1-3
暑さに負け、途中で公園で休憩を取り、やっと家に着いたと思えば目の前には兄と変なツボ。そして、先に帰った天と鈴の模擬試合…のはずが。どうしてこうなった。
そして雷の知らぬ間に担任と祖父との間で勝手に話が進んでいた。
歩いて20分くらいで家に着いた。暑い太陽の光によって20分間という短い時間がとてつもない距離と時間を感じさせた。
今にも倒れそうな勢いで家の玄関を開けると異常な光景が広がっていた。
雷は思う。
この状態でこの状況を見たくなかった。ただでさえ、体が重たいのに。
雷は体が動かせなくなった。
「……」
玄関には兄がいた。壁を背もたれにして、頭にタオルを巻き手に布と掌サイズの何かを握っていた。大工のような恰好で『つなぎ』を着た兄が玄関で何かを一生懸命に磨いていた。その横に顔色の悪い女性が立っているのを目の端で捕らえた。
隣の女性に焦点を合わせないように、意識しないように目の前にいる兄に向かって帰宅の挨拶をした。顔が引きつっているのはわかっていた。
「た、ただいま」
「ん?あぁ~遅かったな、おかえり」
ニコニコとこちらを見ている。
俺はどうしても玄関から中に入ることができなかった。後ろにも前にも行けない、一歩も動けない。
深く息を吸い、慎重に言葉を吐き出す。
情報が足りない。どうしてこうなったのか。何か、磨いている…?
「…磨いてるの、なに?」
「ん?これか」
布で隠れていた『何か』が現れる。
それは古びた小さい壺だった。
どのくらいの前なのかわからないが、ところどころにヒビが入っている。
器用に、古びた小さい壺を片手でクルクルと回した。
「大雑把に言えば『いわくつきのもの』か」
「なんでそんな物を…」
「こいつが言うから」
壺を指して言う。
可笑しくはない。『いわくつきのもの』って言われているモノには少なからず意思がある。霊感が無くても危ない物と感じるモノ、そういった物には意思が宿っているものだ。
耐性のない人間はこの意思に反発できずに飲まれて操られる。そして、幻を見たり人が変わったように暴れまわったり。いろいろ…ある。
どうやら目の前にいる兄はわざと憑かれて意思の声を聴いているのだ。
「兄ちゃんも物好きだな。憑りつかれているなんて」
「ちゃんと会話するならこれが一番手っ取り早いからな」
「手っ取り早くても危険じゃん。それにその方法、じいちゃんに怒られるよ。そこ通れないし」
兄の横にいる顔色の悪い女性を指さした。女性をできるだけ見ないようにしていたが、しっかりと目に収めてしまった。
その姿は、人と言えるような姿ではなかった。顔はひどく膨れ上がり血と痣、体は白装束を着ているが所々に赤いものと明らかにおかしい陥没。腕に至っては変な方向に曲がっている。
正直、女性と判断できるものが少なすぎだ。女性と言っていいのかもわからなくなってきた。
見ているだけで、寒気や嫌悪感が湧いてくる。それでも兄はニコニコと笑っていた。雷の指が指しているものを見ずに。いや、もしかしたら見えていない!?
「はははははっ!大丈夫だって。そもそも、この家にいる奴ならそうそう簡単に殺されないって」
大笑いしながら言った。この笑っている間もあの女性の呪いは消えていない。このままだと、確実に兄ちゃんは殺される。
この家の人間だろうとなんだろうと、死ぬときは死ぬ。でも生きる確率があるのなら……ならばどうするか。決まっている。兄ちゃんを守るために、呪を紡ぐしかない。
兄は「大丈夫」と言った。
中断させた。
冗談じゃない、横の女性は今にも兄を殺そうとしている。
兄の体に触れようとしている。反射で口が動く。さっきまで視界に入れることが嫌だった雷の視線は完全に女性の霊を捕らえた。目が大きく見開く。絶対に逃がさないと言っているように。
雷の危険度が増したのか、女性が見返してくる。しかし、その顔には見返してくる瞳がなかった。目が潰されていた。真っ黒な空間があるだけでも見られていることはわかる。
気味が悪いな。でも、あと少しで即興で作り上げた術式が完成するんだ。間に合え!
