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孤独が好きな少年の見ている世界  作者: 竜神早音
孤独が好きな少年の見ている世界 -1-
6/18

1-6

 時間が経てば、太陽は昇る。町の影から生まれたモノも消えていく。朝の始まりだ。

 そして、ある神社の家でも朝が始まっていた。

 キッチンに立つ雷。料理に髪が入らないように後ろで髪を束ねていた。テキパキとした動きで次々に作っていく。最後に、肉を焼く。

 思い出したように雷は顔を上げた。

 雷の立っているキッチンは異様な光景だった。いくつあるのかわからない量のフライパンの数。そして、後ろのテーブルには何十人分のお皿に卵焼きとフランスパン。もちろん、術式である程度保温は出来ている。

 保温術式は雷が幼い頃に作り上げたもので、その効果や使いどころに家族全員が困惑した(わざ)である。


「そろそろかな。天、皆を起こしてきてー」

「わかりました」


 抑揚のないロボットのような感情の無い声が返事をする。

 後ろで座らせている天に声をかけ、住人たちに朝食の知らせを頼む。

 その間にも朝食が完成に近づく。


「こんなものか」


 火を消し、フライパンの中にあるベーコンを一枚一枚お皿にのせていく。ちょうどよい焦げ目とおいしそうな匂いが雷の鼻を刺激する。空腹を感じたが、さっき味見と称して一人分食べてしまっている。


 ま、作ればいいか…。


 ふわぁ、と欠伸をすれば外が騒がしい。どうやら子ども達の到着のご様子。

 案の定、子ども達が次々と入ってきた。思ったよりも早い到着である。


「兄ちゃん、おはよー」とか「雷お兄ちゃん、おはー」などなど、一人一人が朝の挨拶をしてお皿を取っていく。

 子ども達が取ったかどうか確認した後、奥にあるフライパン以外を洗い、後片付けが終わり一段落したところで袖を引っ張られる感覚があった。


「ん?」


 引っ張られた方を見ると日本人形のように黒く長い髪の女の子がいた。

 前髪で目線を隠し俯きがちな顔が頑張って上を見上げている。

 雷はしゃがみ、女の子と目を合わせる。

 もしかして、と思い質問する。


「朝飯まずかった?」


 首を振る。何か言いたそうに口を開けては閉じて、を繰り返していた。


「あ…えっと」


 やっとのことで出た声はとても小さく、言い切るころには聞こえるかどうかも怪しいかった。そしてオドオドとした態度をとる。

 雷も人見知りであり、そこまで会話が出来るわけもなく予想が外れたことで戸惑いの混じった声を発した。


「うーん、どうしたの?喋りにくいなら指で指してもいいんだよ?」


 優しく頭を撫でると女の子の腕が動いた。

 雷の顔は笑っているが、裏ではとてつもない冷や汗をかいている。

 冷や汗をなんとか隠しながら女の子の腕が止まるのを待つ。

 しかし、待つ時間はいらなかった。腕が止まり、指先が向いている方向を見る間もなく声でわかったからだ。



「雷ちゃん、朝も作ってるんだ」



 女の子が指をさす方向からの声。

 聞いたことのある声に少しうんざりした様子で顔を向ける。声で判っていたが、まだ会って2日なのに嫌と思えるほど見た顔があった。一瞬固まった頭を動かして、女の子へ微笑みながら問いかける。


「この人のこと?」


 机の上に並べている朝食を見ている人を指差す。

 目の前の女の子は頷いた。


「そっか。ありがとうね」


 そう言って、雷は頭をやさしく撫でて来客を見る。

 女の子は皆と一緒に朝ご飯を食べに戻って行った。

 

