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プロローグ 始まりの一歩が遠い

 昔々、そのまた昔。


 まだ人間が狩猟で生活を立てていたその時代で、ある2つの種族が戦争をしていた。


 1つは、万物を生み出し、世界を支えていた、精霊。

 そしてもう1つは、万物を壊し、精霊が作り上げた世界を奪い自分達の世界に創り変えようとした、悪魔。

 その2つの種族が、世界の覇権を求め、争っていた。


 その戦況は、悪魔側に傾いていた。


 片や世界を守りながら。片や滅することだけを考えて。

 そんな状態で戦争をすれば、どちらが優勢になるかは明らかだろう。


 戦況は、日に日に悪魔側に傾いていった。

 世界を支えながら悪魔と戦う精霊は、奮闘するもジリジリと追い詰められていった。

 数を減らし、力を失い、滅亡の一歩手前まで、追い詰められた。


 このままではまずい。


 追い詰められた精霊は、最早自分達ではどうすることもできないことを悟った。

 だが、それでも滅亡するわけにはいかなかった。

 滅亡すれば、今まで守ってきたもの全てが失われ、悪魔が望む世界へと創り変えられる。

 そこには、生命の多様性、輝きなどない、ただ悪魔に都合のいい世界に変わってしまう。

 そんな世界に残されるのは、悲しみと不幸だけ。

 それを知っていた精霊は、何とかその未来を回避するために、考えに考えた。


 そして、目をつけたのが当時の人間である。


 人間という種族は、とても弱い。

 精霊や悪魔が少し力を出しただけで、簡単にその命を散らす。

 一見、肉壁にすらならない、知能だけ他の種族よりも高いだけの、数ばかり無駄にいる貧弱な種族だ。


 精霊が目をつけたのは、その知能と数だ。


 知能が高い、即ちそれは考える力を持つ。

 考える力があれば、その貧弱な力で格上を倒す知恵を捻り出すことが可能。

 それは精霊や悪魔には及ばなくても、それに近いより高度な戦闘を可能にする。

 数は力。そのまま戦力を表す。


 今のままでは弱いが、可能性に満ち溢れた種族に力を与えたらどうなるか。


 化ける、そう考えた精霊は人間に、加護という形で力をもたらした。

 そして、自らの陣営に引き込むことに成功した。


 人間が加わった戦況は、一気にひっくり返った。


 力を持った人間はその知能と数をフル活用してあらゆる戦略を立て、追い詰めていた悪魔を逆に追い詰めていった。


 焦った悪魔は、精霊の真似をして他の種族に加護を与えようとするも、知能が低く大した活躍をすることなく戦場から退場することになり、悪魔はさらに追い詰められ、そして滅亡した。


