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小ネタ集:出会い編

舌の根の乾かぬ内から設定がちょっと変わっている現代版。

よろしければ、暇つぶしにどうぞ。







 アルレオラ・コーポレーションの副社長を預かるフィロメナは、比較的温厚な性格をしている。かといって気が弱いわけでもなく、やるべきことも理解している。


 けど、これはないわ……。


 年若い女性であるというだけで、侮られる。社長の娘ということで、コネ入社であることは否定できないのだが、人に指摘されるとなんとなく腹が立つのは理解してほしい。というか、その社長が仕事をしないのが一番問題であると思うのだ。

 その日、フィロメナは地方での交渉の帰りだった。飛行機に乗り込み、首都を目指す。やや体調の優れない自覚はあったが、どうしても今日中に戻りたかったのだ。飛行機の中では寝ていればいいだろうと思ったのだ。

 だが、そうは問屋が卸さない。最近は飛行中でもネットが使えるのだが、うっかり電源を入れてしまったのが運の付き。メールが入ってくる入ってくる。みんな、フィロメナに振ればなんとかなると思っているのではなかろうか。生真面目なところがあるフィロメナは、それにいちいち対応してしまう。気づいたら、飛行機は着陸姿勢に入っていた。寝ようと思っていたのに、寝そびれた。

 窓側に座っていたので、ある程度人がはけてから立ち上がった。頭上の荷物入れのボストンバッグに手を伸ばすが、引き出す際によろめいた。身長は足りているが、腕力が足りなかった。

「おっと」

 自分の体は椅子の背もたれをつかんで自分で支えたが、バッグを受け止めてくれたのは背後にいた二十代後半ほどの男性だった。女性にしては長身のフィロメナより、いくらか背が高かった。

「すみません。ありがとうございます」

「いえ」

 にこりと笑って男性はフィロメナに荷物を手渡した。そのまま飛行機を降りる。

 それにしても眠い。やはり、飛行中に眠れなかったのが痛い。ロビーに出るため下りていた階段を、フィロメナは踏み外した。眠気でぼんやりしていたのである。衝撃があったのは頭などではなく、腹部だった。

「……っ!」

「大丈夫ですか」

 再び、先ほどの男性だった。そこまでは認識したが、そこで意識が落ちた。





 はっと意識が浮上すると、フィロメナはベッドに寝かされていた。空港内のクリニックらしい。左手を見ると、点滴の針が刺さっていた。

「ああ、目が覚めましたか。おはようございます」

「……おはようございます……?」

 明らかに旅行客らしい格好の男性に話しかけられ、フィロメナは疑問符を浮かべながらも挨拶を返す。端正な顔立ちだが、これと言って特徴のないその顔を見て、フィロメナはカバンと自分を受け止めてくれた男性だと気が付いた。

「助けていただいたようで、ありがとうございました」

 彼は起き上がろうとするフィロメナに、「ゆっくり起きてください」と声をかけながらコールを鳴らした。

「たまたまなので、お礼を言われるほどのことをしたわけではないですよ」

 けれど、どういたしまして、と答える彼は、レジェス・マルチェナと名乗った。今は見た目通りの客だが、一応医師免許を持つ医師であるらしい。免許証を見せてくれた。

「フィロメナ・アルレオラです」

 一応名乗ると、レジェスはよろしく、と言った後に申し訳なさそうに告げた。

「すみません、カバンの中、見せてもらいました。会社の方に連絡させてもらったんですけど」

 名刺が入っているので、そこからフィロメナの名と勤務先を知ったようだ。大丈夫です、ありがとうございました、と告げた後、午後から会議が入っていることを思い出した。

「どうかしましたか」

「いえ、午後から会議があったんですけど……」

 メールを確認すると、会議は延期になったらしい。なったらしい、というか、そうなるように彼女の優秀な秘書が手配してくれたようだ。

「大丈夫みたいです」

「そうですか」

 勝手に自己完結したフィロメナに、レジェスは顔を引きつらせてうなずいた。

「フィロメナさん、さっきこのクリニックの先生も言っていましたけど、よく食べてよく寝てください。若いからって無茶をしていると、後から響きます」

「一応、気を付けてはいるのですが」

 秘書にも言われるし、妹にも言われているので、本人的には気を付けているつもりなのだ。

「いや、寝不足だけならともかく、貧血と栄養失調もあるんですからね」

 いつの時代だよ、というような症状を告げられ、流石のフィロメナも何とかすべきか? と首をかしげる。毎年の会社の健康診断でも言われていることだけど。


 点滴が終われば、他にするようなことはない。付き合ってくれたレジェスには申し訳ないことをした。予定はなかったのか、と尋ねると、実家から帰ってきたところで、とほほ笑まれた。

「いろいろとお世話になりました。お礼をしたいのですけど……」

「いえ、お気になさらず。職業病のようなものですし。それと、僕、今名刺持ってなくて」

 すみません、とフィロメナの名刺を眺めながら彼は苦笑した。フィロメナはそれこそお気になさらず、と答えた。休暇に名刺を持っているほうが珍しい。

「では、本当にありがとうございました」

 丁寧に頭を下げ、フィロメナはレジェスと別れる。ちょっと笑顔が胡散臭い気はしたが、見る限りは優しい人だった。

「……よし」

 早く会社に戻りたいところだが、その前にトイレに行こうと思った。






お読みいただき、ありがとうございました。

点滴したあとは、トイレに行きたくなるんですよね……。

すでに小ネタの域を超えている気がしますが、小ネタと言い張る。

レジェスは機内にいるときから、フィロメナを見て顔色が悪いな、と思っていて、心配で見ていたら案の定倒れた、という感じです。この辺、オリジナル版とほぼ同じです。ただ、現代版では名刺から身元がばれてます。


この後、現実逃避に再開版も書こうかな……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 小ネタ、ありがとうございます!! 大好きな2人の新しいお話を読めるだなんて、本当に幸せだー! 感謝てんこ盛りでございます!
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