 あの子、まだ俺に慣れてくれないんだよなぁ。出会って3ヶ月くらい経つのに…はぁ……。


 来客を見る。


 あいつはもうちょっとくらいおとなしくしてほしいものだ。


「で、何か用?」

「用も何も私、朝ごはんに呼ばれてない!」

「子ども達が終わったら呼ぶ予定だったんだよ。なんだ、食器で流しを一杯にする気か!?」

「あ、ごめん」

「そう、砂に謝れると…いいよ。で、本来の用は?」


 腕を組み、気だるそうな顔をして問いかける。

 待ってました、と言わん顔でニッコリと微笑む愛宕。


 まだ2日間しか顔を合わせていないのに嫌な予感がする。


「ほら、先生言ってたじゃない。明日テストするって。でさ、私、課題なんて貰ってないんだよね」

「別に編入試験的なやつ受けたんなら要らないんじゃ」

「皆が受けるのに私だけ受けないってのは、なんだかね…」

「面倒な性格してるな」


 最初からか、と付け足して言いそうになるのを堪える。一言多く言うのは後々面倒を引き起こす引き金になるのが解りきっていた。


「でしょー?でさ、休暇明けのテストの勉強できないの。だから、雷ちゃん…お願い!一緒に勉強させてっ!」

「まぁ、そういうことなら。あぁそうだ、ちょっと待っててくれればコピーしてくるよ」

「いや、そこまでしなくてもいいよ」

「いや、すぐそこのコンビニまで行くだけだし」


 一緒に勉強と言っても、プリントが1セットしかないのでは勉強にならない。ではどうするか、簡単だ。コピーしてこればいいだけの話だ。摩訶不思議な力を持っていても結局は現代の利器を使うのが一番いい。特に雷にとっては知られたくない正体(ちから)

 ただ、問題点が一つ。


「すぐ?ここから30分もあるよ!?」

「すぐだろ」

「あははは。田舎って怖いのね」


 そう、現代の利器は最寄のコンビニにしかない。それも30分近くも歩かなくてはいけない場所。雷にとっては日々毎日歩いているのでそこまで距離を感じたことは無い。

 愛宕は、片道30分往復で1時間。この夏の季節に1時間を外に出させるというのは申し訳ないと思っているが、雷の表情はそんなの関係ないと言う顔だった。


「そうか?それより、朝飯は?」

「朝ごはん?」

「申し訳ないけど、今はパンしかないよ。コピーしてからで大丈夫?」

「朝はパンでもご飯でも大丈夫だけど。恥ずかしながら、お腹すいてすいて…」


 ぐぅうううううぅううう。

 意外と腹の音は大きかった。


 はぁ、とため息ひとつ付く。


「ん、わかった。じゃ、ちょっと待ってろ」

「はーい」


 至急飯よこせ、と訴える愛宕の腹の音。恥ずかしがることなく、タハハと笑っている。雷は鼻で笑った。

 朝食の準備を始める。子ども達に作ったものと同じものを。

 作りながら疑問に思ったことを愛宕に聞く。


「にしても、今日の勉強でどうにかなるもんなのか?」

「どこまで授業やってるのかだけ知れば後はなんとかなるし、どんな感じの問題出るかとか知りたいだけだし」


 軽くため息をついた。

 天才とはこういうことだろうか。


「それだけで、勉強になるのか?」

「英語って簡単だし。テスト対策ってそれくらいでいいもの」

「…あっそ。てか、座れば?」


 天才とはこういうことなのだ。


 ずっと立っていた愛宕に対して座ることを勧める。

 コンロの上にあるまだ洗っていないフライパンの一つを温め始める。


「雷ちゃんの手料理~♪」


 喜んで座る愛宕を見ると、嬉しく思った。なんだかんだ思っていても、美味しいと言って食べてくれるのだから。昨日の晩御飯は手抜きカレーだったわけだが、美味そうに食べてくれたのは嬉しかった。

 ただ、予想外だったのは、子ども達に混じって半ば喧嘩をしながら食べているというのはどうかと思っていた。


 豪華な朝食とは言わないけど、卵とベーコンを焼くだけの料理にそこまで感動するようなものではないと思うんだよなぁ。それに転校生に対して俺の手料理出したのって昨日が初めてのはず。


 リビングに入るドアが開いたと同時に朝の挨拶が聞こえる。


「おはよー。あぁ、眠い」


 チェックの寝巻きを着た兄、湊がいた。寝癖の激しい髪を手でクシャクシャしながら入ってきた。反対の手で口を押さえて欠伸をする。


「・・・兄ちゃん、おはよう」


 ベーコンを焼きつつ、振り返る。束ねた髪が揺れる。


「俺の朝飯は?」

「今、作るから座ってろ」


 奥では子ども達がギャーギャーと騒ぎながら朝食を食べている。

 トタタタタッ!と走ってくる音。

 カチャカチャと食器を重ねる音。

 そして


「雷兄ちゃん、ごちそうさまー」


 後ろから声。振り返って、お粗末さまでした、と返す。その姿を見ていた人が口を開ける。


「本当に女の子みたいね」

「事情知らない奴からしたら、女と間違えるかもな」


 その言葉で振り返り睨む雷に、はははは、と笑う湊。


「事情?」

「ちょっとした事情。ま、髪だよな」

「髪?あ、確かにお兄さんと雷ちゃんとじゃ色、全く違いますね」


 雷の髪は黄色、兄である湊は黒色。


「もしかして、雷ちゃん、校則破ってまで髪染めてるの?」

「それならいいんだけど」

「え?」

「うー・・・雷にいぃ、おはよー」

「一番の寝坊が来た。おはよう、(すず)