顔はこちらを向いている。でも霊の体は兄に近づいていっている。
そして兄の体に触れるか触れないかのその時、女性の姿が薄くなっていった。
姿が完全に消えた。その場を制圧していた嫌悪感も消えた。
呪を紡いでいた口が止まる。雷の瞳が忙しなく動く。女性を見逃さないように。どんなに小さな異常も見逃す気は、無い。
慎重に声をかける。
「なにが?」
「まぁまぁ、そんな怖い顔をしなくても」
当然の疑問だった。
殺そうとしている気配が無くなったのだ。今にも殺そうとしている、あの状態を一瞬で消し去った。
消えたんじゃなくて、逃げたかもしれない。
「何をって言われてもなぁ。除霊っぽいこと?この壺っぽいの、遺骨入れらしいんだけどね。恨まれ憎まれで殺されたんだと。本人も殺した奴らを呪ってたらしいし」
つまり、恨まれ憎まれて殺された女性の霊の怨念ということか。ただ、話を聞いただけで成仏するのであれば誰も苦労しないが。あの薄くなっていく現象は、成仏ということか。
一歩一歩慎重に家に入っていく。本当に消え去ったのかわからない。
「とりあえず、お疲れ様…でいいのかな」
「そんなに警戒しなくてもいいよ。ちゃんと消えたから」
今のところは気配なし。兄ちゃんの言葉を信じるか…。
それにしても、呆気ない霊だ。呪いの元となった霊が愚痴を聞いてくれただけで消えるとは、この呪いで殺された一家はなんなのか。
靴を脱ぐ。その間も警戒を続ける。小さな痕跡ですら見逃さない。
兄はいつも通りに、ニコニコ笑っていたが顔色は優れていなかった。実は精神面の戦いが凄かったのかもしれない。
今ニコニコ笑っているのは安心しているから。ってことは本当に消えた?いやいや、あのおぞましい気配を持っていた奴が話を聞いただけで成仏なんて、ありえない。
「まぁ、話できる奴で良かった良かった」
「話しできないやつだったら、どうするつもりだったの」
「話し合いで解決できないなら、術使うさ」
「最初から使ってくれ。それと玄関でやらないでよ。動いていいのかわからなかったんだけど?」
兄の横を通りすぎるところで軽く文句を言って、台所に向かう。お腹空いた。
「儀式じゃなかっただろう?」
「俺の目には儀式のように見えた」
「術式に得意なお前が言うならそうなんだろうけど。あぁ、そうだ。天と鈴があそこに行ったけど珍しいな。何か話聞いているか?」
「天が俺の代わりに鈴の鬱憤を晴らしに行った」
「へー。じゃ、扇が隠れるように移動してたけど、あいつもか?」
「ん、扇が?……聞いてないけど」
お昼を食べようと思ったけど、そんなことより道場へ行ってほいたほうがいいかもしれない。天と言えども扇と鈴が力を合わせたらどうなるか。
くるっと半分回って台所とは反対側へ向かう。
「出来るだけ急いでやれよー?」
「2対1だろうし。俺も参……あー、助けてやらないと」
本気出しすぎるなよ、と忠告を聞き流しつつ練習場と呼んでいる道場に向かった。
急いで道場に向かったはいいものの俺の不安は全くもって意味を成さなかった。俺の不安を返してほしいと思ったくらいだ。
慌てて来たものの目の前光景には驚いた。目の前に広がっている光景は案の定、天は鈴の相手をしていた。
しかし、思っていたのと何かが違う。
俺が想像していた光景じゃない。
「…天?」
「あ、おかえりなさい。主、どうしたのですか?」
「雷にい、たすけ」
数十分前まで元気な挨拶をくれた妹の鈴がうつ伏せで寝転がっていた。背中には追い打ちをかけるように木刀が寸止めの状態で止まっていた。その木刀を握っている奴へと視線を移す。天だった。
