傘
6月6日 雨だ。
「六月六日に、雨ザアザア降ってきて♪」、という絵描き歌があるが、その通り雨だ。
男子たちがずぶ濡れでやってくる。
「ゆうた、傘もってきてないのか?」
「もってきた」
傘を持ってきてても、小学生男子は、ずぶ濡れになる。
彼らにとって、傘は、戦闘道具だ。武器だ。
前を歩く友達をつついたり、チャンバラをするのに用いられる。
あるいは、遊具といて用いられる。
勢いよくひっくり返して、ラッパ傘にするのだ。
上手くラッパ傘にできた男子は、ほかの男子から賞賛されるのだ。
しかも、ラッパにたくさん水を貯めた男子は、一流の男子として、
同じ小学生男子から、喝采を浴びるのだ。
ただし、男子だけだ。女子からは、まったく男子っていやねえって、目で見られるのだ。
さらに、傘は探索用具として用いられる。
まず、すべてのよさげな水たまりは、傘で突かれる。
適度の大きさの穴があれば、それも突く。
歩道のフェンスは、傘で、カラカラいわせながら通らないといけない。
やつらはまだ、傘が、雨をしのぐ道具であることに、気づいてないのだ。
私の長年の観察結果によると、やつらが、傘が雨をしのぐ道具ということに気づくのは、だいたい小学校高学年だ。
こじらせたやつになると、中学生になってやっとというやつもいる。
教師という名の小学生男子の飼育係である私は、用意しておいたタオルで、彼らを拭いてやる。
タオルで回復不可能なまでに、濡れた奴らは、運動服に着替えるように指示を出す。
ちびっこ達はすぐ風邪をひくのだ。
**
授業が終わり放課後になった。
朝からしとしと降っていた雨も上がった。
今日のテストの採点をしていると、電話が鳴った。
ゆうたのお母さんからだ。
「うちのゆうたが、まだ帰ってないんですけど。」という。
教師という名の羊飼いのペーターである私は、迷える子羊であるゆうたの捜索に向かった。
行き違いにならないように、ゆうたのお母さんには家に待機してもらう。
とりあえず、学校から、裕太のうちまで通学路を探してみるか。
公園の近くまで行くと、歩道で、何やら、傘を持ったゆうたが途方にくれている。
「ゆうた、なにしてるんだ?」と、聞くと
「せんせー、かさがぬけない」という。
歩道の仕切りの棒のチェーンを通す穴に、傘の先を突っ込んだが良いが、とれなくなったらしい。
すっぽりはまってしまったらしく、大人の力でもなかなか抜けない。
なんとか抜いて、裕太のお母さんにゆうた発見の一報を入れ、家まで送っていく。
ゆうたには、一応、今後、いろんな穴を見ても傘を突っ込まないように、注意しておく。
たぶん、一晩寝たら、また、忘れるとおもうが、まあ、とりあえず、言っておく。
学校に帰ると、閉まった校門の前で、まさきが膝を抱えている。
一難去ってまた一難、ゆうたが、去って、まさきありだ。
うちのクラスのワンツーフィニッシュだ。
「まさき、どうした?」ときくと、
「かあちゃんが、かえってくるなと、いった」と、物騒なことを言う。
すわ、虐待か?
「かあちゃんが、これ以上、カサを忘れたら家にいれないって」
で、カサを取りに来て、校門がしまってて困っていたらしい。
カサは、小学生男子のキーアイテムなのか????
教師用の通門口から入れてやると、まさきは、うれしそうに、傘立てから、5本のカサを抱えて帰って行った。