個人名誉特別保護法『年の瀬法』
『年の瀬』の語源からふと思いついたので書いてみました。
『今年も残り数時間となりましたが、皆様はいかがおすごしでしょうか?さて、去年から施行された年の瀬法ですが、今年適用された人数は………』
山本一美はテレビを切ると、隣の部屋へと移動した。
何の変哲もない部屋。
勉強机があって、タンスがあり、ベットがある。
ただ、そこに一つだけ違和感があるとすれば、動けないように縛られている男がいることだろうか。
「さて、こうして縛られてしまっていますが、今はどんな気持ちですか?」
床に倒れている男に話しかけるが返答はない。
「まぁ、喋れないように口を塞いでいますし、返答なんて望んでいないですけど」
男は一美を睨みつけるが、そんなことは気にしていない様子だ。
「去年施行された年の瀬法、最初は意味が全然分かりませんでした。けど、今は違います」
机の上に置いてあったナイフを手に取る。
「その年に起きたことを清算させることが………できるっ!」
そう言って、一美は男の右手にナイフを突き立てた。
「………っっっ!」
「かなり条件は厳しいですが、それさえ達成してしまえば、合法的に復讐が可能となる。とても素晴らしい法律です」
ナイフを捩じって傷を広げていく。
男はなんとか逃げようとしているようだが、体が固定されてしまっていて動けないようだ。
「許しを乞うても無意味ですよ?そんなもので私が受けた傷は癒えません」
そう言うと、次は左手にナイフを突き立てた。
「あなたが犯した罪は、簡単に許されるものではない。それはそうでしょう。だからこそ、懲役五年という刑が下されたのです」
一度ナイフを抜いた後、もう一度突き立てる。
「そんなもので私が納得するとでも?あの人が私のすべてだった。私の総てをあの人に捧げるつもりだった」
男は涙を流し、顔を振り乱している。
「あぁ、大丈夫、安心して下さい。よくは覚えてませんが、あなたが絶命するまで意識が途切れることはないそうです」
そのセリフで、男の顔に絶望の色が浮かぶ。
「最近の研究の結果、そういった薬が完成したとかなんとかだった気がしますが………」
次はこの場所だと言わんばかりに、腕にナイフを突き立てる。
「まぁ、そんなことは今はどうでもいいですよね?せめて、あの人の何十倍、いや、何百倍も苦しんでから死んでください」
一美は笑顔でそう言って、男が絶命するまで、いや、絶命した後もその体にナイフを突き立てていくのだった。
――――♪♪♪♪
「………っ」
携帯の着信音で現実に引き戻された一美は、とりあえず電話に出る。
「………もしもし…はい……えっと」
受話器越しに何か言われたのか、一美はあたりを見回す。
目立つのは血だまりの上にあるズタズタに引き裂かれた死体だ。
血が飛び散ったせいか、部屋が真っ赤に染まっている。
自分も返り血で真っ赤になっているが、そこは気にしていないようだった。
「一応、終わったと思います………はい……すみません、お願いします」
電話を切った後、自分が殺した男のなれの果てを見つめる。
「いいざまです」
一美は満足げにそう言った後、部屋を出ていった。