第43話 正義の味方、訓練を施す
予定より大分遅くなりました。(;´∀`)
異世界生活四十五日目
派手な衝撃音が響いて標的となっていた丸太が後方へ吹っ飛んだ。
ゆうに五メートルは飛んでいる。
その衝撃を生みだした当の本人であるメリアは満足げにその光景を眺めている。
彼女は素手の打撃だけで、重さは五〇キロを下らないはずの直径三〇センチ長さ一・五メートルはある丸太をぶっ飛ばしたわけだ。
それを成せるのも彼女に施された改造手術のおかげだ。
彼女の強化された筋肉は成人男性の四倍以上の力を発揮でき、その皮膚は鋼鉄よりも硬くなるため思いっきり丸太を殴っても擦り傷一つ負わない。
こちらの世界で俺が見た中では、一番やばい存在になったのは間違いない。
その隣では同じサイズの丸太に向かうタリアがいる。
彼女は2メートルほど丸太から離れて立って左腕を向けると、手のひらから火炎が放射される。
勿論、魔法じゃない。
彼女の義手に仕組まれた火炎放射器だ。
丸太をこんがりと焼いたあと、今度は右手を掲げる。
すると右腕から三〇センチほどの刃が飛び出て、腕と一体化した剣となる。
それを構えたタリアは一気に丸太に駆け寄って一閃すると、丸太は見事に真っ二つに断ち切られた。
それらの光景を俺は満足げに見ていた。
うん、二人とも大分改造後の身体の扱いに慣れてきたみたいだ。
現在、俺の監督下でメリアとタリアが訓練をしている。
二人のリハビリはすでに終わり、今度はその性能を引き出すための訓練に移ることにしたのだ。
勿論、研究所内の運動スペースでは手狭なので外に出てきて訓練している。
ここがガルドルス大森林と聞いて最初は二人ともかなり怖がっていたが、まあそこは慣れだ。
出てきた魔物をさくっと倒して見せて特に問題ないことを示すと、今では二人とも怖がることなく訓練に打ち込んでいる。
そもそも今の二人ならば、ここに出没する魔物でも問題なく対処できる能力を有しているはずだ。
二人はただ治療してもらったとだけ認識していたが、彼女たちの身体の能力は今までのものとは比べ物にならないくらい強化されている。
そのことを認識させることに少し難儀した。
メリアの改造による一番の恩恵はその防御力だ。
だが赤翼大蜥蜴によって瀕死となった彼女が、負ったトラウマのせいでその性能を十分に発揮できない可能性もあった。
そのため段階的に強化された自分の身体を知っていく必要があったのだ。
タリアは体そのものの改造はメリアほどはされていないが、その両手足の義肢はトンデモ機能満載のものなので、それの取り扱いを教える必要がある。
リリーが無駄に本気を出したので、その機能をすべては把握していないが、取り扱い訓練の済んでいない機能は制限できるので当分使えないままにしておくつもりだ。
そもそも使い道があるかどうか怪しい機能もなるからな。
最初は向上した身体能力に戸惑っていた二人だったが、持っている才覚からか若さゆえの適応力からかすぐにその能力を扱いこなしている。
各々がターゲットである丸太を倒し終え、俺のところに駆け戻ってきた。
ちなみに今日の二人の恰好は、なぜかジャージだ。
しかもエンジ色の芋臭いジャージだ。
二人の西洋風の顔立ちも相まって、コレジャナイ感が半端ない。
尤も、ジャージを初めて着た二人は動きやすさに感動していたが。
そして俺も色違いの紺色のジャージだ。
竹刀でも持てば体育教師然とするだろう。
すごい高校の運動服を彷彿とさせるジャージだな、これ。
芋臭いが非常に着心地がいい。
……それにしてもなんでこのジャージが悪の組織の研究所にあるんだろう?