「ふわぁー、おはよー湊にぃ」


 欠伸が止まらず、目尻に涙を浮かべ袖で拭う作業を繰り返している。

 そこには雷を小さくした少女がいた。ただし髪の色だけは違って、薄い色の金髪が幻想的な雰囲気を醸し出していた。色も見た目も雷よりも綺麗な髪だった。


「小さい雷ちゃんっ!」


 ガタンッ!ドタッ!と間髪無く強い衝撃が床から足裏に伝わる。ついでに耳に伝わる苦しそうな声とうれしそうな声。

 後ろを見なくてもわかる。どうなっているのか。


「うっ」

「鈴、大丈夫か?」

「湊にぃ、この人だれぇ?」


 咳き込みながだったが声が聞こえて安心した。


 どっかの誰かが、鈴に飛び掛っていることくらいわかった……愛宕め。そうなると思っていたよ。


 後ろを見れば、背中から叩き付けられた鈴が仰向けになり、その上に愛宕が乗っていた。恐らく鈴の後ろについてきていたであろう天に視線をやり、アイコンタクトで早々にこの場から出てもらうようにお願いする。天もそのことに気付いたのか頷き、鈴を急かすために移動した。


 何とかして鈴から愛宕を離そうとする天。出来るだけ関わって欲しくないが、今は仕方ない。

 やっと愛宕が鈴から離れたようで、愛宕がバタバタ暴れていた。

 鈴は打ち所が悪かったのか、頭を擦っている。

 好きなだけ暴れさせれば落ち着くだろうと考えていたが、案外あっさりと落ち着いていた愛宕だった。


「ご、ごめんね。いきなり飛びついちゃって」

「うぅ…だれよ?」

「あ、私ね、雷の同じクラスの愛宕楓香って言います」

「ふーん。で、同じクラスの人がここに何の用?それも朝から」

「この対応、雷ちゃんとそっくりね…この冷たい接し方」

「あっ、やっぱりそう思う?」

「あ、お兄さんも思います?」

「あの、鈴様。ささっと朝食を済ませてください」


 天が催促するのが聞こえる。背中越しに聞きながら湊兄ちゃんと愛宕の分を焼いていく。

 鈴のお皿を持ちながらテーブルの方へ誘導し座らせた。


「いつもあの子に引っ張られてるんだよ」

「少し離れた俺に聞こえてるからあそこの二人も聞こえてるよ」

「そうかな・・・あの様子だと聞こえてないように見えるけど」


 二人を見る。確かに、聞こえてなさそうだ。


「鈴様、あーん、してください」

「あーん」


 その二人を見て、愛宕は言う。


「ところで、あの子とあの子の後ろにいる人は誰ですか?」


 一瞬だけだが湊が雷の方へ視線を向けた様な気がするが気付かないフリをする雷。

 湊が鈴と天の順で指を指す。


 やっぱりそこ聞くよなぁ。兄ちゃん、あと頼んだよ。


 兄を犠牲にし理由を考えなくていい、と考えた雷。その背中に突き刺さる小さい小さい殺気。


 本当にごめんっ!と雷は心の中でしっかりと謝った。

 それが伝わったのか、聞かれたから答えるのか、どちらかわからないが口を開く湊。


「妹と…えーっと……親戚の子。そのー、なんだ、親戚の子は家の都合でこっちに転校する」


 完全に何かを読み上げるように言い切った、兄。さっきまでと口調が全然違っていた。

 その場にいた、質問者と回答者以外の3名は同時に口を開いてしまった。


「はぁっ!?」

「はいっ!?」

「ふぎゃっ」


 驚きのあまり、卵を入れたフライパンから目を離し、ふざけたことを言った兄を見た。天は朝食を食べさせようと箸を鈴の口持って行こうとして失敗し、頬に容赦なく当たっていた。

