二段ベッドのソラ
琥珀は上段に登り横たわったまま両手を伸ばした。
「おっ!すげえ!何か宇宙に手が届くって感じ?何で天井にこんな写真貼ってるのかと思ったけど、そっか、二段ベッドの上ってこんなんなんだな。」
「……二段ベッドの…宇宙…」
「あっいいなそれ!詩的表現だ……なあ、ユネ。引き際って何だろう?潮時とも言うか」
「…まだ……何も……始まってないのに?」
「俺様は潔さが信条だからな。まっ、クセだよ癖!始まりの時に終わりを考える。ガキの頃から、今日は遊園地だ楽しいなと思う自分と、同時に遊び終わった時のことを考える自分がいる。3人でいるこの夏休みだってそうだ。ユネはそんなことないか?」
「……始まりの時に……終わる…」
「物事って必ず終わりがあるだろ?人生もそうだ。確かに俺達はまだ若い。何十年も生きてる大人からするとクソのつくガキだ。でもいつか終わりは来る。だったら思いきりこの人生をエンジョイして堪能したい。で、ある日終わる。全てがだ」
「……ミュージシャンとして?……引退…終わり?」
「ステージの上で死にたいなんて、そんなキザでカッコイイこと俺は言わない。そうだな、ひっそりと人知れず……いや、人の中に紛れ込むみたいな感じで、最後は無名の俺でいい。ミュージシャンだとか、アーティストだとか、フォーンリック家の人間だとか、関係なく、無だな。その覚悟が出来るか?ってこと」
「…無から生まれ…無に…還る」
「そっ。手ぶらで生まれて来たんだから、手ぶらであの世とやらに還らなきゃな。もっとも、生まれる前の記憶とか言う土産を持ってた場合は別かもな」
「……どう……別なわけ?……」
「折り合い、イヤ決着か?」
「…決着…?」
「もしもだ。忘却の河とやらを渡らず、前の人生の記憶を持ったまま生まれて来たとしたら、多分、やり残したことがあってのことじゃないかって思う」
「……それを……やるための…今の人生?」
「うんまあな。でもそれじゃ俺やお前の人生、乗っ取られたみたいになるじゃん。」
「……それは…嫌だな……」
「だから、今の俺たちの人生を精一杯生きて、同時に自分の中の前世の記憶の持ち主がそれで満足してくれると一番いいんだけどな」
「……いつか…そうなるかも…」
「そうだな。俺もそう思いたい」
「…楽しまなきゃ……損…」
「楽しいことって、あっと言う間だからな」
「……傷つかない為に…終わりを考える…瞬く間に過ぎる時間……気持ちがついていかない…楽しめないまま終わる…だから」
「だから?」
「……始まる前から…終わった時の……寂しさとか悲しさとか…予行練習?………準備運動?……辛い感情に…慣れておく……人を好きになって…相手の気持ちを知るより……自分が失恋した時…を……考える」
「ヒュウ。ユネの口から失恋なんて言葉が出るとはね。今夜は良くしゃべるじゃん。よし!シッカもいねえし飲むか?」
「……飲んでも…いいけど……」
「なあ、生まれ変わりってあると思うか?」
「……思う……死ぬのは…怖い…でも……ただ漠然と生きるのは……もっと…怖い」
「シッカも似たようなこと言ってたな。俺なんかそんなこと考えもしなかった。今が楽しけりゃいいじゃんって。自分の人生なんだから自己責任だろ?ってな。でも、この人生がもしも誰かの生まれ変わりなんだとしたら、ちゃんと生きなきゃいけないような気がするんだよな」
「……それは……生きる希望…になると……思う…」
「希望か?そうだな。よっしゃ、酒出せ、酒!飲むぞ」
なんでもよこが私の布団で寝てるわけ?
シッカは二人の間に転がる空き缶ともよこを交互に見比べ、夕べは恐らく湧泉音も琥珀も眠れなかったのだと思った。
だからと言って、もよこも加えて宴会になるのは如何なものだろうか?
明け方の冷ややかな空気が、やがてむっとした夏独特の濃さをまとい始めてくる。
シッカは勢いよくカーテンを開けた。