 これが、精霊歴0年、精魔大戦の終焉だった。


 戦争に勝利した精霊は、人間に褒賞を与えることとした。

 未来永劫、人間とその子孫に、精霊の加護を与えるというものだ。

 これにより、人間は他の種族によって生活の域を奪われる恐怖に怯えることはなくなり、また、与えられた力のお陰で生活の質が向上した。


 それに加えて、昔からの遊び心を捨てられなかった精霊の王、オーベロンは人間にある約束をした。

 それは、『精霊の試練を超えて私に謁見を果たした者の願いを叶える』というものだった。

 そして、世界に7つの塔が築かれ、その1つにオーベロンは居住を移し、挑戦者を待つことにした。

 人間に、この遊戯(ゲーム)のルールを教えて。


 一つ、残りの6つの塔を踏破した者が、オーベロンの住む塔に挑むことが出来る。

 一つ、塔の最上部に到達し、そこにある宝珠に触れることで踏破となる。

 一つ、塔を1つ踏破するごとに、その者が挑む次の塔の難易度が上がっていく。

 一つ、共に挑むことのできる仲間は最大6人。

 一つ、仲間で挑む場合、難易度は仲間の中で1番上のものになる。

 一つ、その過程で手に入れた物は人間の好きにしていい。

 一つ、塔内で仲間を害した場合、塔に挑む権利を失う。

 一つ、人間の輝きを見せてみろ。


 そうして人間との間に結ばれた約束は、大いに人間を沸かせた。

 そして、多くの者が各々の希望を胸に、塔へと挑んで行った。


 願いを叶えるだけが、その約束の魅力ではなかった。

 ある者が持ち帰った巨大な牙は、あらゆる物を切り裂く剣になった。

 ある者が持ち帰った宝石は、その者が一生遊んでも暮らせるだけの富になった。

 こうした塔からもたらされる恩恵は、人々の生活をより豊かにし、そして人々の欲望を駆り立てた。

 塔は、まさに数多の宝が眠る夢の地だった。



 時は流れ、人間は幾たびも世代交代をした。

 しかし、その熱は一向に冷めることを知らなかった。

 精霊歴523年。

 今日もまた、人々は夢を追い求め、塔へと挑むのだった。



 •••



 村の中心にある教会。

 今日、そこでは1年に一度、15歳になった子に精霊の加護が与えられる儀式、精霊の儀が行われる。


 その子の人生を左右するこの儀式。

 人口の少ないこの村では、村人全員でその儀式を見守る。

 村人達は教会に集まり、どの精霊の加護を与えられるかをそれぞれ色んな想いを抱えながら、儀式が始まるのを待っている。


 始まるのは、午前10時。

 それまでの間、人々はどんな加護を与えられるのか、とか、将来どうするのかとか、儀式が終わった後の期待に満ち溢れた未来の会話をして時間を過ごす。


(緊張するなぁ......)


 そんな僕も、その中のうちの1人だ。

 精霊の儀が始まらないかと、今か今かと待っている。

 それがどれくらいかと言うと、手がさっきから震えて止まらない。それくらいだ。

 周りから変な視線が送られているが、それを無視して期待に胸を膨らませる。


(村の中では虐められていたけど、ここで強い精霊の加護を授かって、見返してやる!)