そんな疑問はさておき、メリアとタリアに向き直る。
「二人とも問題なさそうだな」
「はい、すごいです。この体は」
メリアが目をキラキラさせて答えた。
「以前みたいに歩けるかどうかさえ絶望的だったのに、今じゃ以前よりも速く強くなっているなんて」
「私の義肢もすごいですよね。いろんな武器が仕込まれているとか……」
そう言ってタリアは義手のあちこちを動かしてみる
義手にいくつもの切れ目が入り、そこから機械パーツが飛び出てナイフになったり、銃口が出てきたりする。
彼女の見た目の愛らしさに相まって、その義手の無機質な暴力装置の異質さが際立つ。
とはいえ、二人とも大分体の取り扱いに慣れてきたみたいだ。
これでこそ訓練のし甲斐があるというものだ。
俺が訓練を施したのは八八五号で最後だったが、彼女も意欲的な良い生徒だった。
……八八五号は元気だろうか。昇級試験に受かっていればいいが。
なんて望郷に耽っていると俺のセンサーがこちらにくる動体を検知した。
なんてタイミングがいいんだ。
メリアとタリアにも各種センサーが備えられているので、二人も近づいてくる存在に気づいたようだ。
少しばかり警戒すること、数十秒。それが姿を現す。
四本腕の熊だ。
「よし、二人であの熊を倒してもらおうか」
俺の発言に二人は唖然とした。
「四腕熊ですよ?普通は三級のパーティーで相手する魔物ですよ!?」
「今の二人なら問題ない。むしろ一人でもやれる位だろ」
俺の言葉に二人は顔を引き締めた。
なぜか二人とも俺の言葉は諸手を挙げて信じるんだよな。
少しばかり疑うってことを知ったほうがいいと思う。
おじさん、二人が騙されないか心配だよ。
俺の見当違いの心配をよそに、覚悟を決めたメリアが一気に四腕熊との間合いを詰める。
熊は近づいてくるメリアを威嚇するように牙を剥き、そして丸太のような腕を振るう。
メリアはそれを回避してすれ違いざまに斬りつけるが、普通の長剣なので大して効いてはなさそうだ。
思っていたよりもあの熊は堅いな。
それでも注意を引くことはできる。
いつの間にか射程に入っていたタリアが熊に向けて左腕を向け、発射音と共に五センチほどの長さのボルトが左腕から連続して射出される。
ボルトは熊の体に数本刺さるものの、それも熊の分厚い毛皮に阻まれてあまり効果はなさそうだ。
熊がタリアに意識を向けている間にメリアが動く。
斬りつけても効果が薄いと判断したメリアは、長剣をまっすぐに構え熊の腹部へ突き刺した。
長剣は熊の体に深く突き刺さる。
だが野生の熊の生命力は伊達ではない。
傷は深くとも致命傷ではないようで、腕を振るってメリアを投げ飛ばし、彼女は激しく木に体を打ち付ける。
並みの人間ならば重傷を負ってもおかしくない衝撃だが、今のメリアならば何の問題もない。
彼女はすぐさま起き上がり、熊へと向かっていった。
うーん、あの熊は接近戦をするには分の悪い相手かな。
特にメリアは力とスピードは増していても、攻撃手段の拡充はされていないからどうにも手詰まり感がある。
彼女にはなにかいい武器を用意したほうがいいかもしれん。
メリアが陽動している間に、タリアが仕込みをしていた。
タリアはワイヤーアンカーを撃ち出して熊の体にアンカーボルトを食い込ませると、ワイヤーを近場の木に固定する。
それを何度か繰り返して複数のワイヤーを張られた熊は身動きを封じ込められた。
ワイヤーは特殊鋼製なので切れることはないが、熊の体に打ち込んであるアンカーが抜ける可能性があるため長くは持たないだろうが、それでも十分だろう。
身動きが取れずにいる熊に向かいメリアが予備の短剣を手に背後から飛びかかる。
熊はメリアを振りほどこうとするも、ワイヤーがそれをさせない。
そうこうしているうちにメリアは熊の頭へと手を伸ばし、短剣で眼球を突いた。
熊は痛みで暴れ、メリアの腕に喰いつくが、彼女はそれに臆せずに短剣を刺す力を弱めず、捻りを加えながらも更に刃を押し込んでいく。
勝負ありだな。
最初は激しく抵抗していた熊も徐々に動きは弱まり、やがて力なく地面に倒れた。
俺は熊が死んだのを確認すると、二人にねぎらいの言葉をかける。
「上出来だな。問題点もなくもないが、これだけできれば十分だろ」
一応二人を確認するが、怪我もなさそうだ。
せいぜいメリアのジャージの袖に穴が開いたぐらいだな。
「それじゃー、二人で熊の処理をしてくれ」
