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小ネタ集:日常編

2か月ぶり!の現代版。

思いついてしまったので、供養代わりにあげておきます。




【キャッシュレス決済ができない】


 カリナの姉は、ちょっと疑いたくなるくらいの機械音痴だった。今日も姉フィロメナに助けを求められた。

「カリナ」

 ちょいちょいと手招きされて、カリナは姉に近寄った。五人姉妹で最近はやりのパンケーキを食べに来たのである。その支払いでの場面だ。

「なに?」

「キャッシュレス決済をするときってどうすればいいの?」

「……」

 本当に素朴な疑問です、というように問いかけられて、カリナはずっこけかけた。この頃は、ほとんどがキャッシュレス決済だ。フィロメナもクレジットカードくらいは使えるが、今回の場合はスマホ決済のことだろう。先日、アプリを入れたのだ。

「……うん。お姉ちゃんだもんね。ちょっと貸して」

 フィロメナはあっさりとカリナにスマホを渡す。ちょっと姉のことが心配になる妹である。

 カリナはフィロメナのスマホで店側のQRコードを読み込む。決済終了の音がして、フィロメナが「終わり?」と驚いたように首をかしげる。

「早いのね」

「スマートでしょ。お願いだからお姉ちゃん、覚えて」

「うーん……たぶん大丈夫……?」

 逆に首をかしげるフィロメナ。怪しい……。

「まあ、わからなければQRコードを読み取ってもらえばいいしね」

「どういうこと?」

 本気で尋ねられて、カリナはさすがにため息が漏れた。


―――――――


【お母さん】


 アルレオラ家は5人姉妹である。長女フィロメナに次女カリナ、三女と四女は双子でエリカとモニカ、末っ子はマリベルだ。マリベルはまだ五歳であるが、この子が一歳になったころ、母が亡くなっているので、マリベルは母を知らない。

 姉とマリベルの様子を見ていると、たぶん、マリベルはフィロメナを母親だと思っているのだろうな、と感じるときがある。一応、カリナたちに習って「お姉ちゃん」と呼んでいるけれども。

 そんなことを思っていたからかわからないが、カリナの口をついて出た。


「お母さん、あたし、今日は帰り遅くなるから」


「……」


「……」


「……うん。わかった」


 だいぶ間をおいてからうなずかれたが、その間にカリナは自分が言った言葉に気づいていた。その場に崩れ落ちる。

「ごめん……」

 恥ずかしい。普通に呼び間違えた。なまじ、カリナは母の記憶がはっきり残っているから余計に呼んでしまうのかもしれない。床に手を突いたカリナに、フィロメナは「気にするほどじゃないでしょう」と小首をかしげている。この天然め。

 ぽん、とカリナの両肩に手が置かれた。エリカとモニカである。

「大丈夫」

「フィルお姉ちゃん、よく私たちのお母さんに間違われてる」

「ちなみに、お父さんはマルセロ」

 フィロメナの秘書の男の名前を出されて、カリナはあいまいに笑った。

「慰めてくれようとしてるのはわかった」

 ありがと、と双子の頭をなでる。そして、フィロメナはというと。

「そんなに老けて見えるのかな……」

 地味にショックだったらしい。


―――――――



【邂逅】


 フィロメナは陸軍基地にいた。初めて物資を納品したので、直接使い具合を確認しに来たのだ。責任者と話をし、何人かに使い勝手などを確かめる。なかなか悪くない手ごたえだ。継続購入をしてくれるかもしれない。

 少し基地を見て行かないかと言われ、興味があったのでフィロメナはうなずいた。ついてきていた秘書のマルセロは、「えっ」という顔をしたが、とめはしなかった。

「フィロメナさん?」

 広報担当者に案内してもらっていると、そんな声がかかった。振り返ると、背の高い男性がフィロメナを見て目を見開いていた。女性にしては長身の部類に入る彼女が見上げなければならないほど背が高い。

「……確かに、私はフィロメナと言いますが」

 そう言うと、その男性……少佐の階級章を付けた軍人は破顔した。

「やっぱり。本当に金髪碧眼の美人なんだな。あいつがほら吹いてたわけじゃないのか」

「……」

「マルチェナ少佐、アルレオラ副社長とお知り合いですか?」

 案内をしていた広報担当者が首をかしげて男に尋ねた。

「いや、俺が一方的に知ってるだけ」

「……マルチェナ、ということは、レジェス先生のご家族?」

 フィロメナが尋ねると、わかります? とマルチェナ少佐は笑った。

「骨格が似ているので」

「骨格」

 顔立ち自体はあまり似ていない気がするが、何というか、フォルムは似ている。そこで判断するのもどうかと、フィロメナ自身も思うが。

「いやぁ、思いがけず出会えてよかった」

「……」

 まじまじとフィロメナを眺め、マルチェナ少佐が言った。フィロメナはきょとんと瞬きを繰り返した。


「ということがあったんですが」

「ああ……話を聞くかぎり、間違いなく僕の兄ですね」

 苦笑気味に言ったのはレジェスだ。なんだかんだでお付き合いの続いている二人である。

「突然話しかけられたのでびっくりしました」

 不測の事態ではあったが、対処できないほどではなかったのが幸いだ。フィロメナはどちらかというと深謀遠慮の人であり、突発的事態はあまり得意ではない。そういうことになったとき、一瞬沈黙するのは脳内で状況を処理しているためだ。数秒後には動き出すので、気づいている人は少ないだろうが。

「愉快なお兄様ですね」

「身内だと面倒くさいこともありますけど。実は、フィロメナさんのことを話してしまいました」

 アルレオラ・コーポレーションは軍にも荷を卸している。知っているか、と思うのは無理ない話だ。それくらいは理解できるので、フィロメナはうなずいた。

「私も家族にレジェスさんのことを話したことがあるので、おあいこです」

 フィロメナもカリナに話したことがある。まあ、話だけで特定されるとは、流石のフィロメナも思わなかったが。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


現代版では、お母様はお亡くなりになっていますね。お母様がお亡くなりになり、お父様は自暴自棄に……パターンでしょうか。そのうち、「いい加減にして!」とばかりにフィロメナがお父様をぶん殴るかもしれません。少なくとも、現代版フィロメナはそれくらいの気性です。


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