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いもむし

作者: 小松八千代

大きな木の大きな豆の鞘に、芋虫が住んでいました。豆をたらふく食べてまるまると太って、もう動くのも大儀でした。毎日寝て暮らしていました。でも、もうこの鞘の豆はほとんど食べ尽くしてしまったので、別の鞘に引っ越さなければと思っていました。

とうとう最後の豆の欠片もなくなってしまいました。芋虫は大儀そうに鞘から這いだして、豆がたっぷり入っている鞘を探しはじめました。一番近くの鞘に行ってみると、もう髭の生えた怖そうな芋虫の主がいて、

「なんだい、ここは俺の家だ」と言います。その次の鞘に行ってみると、背中の赤い芋虫が「ここは私のおうちです」と言います。

「あれれ、空いてるところはないのかな」

しかたがないので次の鞘を探しに行きましたが、どこも芋虫の先客がいて空いているところはありません。

やれやれ、この木の豆の鞘は空いているところがなさそうです。下まで降りて別の木の豆の鞘を探しに行かなければ行けないようです。芋虫は意を決して下まで降りていくことにしました。何本もの足をのろのろ動かして下りていきます。おっと、途中で足が滑って下まで落ちてしまいました。

「あいたた!」芝生の上に落ちたのでなんとか助かったのですが、逆さまになって長い背中のあたりを打って、ぐにゃり、ぐにゃり、と体をくねらせました。何本もの足を天に向けて、もがいていました。やっとの事で起きあがると、新しい住みかを探しにのろのろと歩き始めました。

途中アリの行列に会いました。

アリたちは「どいて、どいて。もう、忙しいんだから」と言いながら通り過ぎていきます。口には自分の体の倍ほどもあるような千切った木の葉を咥えています。

芋虫は聞きました。

「葉っぱを何処へ運んでいるのですか」

「私たちの巣ですよ。これを発酵させて食料にするんです」

「へえ、そうですか」

「忙しいんだから、暇な人はどいてくださいよ」

「なんて、太っちょのぶさいくな芋虫かしら」

「食べ過ぎよ」「働かないで寝てばかりいるからよ」

アリたちはこんなことを囁きあっているようです。

芋虫はのろのろと体を移動させます。アリの行列は何処まで続いているかわかりません。アリが歩いた後は道が出来ています。何百匹もいるようです。すごいパワーです。もたもたしていると自分も運んで行かれそうな気がして、慌てて方向を変えて、おしりをぐにゃぐにゃ持ち上げながら進んでいきました。

しばらくいくとバラの花の木がありました。今まで住んでいた大木とは違って小さい木です。

「今夜はこのバラの葉をいただこう」と、芋虫はその細い茎の所を這い上がっていこうとすると

「芋虫さんお願いです。もう私を食べないでください」

と、バラの木が言いました。

「え?」と、芋虫はバラの木を見上げると、かじられたようなみすぼらしい二、三枚の葉っぱがあるだけで、木の茎だけが寒そうに立っています。これでは芋虫の食べるところがありません。

芋虫は聞きました。

「どうしたのですか?」

「ゆうべ、アリたちが来て私の葉っぱを食べてしまったのです。さっきアリの行列を見たでしょう。あのアリの大群が来たら私のような小さい木はひとたまりもありません。裸にされてしまいました。これ以上食べられたら、もう芽を吹くことが出来ません。私は枯れて死んでしまいます」

「そうですか。それでは他の所を探してみます」

といって、芋虫が前足を動かして向きを変えようとすると、

「芋虫さん、このごろは虫やアリが多くて、ほとんどの木が虫に食い荒らされています。芋虫さんが住んでいたあの大きな大木も今夜あたり風が吹いて倒れるでしょう」と言いました。

「ええ!」芋虫は吃驚して今まですんでいた大きな豆の鞘がぶら下がった大木を見上げました。よくよく見てみると、なんということでしょう。あの元気そうだった大木の葉っぱが黄ばんで枯れそうになっています。

木が枯れたら、食べるものがなくなって私たち虫も死んでしまいます。どうか元気を出してください。私はもうすぐさなぎになります。さなぎから、蝶になって美しい花の蜜をいただきに行くのです。密をいただく変わりに、おしべとめしべを交配させて、媒介のお手伝いをします。ほら、あのきれいな花たちは、チョウチョや虫が来てくれるのを待っているんですよ。

その夜嵐が来ました。

芋虫が住んでいた大木は、強い風にあおられて根こそぎ倒れてしまいました。大木の真ん中には、空洞が出来ていました。そのなかを何匹ものアリが出はいりして、壊れた巣を繕っていました。近くで木の下敷きになった芋虫も、アリの大群が運んでいきました。


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