表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/115

七月十一日

 七月七日。とにかくつらい。早く一週間が終わってほしい。つらいとしか表せないのがイライラしてくるくらいつらい。

 七月八日。金曜日なのに明日も仕事がある。わけがわからない。世の中の人はみんな休んでるし、それでも私よりいい給料もらってるのに。部活とか土曜投稿とか考えたやつはみんな苦しみぬいて死ね。うざいうざいうざいうざいうざい

 たぶん来ないだろうと思って在学ニートをやりながら漫画家になりたいなんてほざいている発達障害気味の友人に(言っていることがむかつくだけで本人に恨みがあるわけではない。事実彼女の行く末が非常に心配だし早くそういうあほなことを言うのをやめて普通に就職してほしいと思っている)週末のヒトカラにつきあわないかと聞いたら来るという返事。やけになってもうひとりにも連絡してみるとやはり来るという返事。約束が決まったら無性に一人になりたくなってきた。人と一緒のカラオケは正直ただの接待だ。まあ酒が飲みやすくなるから我慢しよう。一人のほうが気楽だが酒が注文しづらいのだ。ストレスがたまって食べ物ばかり買っては吐いてしまう。全然何も残らないし体にも悪いし太るし苦しくて汚いのにそれだけが唯一の楽しみでもある。矛盾してる。

 七月九日。朝から帰りたい帰りたいで変なオーラが体から出てきている気がする。模試監督もないし何もすることがない。夏期講習の準備なんて言って半日テキストをいじって、まだ大勢先生方が仕事をしているのをしり目に勤務時間が終わるとあわただしく逃げ出してきた。給湯室の掃除を忘れたのに気がついたがもう校門を出てしまっていた。もういい。火曜日は全部私が一人でやったんだし。大宮につくとワンピースに着替えた。二年前に電車で体を触ってきたおっさんを脅して取った金で買ったその服がなんだかものすごくダサいのに気がついて二人に会う前になにかなんでもいいから服を買おうと駅ビルを上から下まで見て回るがどれもこれも高いような気がして手が出ない。過食には3000円でも5000円でもぽーいとつかえてしまうのに1000円のキャミソールすら手が震えて買えない。鏡に映る自分の顔が鼻がでかくて気持ち悪い。ゴリラが服を着ているようだ。いらいらいらいらしてくる。二人からそれぞれ約束の時間に遅れると連絡があった。どうせそうだと思っていた。いつもこいつら人を待たせるんだ。会ってから、なぜかうどんをたべ、カラオケに行くがフリータイムにはあと40分たたなければ入れないという。仕方がないので近くのロフトへ行く。ひろ子が「ぽこにゃん」を探したいと言うので本屋に行く。不二子F富士夫美術館に行きたいのだと嬉しそうに言うひろ子だが、どうも葉子は不二子には興味が持てない。頭も体も丸々していて気持ちが悪い絵だと思う。40分後店に戻ったが長いこと待たされて結局入ったのは受付から1時間もたってからだった。薄い酒を飲みながらカラオケをする。泉の選曲も歌のうまさも知っているはずだったのにやたらいらいらする。「今日はのどの調子がよくなくて」なんて寒い言い訳をするものいつものことなのにいらいら。ひろ子も想像していた以上にヘタで聞くのがつらい。でもそれ以上に、こんな自分と付き合いを続けてくれている二人にいらいらしている自分にイライラした。なんの根拠もないが、もしかしたら奈都子も自分に対してこんな気持ちをもっているのかもしれない。もう電話も帰ってこなくなった。彼女のことを考えるとなぜか失恋よりも気持ちが苦しい。あたしはどこかおかしいのか。アルコールが回るとだんだん寛容になってきて、でもやっぱりときどきいらいらして、なんだか妙な気持で別れた。あたしはつくづく孤独の星の下に生まれついているのか。人といるのが向かないって、つらい。

 七月十日。カラオケから出た後マックで時間をつぶす。仕事の愚痴をずいぶん聞いてもらってしまった。二人と別れてからまた少し時間をつぶして、それからココスの朝バイキングにいった。からあげと貝の炊き込みご飯がおいしい。御倉と納豆と生卵を潤滑にして4回くらいリバった。何回も隣の席の客が入れ替わるのがおかしかった。家に帰ったのは昼近くだった。夜母の誕生日の祝いでウナギを食べに行くという。父が母にコブクロのアルバムをプレゼントしているのをみて慌てて自室でなにかあげられそうなものがないかと箪笥をあさったら未開封のハンカチが出てきた。渡すと喜んでくれたが、値札がはがれていなかったせいで値段がばれてしまった。どうしようもない。妹が帰宅するのをまってみんなで魚庄にいった。15組並んでいたのであきらめて、なぜか坂東太郎で鍋焼きうどんを食べて帰ってきた。なんだかいまいち話に入れず不機嫌になっていたのを悟られてしまう。家族ですらうまくつきあえない。本当にこの世の中は人とうまくやっていけない人間にとっては地獄だ。明日だって早く帰ってくれば一緒にウナギが食べられるのよ、と母が言う。まさかそんな空気の読めないことはできない。私はもう小さい、可愛い、二人の葉子ちゃんではないのだから。父と母の間に入って二人の手をつないでもいいのはその子供だけだ。いまではもう母の一部だったころよりわたしがわたしであった時間のほうがずっとずっと大きくなってしまった。相手のことを「いつまでもわたしのものだ」と思っていたのは母ばかりではない。それなのに、それでも、わたしはそう遠くない未来ここを出ていかなくてはならないのだ。たくさんの傷をみんなに残して、自分も傷ついて、それらを一つも修復できないまま不完全な人間のまま去っていかなければならない。葉子にはそれがとてもつらかった。

 七月十一日。だるい。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