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雪の降る夜に  作者: 佐宮 綾
出逢い
8/11

7

 


「看護師の仕事は……どう?」


 当たり障りのない言葉を投げつつ、私はコーヒーを啜った。


「大変なことも多いけれど、毎日が学ぶことの連続で、充実してますよ。

 看護師になれてよかった」


 彼女はふわりと笑う。4年前と同じように。


「萩村先生に追いついて、医療従事者として同じ景色を見て、ひとつわかったことがあります」


「……なに?」


「あの日、わたしを救ってくれたことの偉大さです。

 看護師になって初めて気づいたんです、誰かを助けることの難しさを。

 そして近くで萩村先生を見ていて思ったんです、萩村先生はやっぱりすごい先生なんだって」


 純粋に、すごく嬉しかった。

 救いたいと思って頑張ってきた毎日が、認められたような気がして。


「褒めても何も出ないよ」


「わかってますよ」


 照れ隠しに言葉を一つ、そうしてお互いに笑って。


 私も、彼女に抱く感情を吐き出す。


「あのとき、雪絵ちゃんを見たとき……あまりにぼろぼろで儚く見えて、助けなきゃ、って義務感を覚えた」


「……はい」


 その頃を思い出しているであろう彼女の表情が、曇る。


「あの頃は研修医として働き出したばかりで、自分なりに全力で治療のお手伝いをしていたけれど、後ろ向きになってしまったり、心を病んでしまう患者さんが多くて、無力感を感じてた」


「そんなときに雪絵ちゃんを見て、救いたい、って思った」


 それはきっと、純粋な感情だった。


「雪絵ちゃんと関わっているとき、いつも不安だった……自分の関わり方次第で、人生が変わるのを痛感させられたから」


「萩村先生は、私の人生を、いい方向に変えてくれたと思いますよ」


 彼女の言葉は、やはり優しい。


「わたしが萩村先生と出会っていなかったら、お父さんを恨みながら自滅していたかもしれないし、ここにいることもなかった」


「……よかった」


 そこで彼女は、コーヒーに口を付ける。


 私もまた、冷めてしまったコーヒーを啜った。



「………萩村先生、」


 しばしの沈黙を破ったのは、真剣な顔をした彼女だった。


「もう一度誰かと家族になるなら、萩村先生がいいです」


「……え……?」


「どうか、わたしを、彼女にしてくれませんか」


 その言葉の意味を、告白、以外に見いだせなくて。

 予想外の言葉に、私は驚きを隠せなかった。



 私の返事は、すでに決まっていた。


「私はきっと、雪絵ちゃんのことが、4年前から、好きでした」


 自分の気持ちに嘘など、つけるはずがないのだ。


「雪絵ちゃんのことを、幸せに、します」


 私の言葉を聞いて顔を真っ赤にして驚く彼女の肩を、そっと引き寄せる。

 触れ合う肩から伝わる彼女の熱に、幸せを感じる。


「よろしく、お願いします」


 彼女への想いが通じ合った日を、私はいつまでも忘れないだろう。


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