 とても痛そうだった。


「ふぇん、いふぁい、いふぁいよ(天、痛い、痛いよ)」

「あ、すみません」


 頬を擦りながら、卵こげちゃうよ、と言って天に食べさせてもらおうと口をあける鈴。

 慌ててフライパンを見る。そろそろ、火から下げないといけない。


「あのー、湊様?さっきのお言葉の意味が解ら」

「てーん、お皿ー」


 天の質問を途中で遮り、横の食器棚をフライ返しで指した。

 まだ、テーブルの上には3,4皿ほどあった。


「テーブルの上にありますよ?」

「いいからいいから」


 こっちへ来いと手招きする。天が移動をしたところで小声で呟く。


「範囲指定、完了。強度調整、完了。…発動『術・消波壁(しょうはへき)』」


 見えない何かが雷の周囲を狭く覆う。

 音が周囲に聞こえないようにするために。それでも念のために小声で話した。

 フライ返しで愛宕を指す。天はチラリと見た後、不思議そうに雷の顔を見た。


「天、見てわかると思うけど。今、そこに事情を知らない人がいます」

「はい」

「ちなみに、天。お前は俺と同い年くらいに見えます」

「主もお上手になりましたね」


 笑顔で返される。

 見た目が俺と同じくらいの高校生に見えるのは間違いないのだから。


 本当のことなのだから仕方ないんだ。昨日は咄嗟に隠れてもらったから良かったけど、今回はどうしたものか。いや、ここははっきりと兄ちゃんの嘘の情報で隠すしかない。


「……それでだな。夏休み終わってるんだよ。世間的にはね」

「そうですね」

「うん。理解してる?」

「はい?」

「うん…あのな。お前、高校生に見えるのね」

「あぁ、なるほど。そういうことですか」

「うん。理解してもらって良かったよ」

「湊様はそのために嘘を」


 チラッと湊を見る天。その間に、また小さく呟く。


「術式解除」


 術を解いていく。解けると同時にお皿に盛り付けて二人の前に出す。


「ほい、お二人ともお待たせ。どうぞ」

「ありがとう。らぁーいちゃん」


 猫なで声で言う。


 どうしよう…イラッとする。はぁ…。


「あ、パンはそこね」


 テーブルの端に置いてある横に倒してる茶色の紙袋を指した。口からはちょうど良い大きさに切られたフランスパンが覗いていた。子どもたちが取っていったのか側には2つの細長い袋が潰れて置いてあった。


「先に言ってくれれば・・・」

「バランスの良い朝食を」

「むー・・・ありがと」


 愛宕は軽く頬を膨らませ上目遣いでこっちを見てくる。

 お返しに睨みつける。

 コップを取り麦茶を注いでいると、変な視線を感じた。

 何事かと視線の元を見るとニヤニヤしている湊だった。


「何?」

「何にも」


 麦茶の入ったコップを置く。鈴の欠伸がうつったかのように「ふわぁああ」と大きな欠伸をしながら部屋を去ろうとした。


「どっか出かけるのか?」


 湊が声をかけてくる。

 本来なら他の皆が終わるまで椅子に座ってお茶でも啜っているのが雷なのだが、珍しいと思ったのか何かあったとでも思ったのか聞いてきた。

 だから、雷は面倒くさそうに答える。


「ちょっと用事だよ、用事」


 また大きな欠伸がでる。


 朝早くに商店街のパン屋に開店と同時に購入したもの…、そりゃ眠くもなる、な。


「あれ、雷ちゃん。朝ごはんは?」

「作りながら食べた」

「ある…雷、バランスの良い食事を」


 天のぎこちない呼びかけに、つい苦笑い。その表情を見たのか天の表情が微々たる変化だが動く。

 2,3日もすれば慣れるだろうと考えながら。


「俺はいいんだよ」

「ん?どういうこと?」


 頭を傾げる愛宕。天と湊が説明しているのを背に自分の部屋まで歩いていく。


「ったく、必要なのはプリントと・・・えーっと財布……はどこ置いたっけなぁ」


 ヘアゴムを取り、手で髪を整える。

 近くのコンビニに行く支度を進める。


 頼まれた物を印刷するために。

 おはこんにちわ。どうも早音です。


 えぇ、しょっぱなからなんですがね。


 ネトゲのイベント多すぎんよおおおおおおおおおおおおおおお


 はい、すいません。ちょっとここ最近思ってたことを言いたかっただけです。


 では、次の投稿話でお会いしましょう。

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