一歩前に出ると隅っこに気配が。
隅っこを見てみると、丸まって怯えている扇がいた。
少し、近づくと、ビクッと震えて顔を上げた。
水玉のついたパジャマを着た、白髪おかっぱの幼稚園児くらいの身長。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。
扇、鈴の相棒。学校以外はいつも鈴に引っ付いている。顔見知りの激しい子。白髪さえ除けば、鈴の弟として嘘がつけるくらい仲がいい。
「…大丈夫か?」
ポケットからポケットティッシュを取り出して扇の顔を拭く。
よほど怖い目にあったのか袖を握ってきた。
扇の顔を拭き終えて、握ってきた手を握って目を合わせた。
「大丈夫だから、な?」
扇は、コクリコクリと頷いた。鈴は助けを呼ぼうと声を上げた時に気絶していた。
よほど怖い目にあったのか、見てしまったんだろうな…。でも、天が幻術使うなんて聞いてない。
「天、どうやったらこうなるんだ?」
「できる範囲で本気を出して、と頼まれましたので、できる範囲で本気を出しました」
「…大人気ない」
彼女には手加減をするということを知ってもらったほうがいいかもしれない。
天は首を傾げ「どうしましょうか」と言った。
「とりあえず、部屋に運べばいいと思うよ。扇、歩ける?」
部屋の隅でまだ少し怯えている扇には首を横に振ると、か細い声が聞こえた。
「た、立てない…」
腰を抜かしたのか。天、本当に何したんだ…。
天を見ると、無表情な顔が少し眉が動いて困り呆れた顔になっていた。
「主、思ったのですが」
「ん?」
「二人とも、速度に慣れていないようですね」
「ん?」
何を言っているんだ。俺の相棒は。速度?つまり速さってことだよな。何の速度?
「二人とも、私に『できる範囲で本気を出して』と言われましたのですが、流石に全体的に本気を出すと被害があるかもしれないので、速さのみ本気を出しました」
「なるほど」
つまり、天は天なりに手加減をしていたということだ。とは言え、鈴も扇も十分と強いと思う。速さだけ本気を出したところでここまでボロボロにならないと思うんだけど。
扇は立ち上がろうと足腰に力を入れて踏ん張ってる。これ、立てないなぁ。生まれたての小鹿ってくらい震えてるし。
「扇、抱っこしようか?無理に立たなくてもいいよ?」
「へ?」
「よくがんばりました、でいいかな?」
扇の頭を撫でる。その間も扇は戸惑っている。
「なんで?僕は主を守れなかったんですよ?」
「模擬線で守れなかった。なら実践では守れるようになるでしょ?だって、負けた理由がわかるんだもの」
「で、でも、次守れるかどうかわからないし」
「守れるかどうかじゃないよ、守るんだ。それに、天の本気を受けても、鈴みたいに気絶してないだけ十分だよ。さ、移動しよっか」
雷は扇を抱きかかえ、天には鈴を叩き起こしてもらった。正直、俺が鈴を起こした方が良かったんだけど、扇の怯え方がやばかった。鈴も鈴で目の前に天がいることに相当驚いたようで、聞いたこともない叫び声をあげていた。
天、お前本当に何したんだよ。なに、そんなに恐怖することあるの?
「ら、雷にい」
「鈴、大丈夫か?何されたんだよ」
部屋まで運ばなくてもいいって言われたので何があったのか聞く。もし、天に幻術の様なのが使えるのなら戦闘手段が増える。
「天、の大量出現」
「…は?」
「それも一つ一つ実体が…あるの」
後ろにいる扇が小さく呟いた。意味がわからない。天の大量出現?それも1つずつ実体がある。しようと思えばできないことはないけど。怯えるほど出すことはできない。というか、それ怖いのか?
