雨の日に、ピアノを弾く
僕はピアノを弾いていた。
ピアノは、僕の手の動きに合わせて鳴っていた。なんでも、あるジャズピアニストは死病に取り憑かれても尚、ピアノの前に座るのを止めなかったそうだ。ピアノを弾きながら死ねたら、万歳と言った所だろうか。
窓の外には雨が降っている。雨は三日間降り続いている。
世界はこのまま、水浸しになるのかもしれない。ふと、そんな事を思う。
世界が終わってしまえば、僕はどうすればいいだろう。もし一人だけ残されたら。
ノアは動物を載せて、舟の上に残った。僕がノアなら、船上から身を投げて死んだだろう。
それにしてもどうして神はやってこないだろうか。
僕はピアノを弾いていた。その内に、光が射してきた。
僕の体内に光が射してきた。僕は音そのものとなっていた。もはや、僕はリズムであり、打楽器であり、メロディであり、川の流れだった。
僕は弾き続けた。そのまま長い時が流れた。
やがて、外には陽射しが出てきた。方舟は現れなかった。神も現れなかった。ただ、僕はピアノを弾き続けていた。外には晴れ間が……雲が見えた。雲は風に流されていた。雲はどこまでも雲らしく、空はどこまでも空らしい。
僕は再び、ピアノに手をつける。
…神が現れるまで、僕はピアノを弾いていようと思う。それまでの間、僕は一つのリズムとなる。