 僕は胸の中で、そう宣言する。


 僕には親がいない。僕が生まれるとすぐにこの村に捨てて何処かへ行ってしまったらしい。

 それを理由に、村の多くの人からは白い目で見られ、子供たちからは虐めを受けていた。理由は、それだけじゃない気もするが。


 だが、それに耐える日々も今日までだ。

 実力主義の世の中。力があればそんな境遇をひっくり返せる。


 そして力があれば、精霊の塔の完全攻略が見えてくる。

 過去にいた、完全攻略をしてオーベロン様に謁見して、その願いを叶えて貰った人みたいになれるかもしれない。いや、なってみせる。

 僕はオーベロン様に、両親に会わせてください、と願いたい。

 そして、どうして僕を捨てたのかを聞きたい。

 幼稚な願いだけど、これが僕の夢だ。

 そのための力を、僕はこの儀で求める。


 ゴーン、ゴーン


 そして定時になり、教会の鐘が鳴り響く。

 それと同時に、白基調の祭服に身を包んだ初老の男性が現れ、中央に置かれている椅子に腰掛けた。

 精霊の儀の始まりを察して、喋っていた人達は口を閉じ、笑顔が緊張した面持ちに変わった。

 辺りは静まり返り、厳かな空気が流れる。


「これより、精霊の儀を始める」


 辺りが静まったのを確認し、ニコッと微笑んだその男性、精霊父と呼ばれる聖職者の声が教会に響き、儀式の始まりを告げた。


「キース•リヒト」

「はい!」


 そして、青年の名前が呼ばれ、儀式が始まった。


 名前を呼ばれた青年が、精霊父の前に進み、傅く。

 それに合わせて、精霊父は手に持った杖を青年の頭の上で振った。

 すると、彼の頭の上に複数の、色の付いた光がふわふわと現れた。

 ほわぁ、っと淡い光を放つそれが彼の周りを舞うように漂い、幻想的な雰囲気が満ちる。


 しばらく漂うと、その内の1つ、赤色の光が一瞬強く輝き、彼の体に吸い込まれていった。

 彼の体からは、淡い赤色の光が放たれ、そして消えた。


 こうして、儀式が完了する。


「君には火の精霊の加護が与えられた。精霊は君の人生を導いてくれるだろう。くれぐれも、力の使い方を間違えないように」

「はい!」


 精霊父がそう声を掛け、そして彼は威勢良く返事をすると立ち上がり、元の場所に嬉しい気持ちが滲み出るような早足で戻る。


 これが、精霊の儀、精霊の加護を授かる儀式だ。




 精霊の加護は、その体に微精霊を宿すことによって与えられる。

 そして共に成長して、相棒のようなものになる。

 精霊歴0年の精魔大戦で精霊から与えられた褒賞で、人間にのみ認められた権利だ。


 精霊の加護を得ることによって、人々はその精霊の属性に合った力を得ることが出来る。

 例えば、火の精霊の加護を持てば火を操ることができ、水の精霊の加護を持てば水を操ることができる。

 基本四属性—火、水、風、土以外にも、光や、派生属性である氷や鉱石、特殊属性である剣や武、鍛治や調理などの属性の精霊も体に宿すことができる。

 そして与えられた加護は、人々を強くしたり、生活を豊かにしたりするのだ。


 だが、その効果が高すぎて幼い子供の成長に悪影響を及ぼす為、成人—15歳になるまで与えられない。

 褒賞が与えられた最初の頃、産まれた子供に加護を持たせた結果成長が著しく遅くなるということがあったらしい。

 そんなこともあり、精霊王オーベロンとの間で、成人になるまでは加護を与えないと言うことになった。


 そんなわけで、この精霊の儀は加護を与える以上の意味がある。

 加護を授かり、そして大人と認められる。

 場所によっては成人の儀と呼ばれるほどに重要な儀式だ。




 戻った青年は、周りの友人達に、やったな、おめでとう!と言った祝いの言葉を掛けられ、嬉しそうに笑うと、席に座った。

 そんな彼の体から小さな赤い光の玉、微精霊が飛び出て、それも彼を祝福するように彼の周りを飛び回る。

 これで、彼も大人の仲間入りを果たした。

 彼がこの先どのような道を歩むのか、そんなのは精霊も知らない。

 そんな彼を、僕は羨ましげに見る。


「リーナ•シルフ」

「はい!」


 精霊の儀は次々と進む。

 精霊父が名前を読み上げ、呼ばれた人が前に出て、微精霊を体に宿し、加護を得る。

 加護を与えられた人はみんな喜びの表情を浮かべて元の席に戻る。

 待つ人はそんな彼らを見て、胸に抱く期待を膨らませ、今か今かと楽しみにする。


 勿論、僕も胸の高鳴りが止まらない。

 手の震えが酷くなる。


(個人的にはキースと同じ火の精霊の加護が欲しいなぁ。火じゃなくても、基本四属性のうちの1つなら最高だ)


 次々と加護を与えられる人を見て、僕が授かる加護を想像する。


 世間一般的に、基本四属性の精霊の加護は他の属性の精霊の加護よりも強い。

 例外的に最上位である光よりかは弱いが、その他の属性を圧倒することができる。

 だから、基本四属性の精霊の加護を持つ人は優遇されるし、強くなることが多い。

 強い分、他の精霊より数は少なく、授かる確率はあまり高くない。光なんて一世代に1回現れればいい方だと聞く。

 色が同じでも、例えば青色だと湖の精霊や氷の精霊と言った純粋な水の精霊じゃないことが多い。

 そうした訳で、僕は基本四属性の精霊の加護が欲しい。

 そうなれば、僕の夢が近くなる。


「レミア•クラシア」

「は、はい!」


 そして、僕の名前が呼ばれた。


 緊張して体が強張り上手く歩けないが、無様な格好にはなっていないだろう。所々からクスクスと笑い声が聞こえるがそれは無視する。


 なんとか精霊父の前に辿り着いた僕は、みんなと同じように傅く。


 これで、僕も加護を授かることができる。

 虐められずに済む。

 そして、夢に手が届く。


 精霊父が僕の頭の上で杖を振るうのを感じる。

 どんな微精霊が来るのか、期待に胸が膨らむ。


 それを体験した人によると、授かった時は体から力が溢れてくるらしい。

 そんな感覚が来るのを、僕はドキドキしながら待つ。

 今までの感じ的に、10秒ぐらい間があってから授かっているように見えた。

 その10秒が、今の僕には永遠に感じる。

 緊張してか、周りの時間がゆっくりに流れているみたいだ。

 すると、体がソワソワし始めてきた。

 これは、来たか!

 そう思った僕は、顔を上げて精霊父を見る。



 だが、そこに浮かんでいた精霊父の表情は、渋いものだった。

 例え派生の末端で、あまり力のない精霊が宿った時でも笑顔を絶やさなかった精霊父。

 そんな精霊父の、見たことのない顔に、僕の胸に不安が芽生える。


「......どう、なんですか?」


 不安に耐えきれなくなり、僕は精霊父に問いかける。

 しかし、精霊父の表情は変わらない。

 いや、もっと険しくなった。


 俺の頭の中で、嫌な予感が過ぎる。


 嘘、だよね?

 そんなこと、ないよね?

 険しいのは、頭の上の微精霊達が多いからだよね?

 前例にないぐらいに、多いからだよね?

 そうなんだよね?


 僕は縋るように精霊父を見る。

 だが、精霊父はその口を開かない。

 眉間に皺を寄せ、口を固く引き締め、開く様子がない。


 辺りに重苦しい空気が流れた。

 僕に突き刺さる視線が、痛い。

 そこには、哀れみと侮蔑の感情が多く混じっている。


 汗が止まらない。

 暑い時に流れる汗ではなく、脂汗が。

 もう不安で堪らない僕の心情を表しているように、滝のように流れる。

 もういい、早く答えてくれ。

 睨むように精霊父を見るも、答える様子はない。


 やがて、意を決したように精霊父ははぁ、と息を吐き、口を開いた。



「レミア•クラシア。君にはどの精霊も加護を与えてくれないようだ」



「......は?」


 精霊父のその言葉に、俺は耳を疑った。









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