熊の処理は二人に任せて、俺は様子を見に来たリリーと話をする。
「どう、調子は?」
「粗削りだけど概ね合格だな。この分なら問題ないだろ」
若干の改良点はあるが、それも小さな問題だ。
「本音を言うとハリネズミのように武装させたいけど、彼女たちに扱いきれない力を与えても仕方ないしね」
「それに現状でも二人がかりなら俺クラスでもない限り負けはしないだろ」
メリア限定で言えば勝てない相手でも負けることもないだろう。
彼女に与えられた能力はそういうものだ。
「じゃあ次の段階に進めることができるわね」
リリーは悪役っぽい笑みを浮かべるが、実際のところそんなに大したことではない。
「そうだな、あの二人に家を任せて、俺たちは王都に行けるな」
「王都に行くためにいろいろ準備しないといけないわね。あとはあの二人をオジェクに戻して”お披露目”しないと」
あの重傷を負った二人がわずか数週間で完治したと広まれば、色々面倒なことになるだろう。
だから冒険者ギルドのギルマスとかに引き合わせて、後ろ盾になってもらおうという算段だ。
物理的に二人は向かうところ敵なしだが、社会的には奴隷の身分だからな。
俺たちが王都に行っていないときに助けとなる人間が必要だ。
「じゃあ明日は全員でオジェクに行くのでいいわね?」
リリーの言葉に了承する。
そして先ほどから気になっていたものを指さしてリリーに尋ねた。
「……で、なんだこれは?」
指差したそれは膨らみつつある銀色の風船のようなものだ。
もちろん子供の持つ風船のような形状ではなく、現状マットレスほどのサイズであり、まだまだ膨らみそうだった。
「成層圏プラットフォームよ」
「……なんだそれ」
聞き覚えのない単語だ。
「自立飛行する飛行船で高度二〇キロを維持して飛行し、通信の中継、地上の観測をするのよ。機能的には人工衛星みたいなものね」
話には聞いたことがある。
災害時に基地局として使われることを念頭に開発されているやつだったか。
「カバーエリアはだいたい半径一〇〇キロ程度ってところかしら。ソーラーパネルで電力を賄って自動で稼働し続けるわ。約半年に一回はメンテナンスをする必要があるけどね」
「ってことはあれか?王都に行くための準備の一環か?」
「そうよ。今あるネットワークじゃここの研究所とオジェクを結ぶので精一杯なのよ。王都までの回線をつなぐにはこれが必要なわけ。人工衛星を打ち上げてもいいのだけれど、静止軌道に入れるのは手間だし、なにより打ち上げ時の軌跡が遠くからも丸見えなのが問題なのよね」
「ああ、なるほど」
打ち上げたロケットの軌跡ははるか遠くから見えるだろうな。
それでここになにかあるとバレては面倒だ。
ここがガルドルス大森林という容易く人が入れない土地であるとはいえ、できるならここに地下研究所があることを隠しておきたい。
ってか、リリーは静止軌道に入れる人工衛星すら作れるのかよ。
ありえねーな、悪の組織。
「ネットワークをつなげておけば、王都にいてもメリアとタリアの二人とも連絡が取れるし、ここのデータにアクセスすることも、遠隔操作で地下研究所を動かすことも可能ってわけ」
それにしてもカバーエリア半径一〇〇キロか。
一〇〇キロというと東京駅から富士山までが直線距離でだいたい一〇〇キロだ。
しかも半径一〇〇キロと言っているから、遮蔽物がなければ最大で二〇〇キロの距離の間の通信が可能になる。
しかもリリーが用意した成層圏プラットフォームは二機。
単純な計算で言えば、三〇〇キロの距離を通信できることになる。
よほど王都が遠くない限り問題ないだろう。
「王都、楽しみね」
「まあな」
リリーは面白そうに言い、俺も同意するも若干の不安も拭えない。
王都で平穏無事に過ごせるのか、はたまた面倒ごとに巻き込まれるのか……。
神のみぞ知るってやつだな。
>単純な計算で言えば、三〇〇キロの距離を通信できることになる。
というところの誤字報告で、四〇〇キロではないかという報告があったので補足。
中継器のカバーエリアは半径100キロなので、
A地点→100キロ→中継X→100キロ→中継Y→100キロ→B地点
となるので、一応、300キロであっています。
まあ、本当の中継器の動作がどうなっているのかは詳しくないので分からないのですが、リリーの作ったのはそういう仕様だという事で宜しくお願いします。




