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「看護師の仕事は……どう?」
当たり障りのない言葉を投げつつ、私はコーヒーを啜った。
「大変なことも多いけれど、毎日が学ぶことの連続で、充実してますよ。
看護師になれてよかった」
彼女はふわりと笑う。4年前と同じように。
「萩村先生に追いついて、医療従事者として同じ景色を見て、ひとつわかったことがあります」
「……なに?」
「あの日、わたしを救ってくれたことの偉大さです。
看護師になって初めて気づいたんです、誰かを助けることの難しさを。
そして近くで萩村先生を見ていて思ったんです、萩村先生はやっぱりすごい先生なんだって」
純粋に、すごく嬉しかった。
救いたいと思って頑張ってきた毎日が、認められたような気がして。
「褒めても何も出ないよ」
「わかってますよ」
照れ隠しに言葉を一つ、そうしてお互いに笑って。
私も、彼女に抱く感情を吐き出す。
「あのとき、雪絵ちゃんを見たとき……あまりにぼろぼろで儚く見えて、助けなきゃ、って義務感を覚えた」
「……はい」
その頃を思い出しているであろう彼女の表情が、曇る。
「あの頃は研修医として働き出したばかりで、自分なりに全力で治療のお手伝いをしていたけれど、後ろ向きになってしまったり、心を病んでしまう患者さんが多くて、無力感を感じてた」
「そんなときに雪絵ちゃんを見て、救いたい、って思った」
それはきっと、純粋な感情だった。
「雪絵ちゃんと関わっているとき、いつも不安だった……自分の関わり方次第で、人生が変わるのを痛感させられたから」
「萩村先生は、私の人生を、いい方向に変えてくれたと思いますよ」
彼女の言葉は、やはり優しい。
「わたしが萩村先生と出会っていなかったら、お父さんを恨みながら自滅していたかもしれないし、ここにいることもなかった」
「……よかった」
そこで彼女は、コーヒーに口を付ける。
私もまた、冷めてしまったコーヒーを啜った。
「………萩村先生、」
しばしの沈黙を破ったのは、真剣な顔をした彼女だった。
「もう一度誰かと家族になるなら、萩村先生がいいです」
「……え……?」
「どうか、わたしを、彼女にしてくれませんか」
その言葉の意味を、告白、以外に見いだせなくて。
予想外の言葉に、私は驚きを隠せなかった。
私の返事は、すでに決まっていた。
「私はきっと、雪絵ちゃんのことが、4年前から、好きでした」
自分の気持ちに嘘など、つけるはずがないのだ。
「雪絵ちゃんのことを、幸せに、します」
私の言葉を聞いて顔を真っ赤にして驚く彼女の肩を、そっと引き寄せる。
触れ合う肩から伝わる彼女の熱に、幸せを感じる。
「よろしく、お願いします」
彼女への想いが通じ合った日を、私はいつまでも忘れないだろう。