夕暮れ告白
彼は輝かしい人だった。華やかな容姿、遡れば華族にも繋がるという上級階級の実家、恵まれた知性……神様に愛されたかのように全てを手に入れた彼はその恵まれた環境や素質におぼれず謙虚で穏やかな性格をしていた。そして彼は当然のごとく女性にもて、それ以外の人達からも人望が厚い人だった。
キラキラと眩しい。本当に眩しい人だと思う。そんな人と放課後の夕陽に染まる教室で私は向かい合っていた。
彼は夕陽を背に顔を真っ赤に染めていて、私はどこか遠い視線で意識を飛ばしていた。
「あ、ああああああの!!ぼ、ぼくとそのあのののののののの!つ、つ、つつつつつつついっぅ!!」
人語を話せと言いたくなるほど支離滅裂な言語を発していた彼はどうやら舌を噛んだらしく涙目で口を押さえていた。
ああ、そんな姿も光輝いて見える。…………本当に光っている人よね。
「ひひゃい………」
「…………だいじょうぶ?」
我ながら棒読みだなぁと思うが一応そう声を掛けると潤んだ瞳で見上げられた。…………やめてくれ。そんな目で私を見るな。
私の心の距離が離れていることに気づいているのかいないのか、それとも痛みがようやくひいたのか再び立ち上がると真面目な顔をした。
ああ、なにか、物凄く厄介ごとの匂いがする。
「しゅきです!ちゅきあってくだひゃい!」
………………。
なんとも言えない沈黙が場を支配した。うん、何を伝えたいのかは伝わった。ただ、その、噛んじゃったから小さい子が年上のおねぇさんに告白したかような微笑ましさがあったね。
いや、微笑ましかったよ?がんばったね?だからね、絶望しきった顔で床に体育すわりしないで?背中に哀愁が漂いすぎて正直君が窓から発作的に投身自殺しかねない気がして怖いよ。
「しくしくしく………」
ああああああ。泣いちゃった。泣いちゃったよこの人。面倒な人だ。
「な、泣かない!大丈夫。誰にも言わないから。ね?」
何故私は保育士さんがすねた園児の機嫌を取るようなことを言わねばいかんのだろうか?
「だめです…………一世一代の告白で噛むだなんて………ぼくは駄目な男です………」
「そ、そんなことないって!駄目じゃない駄目じゃないよ!!」
「………呆れてません?」
「呆れてない呆れてない!」
「かっこ悪いって、思ってない?」
「ないないない!」
「付き合ってくれます?」
ギラリと光った。こいつの目、まさに獲物を狙う獣の目だよ!!
「の~~~~~~~~~~~っ!!」
胸の前でバツ点を作って全力で拒否させて頂きますよ!!
「ちっ!」
鋭く舌打ちしましたよ、この似非王子さま!!
若干腹が黒くなってませんか!!
「あのっ!」
「はいぃぃ!?」
「僕とつきひゃ!」
再び噛んだ。地獄のように沈黙が二人の間に流れていく。
「「…………………」」
彼が無言で窓を開けた。夕暮れの中、躊躇なく窓枠に足をかけ………っておいぃぃぃぃ!!
「だぁぁぁぁぁぁ!!はやまるなぁ~~~~~~!!」
という流れを三回ほど繰り返したところで先生に見つかって強制帰宅となりましたとさ。
告白のその後?
あはははは。
告白しようとすると呪われたかのように噛みまくる王子様が落ち込むのを宥める毎日です。