それはまぎれもなくヤツさ
彼の、中村武志の扱いは酷かった。
そう、掃除用具入れのロッカーから、コッソリと抜け出せられなかった彼は、黒瀬のフォローで一時何とかなったけれども、結局妹に連行された。そして、その妹、美緒にに折檻された。
それはもう、プロレスラーも頷けるレベルで、あらゆる技を披露してくれた。
一番効いたのは、チョークスリーパーだった。頭部へのダメージはリスクが高いということで、美緒は許してくれた。でも関節技は別だと。結果、生き抜いた。いや、普通生きれるから。
アルセイデス事件(武志曰く)そして、黒瀬事件(美緒曰く)後、美緒に発見された武志は、地獄に近い折檻により、全て白状した……が、美緒の怒りは収まらかった。
よって、プロレス技を受ける羽目になった。
アルセイデスは相変わらず……ではない。過剰な武志とのコミュニケーション、ボディーランゲージ含めてのアプローチが多い。つーか、いつの間にか消えたり現れたりと、忙しいヤツだ。
あと、美緒のことを"ちゃん"付けで呼ぶようになっていた。
休み時間になると、アルセイデスがくっついてくる。そして美緒がやってくる。
「は・な・れ・ろー!!」
「イヤデース」
きゃっきゃうふふ……なのか?
同級生は、既に何も言わない。むしろ、武志の妹、美緒が怖いので、何も言わなくなってしまった。
ようするに、生贄と同じような感じに近い。
いや、転校生で赤髪の美少女だろ!? 手を出そうとする気は無いの? 不能なの? バカなの?
……と、ツンデレ口調で言いたいくらい、誰もが何も言ってこない。たった2日で。
転校生来たんだよ? 普通何らかの口撃とかするでしょうがっ!!
でも、みんな目をそらす。アレェ!?
今のところ、それ以外の変化はない……と思ってた。
だがしかし、最近判明した。
アルセイデス、あいつ、なんであんな目立つアホ毛があるの? と思っていたら、アレ、ウィッグだったらしい。運悪く接触したヤツの情報から。
でもそいつ、手が痺れたとか、気分が悪いと言って、そのまま戻ってこない。
もう疲れた、今日は早く帰ろう。
いつもならだらだらと、部活とかで使用されていない空き教室で、夕日を眺めながら友人らとゲームでもして暇をつぶすところだが、とっとと帰ることにした。
そう思い、カバンを手にした時、窓ガラスや教室、自身に僅かな振動を感じた。
携帯端末のバイブレーターではない。自分の身体に感じるだけならわかるが、窓ガラスまで震えないだろう。
あと何か音がする。風を切るような音が近づいてくる。それだけではない、ジェット機のような音も混じっている。それがだんだん大きくなっていく。
嫌な予感がしたが、窓に近寄ってみる。夕日が見えるのは良い、夕方だからそれは当然。明日はきっと晴れ。
それだけだったら良かった。夕日をバックにして、三角形に近い形をした物体、航空機らしきモノが見えなければ。
距離はかなり近いし、高度も高くない。
めっちゃ逆噴射してるわー。
墜落しますね、間違いなく。
てか、こっち来るなッ!!
人間、突然の出来事が起こった場合、咄嗟に行動できないが多い。だが、非日常を過ぎる生活を強いられている俺にとっては関係ない。
身体が勝手に動くのだ。もちろん正しい方向に。
こういう時はどうすべきか? 窓の付近は駄目、遮蔽物の下に隠れるくらいか。
とっさの判断だが、これが正しいかわからない。目の前にあるもの、机の下くらいか。
爆発だけは簡便な、そう祈りつつ衝撃に備えた。
数秒後、非常に大きな音と衝撃。窓は……全壊だった。俺の体は、無事、その他確認。
恐る恐る窓から校庭を見ると、飛行機? 良くわからないが、校庭に機首らしき部分から突き刺さっていた。
いや、航空機でも、あれは戦闘機に近い形?
つーか、この酷い状況なのに、戦闘機が原型を留めてるのが謎。普通は木端微塵だよ。
そう思ってる時、戦闘機らしき航空機のキャノピーが開いた。
……あ、ヘルメット、ゴツイね。
そして、メットを脱いだ姿は……女性? だよね。
金髪の女性らしき人が降りてきたけど、墜落の衝撃か、ふらついている。
「おい、誰か乗れるやついねーのか!?」
流暢な共通言語で喋っているということだから、普通の人間だろう。
「ウッ!! ヲ、ヲエ、ゲロゲロ……」
はい、嘔吐してます。
「……このような辱め、クッ殺せ!」
訂正しよう、種族は女騎士だ。