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story01

今日からレジェス視点です。









 その日、職場となっている宮殿の医務室で兄と言いあいをした王立医学薬学研究所の医師レジェス・マルチェナは薬草を採取しようと温室に向かって歩いていた。重いため息が出る。

「はあ……あんなこと言われてもなぁ」

 兄がやってきた用件はズバリ、縁談を持ってきたのだった。レジェスは二十歳で王立医学薬学研究所に所属して以来、王都内で一人暮らしをしている。実家はマルチェナ伯爵家で王都内に屋敷を持っているが、兄が爵位を継いでからはめったに帰っていない。そのため、兄は弟を捕まえるために職場にやってくる。まあ、近衛隊の副隊長である兄も、宮殿内に職場があるのだが。


 ふと、ふらふらと立ち上がる女性が目に入った。長い金髪を緩く束ねた、美しい女性だった。官僚の制服を着ており、スラックス姿だ。体つきから女性だとわかるが、顔だけ見ると美貌の少年のようにも見える整った顔をしている。

 だが、とにかく顔色が悪い。女性にしては上背があるのに、体格も細い。体質なのかもしれないが、何となく心配で見ていると案の定、彼女は倒れた。


「大丈夫ですか!?」


 あわてて駆け寄る。助け起こすと、彼女は気を失っていた。何度か頬を叩いて呼びかけてみたが、目を覚ます様子はない。

 制服の徽章を確認する。どうやら、内務省所属の官僚のようだ。少し迷ったが、レジェスは彼女を抱き上げた。とりあえず自分の医務室に連れて行き、ベッドに寝かせる。それから通りかかった使用人を捕まえる。内務省に伝言を頼んだのだ。内務省には何人もの官僚がいるが、女性の官僚はまだまだ少ない。さらに金髪で背の高い女性だと言えば、さらに絞り込めて何となく特定できるだろうと思ったのだ。


 ベッドの女性の元へ戻ると、彼女は安らかに寝息を立てていた。まさかの寝不足だろうか。たぶん、栄養失調もありそうだが。

 大体の診察をしたが、初見から変わらなかった。寝不足と栄養失調が倒れた一番の原因だろう。レジェスは息を吐くと、彼女が起きた時のために食事を用意し始めた。


 一時間ほどたつと、彼女は身じろいで目を覚ました。ゆっくりと身を起こした彼女に、レジェスは笑いかける。

「ああ、目が覚めました?」

 きょとんとしたように何度か瞬く彼女に、レジェスは名乗った。

「僕は王立医学薬学研究所所属の医師でレジェス・マルチェナ。よろしく」

「……内務省治安管理局フィロメナ・アルレオラです」

 アルレオラ伯爵家のお嬢さんだった。会うのは初めてだが、彼女はちょっとした有名人である。宮廷内で、と言うことだが。


 大学を卒業したお嬢様、と言うことでも結構珍しい。官僚としては優秀で、他の人が投げた問題でも、彼女にかかれば七割は解決すると言われている。らしい。残念ながら、レジェスはその現場を見たことがないが。


 しかし、今目の前にいるフィロメナは敏腕官僚と言うよりは何かに追い詰められたような様子を見せていた。会議の準備に行こうとする彼女を何とか押しとどめて、食事をとらせる。

 仕事が忙しいのか、と聞くと、家のことの方が忙しいのだ、という。レジェスは社交界のことにそれほど詳しくないが、確か、アルレオラ伯爵夫人が病に倒れ、伯爵は妻に付きっきりなのだったか。その負担が長女のフィロメナに回ってきているのかもしれない。レジェスは警告として言った。

「フィロメナさん。ざっと診察しただけですが、だいぶ体の調子が悪いですよ。今は大丈夫でも、いつか絶対に倒れます。睡眠と食事は健康を守るために必要です。いくら仕事が大変でも、できるだけ食べて寝てください」