「なにそれ」
「あ、あのさ、天」
「はい、何でしょうか?」
「私たちにしたこと、雷にいにも見せてあげて。そうしたらわかると思うから」
抱きかかえている扇が震えるのを感じた。
怖いのか。
「扇、怖かったら目、瞑ってもいいよ」
「うん」
小さい手に力が入る。目を強く閉じている。
見ることができなくても感じてしまうから、あんまり意味ないけど。気休めにはなるか。
目を閉じていても良いと言っておきながらである。
「天、いいぞ」
天に合図を送る。
「雷にい。もう偽物」
「は?」
「主、ここです」
後ろから聞きなれた声が聞こえた。
気配を感じなかった。気配が目の前に。後ろの奴は気配がない。でも、後ろが本物。ただ、段々後ろの奴の気配が強くなってくる。
「なるほどな…」
「それも偽物」
「……」
移動されたか。でもなんとなく理解できたよ。
「あの、まだですか?」
今度は鈴の後ろからだ。
ただ、この二人が怯えるのがわからないくらい怖くない。
「なるほどなるほど。で、これのどこが怖いの」
「天、雷にいに軽く触れてみてよ」
「はい」
鈴の後ろからこっちに歩いてくる。目の前には鈴の後ろの奴だけでなく、横にいる天もこっちに移動してきた。そして、後ろの天も動くのがわかる。
全てに実態があるということに気付いて欲しいのか。
「でも、動くだけだろ。幻かもよ」
「違う。全部本物。でも偽物」
震えた声で扇が応えた。気配か。気休めにもならないか。
言っていることに矛盾があるけど、そういうことなんだろう。でも、
「言ってることがわからない」
率直な感想を言う。
一番近くにいた後ろの天が雷の背中に触れる。そして前にいる天も触れる。もう一人の天は、腕を掴む。
その瞬間、雷は何が起こったかを理解した。
「本物って言うのかわからないけど、見つけたかな」
腕を掴んできた天を掴んだ。
「正解です」
他2人の天が霞んでいく。
「扇、もういいぞ。大丈夫だ」
「う、うん」
「ちょっと、雷にい」
「…マネしちゃダメなやつってことは理解してよ?」
「え」
「禁術ってこと。いや、禁術ってほどではないけど……実際にしてみようか。天、お前はもう使っちゃだめだからな」
「はい」
「そのために天、俺の脈を注意してなよ。何が危険か教えてやる。ほら、手首」
「みゃ、脈?」
「見てたらわかるよ。天、脈の方はどう?」
「いつもより少し早い程度でしょうか」
「緊張してるからな。ま、確認できたところで、やるぞ」
自分の後ろに2人の雷が出現する。
使用者である雷は確信を得た。この術ではなく、技が危険であると。
「雷にいが3人…」
「天、脈どうなってる?」
「主の息遣い、口調がいつも通りなのがおかしいくらい、早いです。『全速力で走った』ではなく、今すぐにでも命が絶えそうな感じがします」
驚きの顔を鈴は見せ、扇は息をのんだ。抱きかかえている扇の耳は雷の鼓動が一番大きく聞こえているからだろう。
当たり前だ。目の前で、たった一つ技を使っただけで死にかけるか死ぬ状態。驚かない方がおかしい。
しかし、雷は平然と答えられる。
「ありがとう。これが使ったらダメな理由だよ」
2人の雷がさっきと同じように霞んでいく。
「雷にい…」
鈴が心配そうな声で呼ぶ。天の腕を掴みなおし、そして目を閉じて呟いた。
「混沌から生まれし二極。陰と陽、全ては一つの体にあり」
雷の長い髪が風になびく。
屋内であること、窓は開いているが風が通っていないことに。
「ゴホッ、ゴホッ」
「ケホッ」
天と雷がほぼ同時に咳き込み始める。
あり得ないことに風がないのに髪がなびいている中、ずっと咳き込んでいた。
扇も心配になったのか器用に雷と天の背中をさすった。
しばらくすると、二人とも落ち着き、軽く話せるようになったころ。
「雷にい、大丈夫なの?」
「…もちろん。そのための『言葉』だから」
「あ、あの。さっきのはどうなったの?」
「うぅん…えっと、以上に脈拍が高くなってしまったってだけで。さっき俺が呟いた言葉は」
「うん。でも、陰と陽って言われてもわかんないよ。」
「陰と陽は本来は内側で混ざり合ってるものなんだよ。」
「陰を分身、陽を体?」
「うん、正解。もっと詳しく言ったら、陰を自分の存在、陽を肉体としたんだ」
「どういうことですか?」
扇が説明を要求したので軽く説明することに。
