慈悲深き女神
「シッカ…絵を見せてくれ」
琥珀がそう言った時、何かの……ずっと自分の中で引っかかっていた何かの扉が開いたような気がしていた。
昼間の火事と同じで、絵に描いた翼にも確かに記憶がある。
カンバスの前に立ち折れそうなその翼を見た時、シッカ自身も気が付かなかった感情が溢れ出し、気が付いたら泣いていた。
「何で泣くんだよ。ったく泣き虫だなあお前は」
「うるさい!勝手に涙が出て来るんだからどうしょうもないじゃない」
「…琥珀も……」
「うっせえ。俺は泣いてなんかねえよ。あれ?可笑しいな、なんで目から水が出て来るんだ」
「ゆねもほらタオル、タオル」
「……うん…いや…違う……自分の中で……別の自分が…泣いてる…感じ…」
「そうだな。別に悲しいわけじゃないのに、勝手に涙が出て来るんだよな。自分と切り離した所で感情だけが波立ってる感じがするんだよ」
「…前世の……記憶…?」
「前世の記憶って?今の私達が生まれる前ってこと?」
「……琥珀が…昔…言った」
「私達3人ともこの翼、ううん、これに似た翼に記憶があってそれが生まれる前のものってこと?」
「火の海の中で最後に翼を見たんだ」
「誰が?最後に誰が見たの?」
「…ここにいる…皆……」
「俺達、一緒にいたんだ……そして一緒に火事にあって死んだ。でも死ぬ間際に見たんだよ、翼が俺達を迎えに来たのを…夢の中で温かくてふんわりとした何かに包まれたのはそれだ」
「ヘカテの翼」
「……ヘカテの…翼…?」
「他者によって殺められた者の魂を天国へ導き運ぶ。ヘカテはそんな一面も持ち合わせているってママがメモしてた。」
「他者によって、あやめられたって……」
「………殺された……ってこと……だよ……ね…」
「ヘカテは慈悲深い神様ってわけだ。怖いイメージしかないけどな」
「……旅人の…守り神……だけじゃない…」
「ママがヘカテのキーホルダーを翔子さんに渡したのはただの偶然なの?それとも偶然の必然ってことなの?」




