家庭訪問
7月3日
今日は、家庭訪問だ。
授業は、午前中だけで、午後から、家庭訪問をする。
今日の初っ端は、ゆうただ。
ゆうたの家は、学校から近いので、歩いて向かう。
道の途中で、見たような子供を発見する。
1時間前には、下校したはずのゆうただ。
ゆうたは、途方にくれたように、立ち止まっている。
「ゆうた、なんでここに、止まってるの?」
「せんせー、
ここから、先に白線がないから、困ってたんだよ。」
「あー、白線しか、歩いちゃいけないやつか、先生も、子供の頃、やったわ。」
ちょっと、なつかしい。
「白線以外は、うみなんだよ。白線からおちると、ワニにくわれるんだよ。」
そうか、それはこわいな。白線以外は歩けないな。
「じゃあ、先生が魔法をかけてやる。この先は、白いところが海だ。白くないところを歩け。」
「せんせー、魔法なんてないんだよ。」と、ゆうたがニヨニヨする。
さっきまで、白線以外が海だったヤツの発言とは思えないな。
お前につきあった先生のうぶな心を返せ。
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「先生、しってる? 学校の前の階段は、3段目と、8段目は、歩いちゃいけないんだよ。
3段目はネエ、トカゲが死んでて、8段目は、バッタが死んでたから、歩くと呪われるんだよ。」
ほう、呪われるのか、HP回復しないヤツか?
先生は、酔った翌日、回復しないぞ。
これからどんどん、夏に向けて、セミとか死んでそうだから、
そのうち、全段歩けなくなりそうだな。
「せんせー、
せんせーにだけ、とくべつ、ちかみちをおしえてあげる。」
こっち、こっちという。ちょっと、かわいいので、ついていく。
民家の植え込みの間を指さし、「ここから、入るんだ。」と、どや顔で言う。
いやいや、それ、住居侵入だから。
「よそんちの庭を通ったら、ダメだ。」というと、せんせいは分ってないという。
いやいや、分ってないのはおまえだ。
「しょうがない。第2ルートをつかうか。」と、ため息をつく。
雑貨屋と、隣の空き家の間を通れという。子供なら、通れるが大人はつらい。
ここまで来たらしょうがないと、ゆうたにつきあって通る。
おかげで、家庭訪問先のゆうたの母に、髪にクモの巣ついてますよと、指摘される結果となった。
おまけに、ゆうたの近道はちっとも近道ではなかった。
変な道を通ったと言うだけで、思いっきり遠回りだった。
小学校低学年には、方向感覚、距離感ともに、育っていないことを痛感した。
小学生の言うとおりに進んではいけないと、肝に銘じた一日だった。