「さっきの分身の技は体にある、あるものを陰と陽に分けたんだよ、無理やりにね」
「じゃあ、雷にいは、本来噛み合ってる歯車を無理やり空回りにさせたってこと?」
「うん。だからこそ、本来必要な陰と陽が一つの体に無いものだから、死か死にそうな状態になったわけだ」
「ですが、主。そうだとしたら、私はどうして大量に出せたのでしょう」
雷は少し渋った顔をしたが、口を開いた。
「……俺は人であり、人間だ。天は見た目人だけど、武器だ」
「武器、人とは違う限度ですか」
「……たぶんね。だからこそ、限界が人とは違う。人間である鈴は使っちゃダメだし、武器である扇は神経を使うからダメだよ」
「う、うん。しない」
「私もしない。私と扇は皆の命を預かる身だもの。そんなことをしてみんなに迷惑かけられない」
「だそうだ。天は?」
「主を守る身ですから、無茶は出来ませんね」
「うし。じゃ、俺は昼飯ぃ」
間延びした声で道場を出て行く。よっぽど、空腹だったのかお腹から大きな音が出た。
「あっ!主っ、待ってください!お昼はそうめんが冷蔵庫に」
「おー、そうめんかー」
ヨタヨタと歩いく。道場から出た瞬間に雷の姿が消えた。
「あ、力使いましたね」
「扇、黙っておいて」
「うん、そうする」
「すいません」
ペコリと頭を下げる、天。
気づけば、お昼を過ぎ、おやつの時間も当に過ぎている時間だった。お昼を食べるにはあまりにも遅すぎる時間だった。
天はそれに気づいて、大慌てで飛び出して雷と同じように姿を消した。
「あーあ、天も大変だね」
「そうですね、主」
「扇ー、やっぱり『主』ってのやめよー」
「そうですか。では、なんとお呼びしましょうか?」
「うーん、『お姉ちゃん』か、『鈴お姉ちゃん』かな」
「わかった。鈴お姉ちゃん」
「うん、よろしい!」
道場に女の子と男の子の笑い声が響き渡った。
天の『速度だけ本気を出した』という言葉には誰も気付いていない。
★
少し先にいる長髪少年の蓮田雷から気付かれないように距離をあける。空き缶でも蹴らない限り気付かれない距離。
「なんで私、尾行みたいなことしてるんだろう。ここまで来たし、少しの間お世話になるだけなのに」
学校での、さっきの公園での会話を思い出す。溜息がでる。
「嫌われてるのかなぁ、私」
肉食系女子はダメなのかな。いや、雷ちゃんが草食過ぎるのよ…ってあの見た目でガンガン来るのはちょっと可笑しいか。
「次はどんな感じで声かけようかな。雷ちゃんの家で少しの間過ごさせてもらうし、話せるチャンスは一杯ある!」
立ちながら妄想にふけっていると、カラスの鳴き声で現実に戻った。
気付けば、先に歩いていた雷を見失っていた。
「あ、いない。まぁ、気にせずに歩けるのはいいことよね。たぶん」
ポジティブに考える。
「そもそも雷ちゃんに気付かれてもごり押し出来そうだけど」
ついさっきの公園での会話を思いだす。
二度と話しかけるなって言っておきながら、話しかけても返事をくれる。
本当は優しい子なのになぁ。何はともあれ、早く雷ちゃんの家に向かわないと。暑くて倒れそう。
「それに、先生がくれたメモ通りならあと10分くらいで着きそうだし」
メモを確認するとこの先はずっと一本道だった。
「10分もかからないところに、階段見えてるんだけど」
一本道をまっすぐ進んだところに山を登るためのような階段があった。階段の先には豪勢な木で出来た門。ただ、そこまでにたどり着くために通る道が暗い。
「本当にここなの?」
迷いに迷っていると後ろから声をかけられた。
後ろを見ると小学生くらいの男の子がいた。
「おねーちゃん、何か用かー?」
「君、そこの家の子?」
階段の先にある門を指差す。すると、目の前にいる少年が首を振った。
「あ、ごめん。それじゃ、蓮田雷って子の家知ってる?」
「うん、知ってるよ。そこの階段の上。てか、雷兄ちゃんの家知らないのにここまで来れたんだ」
少年の指した方向にはさっき不安だった家の門があった。
「学校の先生に教えてもらったんだ」
「へ~。でも、学校の先生が人の住所をほいほい教えてもいいのかな」
「まぁ、投げやりな感じの先生だったから」
楓香は少年から階段の上の門へ視線を移す。
「おねーちゃん、ここじゃ見ない顔だけど、旅行?」
チラっと少年を見る。