「……わかっては、いるんですが」

 困惑した表情で彼女は言った。たぶん、本当にわかっているのだろう。できるかどうかは別にして。倒れる前に医師にかかるように言ったが、守られるだろうか。ちょっと心配になるレジェスだった。


 それから、レジェスはフィロメナを見かけるたびに彼女の顔色を確認するようになった。ちょっとした変質者であるが、それくらいに彼女の顔色は悪いのである。あまりにもその回数が多いので、友人にからかわれるほどだった。

「フィロメナ女史がお前の好み? 確かに美人だけどな」

 官僚の友人が肩を組んで言った。彼は財務省に勤務している。

「好みと言うか、心配なんだ。顔色悪いし」

「確かになぁ。しかもほっそいし。俺としてはもう少し肉付きがいい方が」

 下世話な方に流れそうな友人の話を視線で止める。どこかの店などなら構わないが、ここは宮殿である。友人は咳払いしてからレジェスの肩をたたいた。

「まあ、気になるんなら応援するぜ! 彼女美人だし仕事もできるし爵位も継ぐけど、お前ならうまくやれるんじゃね?」

 適当なことを言う。しかし、友人の並べた条件を考えると、美しい顔立ちに反してフィロメナも結婚が厳しそうだな……と、一方的に親近感を覚えるレジェスだった。


 暮らしている官舎に帰る前に、レジェスは王都内の本屋に寄った。何となく、本を読みたい気分だったのだ。学術書などは、書庫にいくらでもあるが、もう少し気軽に読める本を探しに来たのである。

 何となく、たくさんの本に囲まれていると落ち着く。いろいろ手に取って中身を見る。この、本を選ぶ時間も好きだった。

 ふと目に止めたのは、最近流行している恋愛小説だった。一応女性向けらしいが、男性もよんでいる人がいるらしい。著者は女性で、貴族の女性だろうと言われている。

 何となくその本を購入することにした。勘で決めた。女性向けの小説を買うのは恥ずかしい、と言う男性もいるが、レジェスはあまり気にしなかった。夕食を取ったあと、早速読み始めたのだが、これが結構面白い。恋愛模様はともかく、ストーリーに妙に現実味がある。書き手の頭が相当いいか、優秀な校閲が入っているのだろうと思われた。


 突然だが、現在すでに社交シーズンに入っている。夜な夜な夜会や舞踏会が開かれ、昼間にはサロンやお茶会が開かれる。王都に滞在する人口も増え、一時街はにぎわう。

 レジェスはその日、宮殿で開催された夜会に参加していた。招待状が来たわけではなく、医師として見守りをするためだ。人が多いこうした場所では、体調を悪くする人がいるのである。

 そして、その夜会でレジェスはその筆頭に位置するかもしれない女性と遭遇した。

「こんばんは、フィロメナさん」

「……ごきげんよう、レジェス先生」

 落ち着いた青のドレスを着たフィロメナは美人だった。いや、もともと美人だが、中性的な顔立ちもこうしてみると女性らしい美しさがある。ただ、体にそうドレスを着たことで、余計に細く見えた。


 彼女は妹と一緒だった。アルレオラ伯爵家は五人姉妹で、一緒にいるのは次女のカリナらしい。彼女の方が可愛らしい顔立ちをしているが、姉妹とわかる程度には似ている。

 大丈夫だ、とフィロメナが言うが、やはり顔色が悪い。カリナは「もっと言ってやってください」と真剣な表情でレジェスに言うくらいだ。たぶん、無理をしているのだろう。

 わかっているとは思うが、体調の悪いところに酒を入れないように忠告して、レジェスはその場を離れる。不意に、王太子の警護に出ている兄と目が合ってしまったのだ。声をかけられる前に逃走する。しかし、離れない方がよかったのかもしれない。フィロメナが酒を飲んで倒れた。飲むなと警告したのを聞いていなかったのだろうか……。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


レジェス側から見たらこんな感じ、と言う話をさくっと進めていきたいと思います。


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