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雪の降る夜に  作者: 佐宮 綾
出逢い
7/11

6



 *



 彼女が私に会いに来てから、季節が4回巡った。

 私の肩書きは「研修医」から「外科医」に変わった。


 新年度を迎えた今日、4月1日は、この病院も例外ではなく多くの新しいスタッフを受け入れる日である。


 朝の朝礼にて、新しいスタッフ達の紹介が行われる。

 その新しいスタッフ達の中、私が決して忘れることのできないだろうひとが、真新しいナース服を身につけて、そこに立っていた。


「……!」


 最後に彼女に会った日の彼女を思い出す。


 “必ず、先生に追いついてみせます”


 “誰かを救うお手伝いがしたい”


 そう言った彼女の目に宿っていた、決意。


 彼女は。

 あの日と変わらず、儚い容姿をしていた、けれど。

 強くなったのだ、と思った。


 本当に看護師になり、“誰かを救うお手伝いがしたい”という、自分の目標を叶えられるくらいに。

 水瀬 雪絵です、と名を紡ぐ声を、また聞けるとは思っていなかった。


 全員の自己紹介が終わったあと、私は彼女をそっと手招きする。


「久しぶり」


 4年という歳月は大きいもので、結局は無難な挨拶に落ち着く。


「また、会えてよかった」


 ふわりと笑う彼女は、やはり綺麗だった。





 彼女の働きは素晴らしかった。


 彼女がスタッフに加わり半年、私たち医師のこと、患者さんのことをよく考え、てきぱきと仕事をこなす彼女の働きぶりは評価が高い。


「水瀬さん、506号室の安藤さんの点滴どうなってる?」


「はい、さっき確認してボトルを取り替えてきました」


 4年前、酒におぼれた父親からの暴力に泣いた彼女は、医者からも看護師からも慕われる立派な看護師になっていた。


 時が流れるのは、早い。


「参ったな……」


 夜勤明けの疲れた目が必死に働く彼女をとらえる。


 こぼれた苦笑が、ひとりきりのスタッフルームに溶けた。

 彼女の存在が、日に日に大きくなっていく。


 どのような境遇に立ってもひたむきに頑張り続ける姿に、私はやはり魅力を感じていたのだ。


「萩村先生、今大丈夫ですか?」


 ことり、と目の前にコーヒーカップが置かれる。

 鮮やかなオレンジ。


 声の主に驚く。


「雪絵さん……」


 そこに、彼女が立っていた。


「一段落付きましたから」


 そう言って笑い、私の左隣にも鮮やかなコーヒーカップを置き、腰掛ける。


 ふわりと立ちのぼる湯気と時計の秒針が刻むリズムが、ふたりきりのスタッフルームを満たした。


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