「今日引越ししたばっかり。これからこの町でお世話になるね」
「で、どうして雷兄ちゃんに用が?」
「雷ちゃんにちょっと頼みごとが…ね」
「頼みごと?」
「あんまり女の子を詮索しない、いいね?」
「え」
「いいね?」
「はい」
確か、雷ちゃんは私より先に家に着いてるはず。問題は、家主である雷ちゃんのお爺ちゃんに先に会うこと。そうじゃないと、絶対に追い出される。
「おねーちゃん、どうした?」
「ちょっと、行きづらくて」
「???」
少年は困った顔をしていた。
「ふぅ~。よし覚悟決めた!!ありがとう」
「う、うん?」
階段を一段一段と上がっていく。
門の前に着く。
「あれ、ない」
門の前に来たのだ。普通ならあるはずのものがない。
「いやいや、いくらなんでもインターフォンくらいはあるでしょっ!」
門の前で大声で叫んだ。
「来るとわかっていればインターフォンはいらないものなんじゃ。それに、我が家に来る者は一度連絡をよこしてから来るからのう」
門から、いや正確には門の奥から声が聞こえた。門を少し開き、人一人分が通れる隙間から腰の曲がった老人が顔を覗かせた。
「いらっしゃい。君が愛宕楓香ちゃんかね?」
「え、ええ。そうです」
「担任の先生から話は聞いてるからの。さ、入った入った」
「あ、はい」
手招きをしてくる老人。
この人が…雷ちゃんのお爺さん?お爺さんと雰囲気が違う。
「ん?どうしたんじゃ?……あぁ、その顔は雷と何か違う、とでも思ってるのかのう?」
考えていることを見抜かれた。でも、いつもあることって感じだよね。
「ここを訪れた者は皆、そんな顔をするんじゃよ。何せ、あの無愛想な態度じゃから」
「ははは」
確かに…あの態度だもん。仕方ないわ。
「ささ、暑いところでいるのもつらいのでな。早く涼しい家の中に入らんかのう?」
「あ、すいません」
門をくぐると広い庭、家の裏口らしき扉があった。後ろには裏門があった。
今日から、数日間お世話になるんだよね。問題は雷ちゃん。見つかる前に追い出せない状態にしておかなないと。それにしても、本当に広いなぁ。神社だっけ。本堂も一緒にあるんだからこれくらいが普通なのかな。
「雷のことなら大丈夫じゃよ」
「へ?」
「担任から話は聞いておる。つまりはそういうことじゃ」
担任から教室での会話を聞いたということかな。その話を聞いても大丈夫というのは、やはりここの家の主人だから?
「ところで、楓香ちゃんはお昼は食べたかの?」
「いえ、食べてないですけど」
「そうか。それなら、お昼にしようかのう。何か苦手なものはあるかの?」
「苦手なのはナスと茸類が…」
「ふむ。了解じゃ。我が家の料理人に伝えておくからのう。こっちじゃよ」
そういって真っ先に案内された場所は、キッチンだった。
見た目の割にキッチン設備やリビングが豪華なんだけど。
「ふむ、冷蔵庫にはそうめんがあるの。あぁ、適当なところにでも座っててよいぞ?テレビでも見ながら食べるか?」
「あ…えっと、こっちのテーブルで大丈夫です」
キッチンの近くにあるテーブルの前に立つ。
「そうかい」
微笑んんだおじいさんを見て、くすっと笑ってしまう。
「少し力を抜いても大丈夫じゃからな」
「そうですね」
リビング側のドアの向こう側の音が聞こえた。
おはこんばんわ。早音です。
すいません
え、どうしたかって?ふっ、オンラインゲーム忙しいです(ぉぃ)。本当にすいません。加筆&加筆&修正で時間がとられていたわけなんですが、私の語彙力の無さのせいで、気づけばこんなに時間がたっているではありませんか!(主にオンラインゲームという誘惑に負けているのが大方な理由なんですがね)
本当は、もっともっと話を書いている予定でした。いや、一人でいるときとか、色々お話が出来上がっていくんです(頭の中で)。でも…書けなかった。忘れたわけじゃありません。気づけば、オンラインゲームが起動していたからなのです。
そんな誘惑に負けやすい私でございますが、ここでお別れといきましょう。後書き、なかなか止まらないものです。(前回からこの投稿までの時間がありすぎて)
ではでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
私ってどうしてここまで誘惑に弱いんでしょうかね(笑)