空が呼ぶ
ああ、そうだ。あの時もこんな感じだった。
琥珀は空を見上げた。
高校時代、学園祭の1ケ月前。従兄弟であるユネと演奏する新しい曲を打合せしていた時だ。
ふと見ると、ユネがぼんやりと窓の外に目をやっている。
こいつはいつもこうなんだよな。
目の前に居るのに居ない。意識だけがユネからは遠い何処か別の場所にあるかのように、ただじっとそこに佇んでいるだけに見える。
「…綺麗…だ」
「んん?何が?」
琥珀も窓の外に目をやった。
「ああ、天使の梯子ってやつな」
「…天使の…梯子」
ユネは僅かに目を細め、その眩い光の方向に手を伸ばした。
「…呼ばれてる……みたい…だ」
「はあ?何が?呼んでるんだよ」
「……空……が…」
琥珀も手を伸ばした。但し、その手はユネの額に向けて真っ直ぐ伸ばされたものだ。
「熱があるわけじゃなさそうだな」
「……ない…よ」
珍しくユネがムッとして返した。
「怒るなよ。空に呼ばれてるなんて言われたら、ああそうですかそれでは何時のフライトをご予約しましょうか?なんて言えるわけないだろ?」
「…ごめん…でも……」
「ああ?シッカと話したんだ?」
「………シッカ…いや…」
「あいつにまた詞を書いてもらったんだよ。てっきり俺より先にお前に見せたのかと」
「…いや…知らない…」
「だから、空に呼ばれるって、まっいいや」
「……ごめん…」
「もしかしたら、生まれる前の記憶ってやつかもな」