が入らないとか」
それを聞いて、公爵は、部下の伯爵を思い返した。
たしかに、伯爵は新人の頃に比べて、多少、……いや、かなり太っている。
特に、結婚してからの太り方は凄まじく、所謂、幸せ太りというやつだった。
「なので、侯爵夫人が素敵なお店を紹介してくださいましたの。
ご夫妻の結婚15周年目に、指輪のメンテナンスで利用したお店だそうです」
お茶会の後、実際に3人でお店に行ってみたらしい。
指輪のメンテナンスの他にも、彫り込みの美しいラペルピンや、長時間つけていても痛くならないイヤリングなど数々の商品を扱っているという。
「ほう。だったら、次の結婚記念日には、その店の商品を注文するか」
「うふふ。そうですね、デザインはお揃いにしましょう」
そう言って、夫人は、公爵の手を取った。
愛しい夫の薬指には、白金の指輪が輝いている。
男性らしい大きな固い手は、指は長く、爪先にかけて可愛いピンク色をしているのだった。
指のサカムケって、剥きたくなりませんか?
爪切りを使うといいらしいですね。
作者は、女性に幻想を抱いているタイプの百合豚なので、女性は下ネタを言わないと信じています。
えっ、言うの? 嘘でしょ、マジで??