七月六日
監督表のミスで出勤していない教員が監督になっていたせいでテスト袋が行方不明になった。でもチェック表にもテスト袋の表にも同じことが書いてあったら信用しちゃう、と葉子は思う。その先生が出張だなんて知らなかったし。
「すみませんでした」
「いいよ、みつかったなら」
小走りで駆けていく小川を見ながら葉子はなんとなく腑に落ちない思いがしていた。
テスト監督は確かに退屈だが、楽だ。50分なんてあっという間に過ぎる。座ってはいけないのがつらいが、座ったら座ったで眠気に耐えられそうにないので逆に助かっていた。
午後から下校指導と中学校訪問で学年主任と二人行動だ。20分に出るといわれて20分に職員室に戻ったら主任の姿はすでになく、持っていくためのパンフレットなどの袋もない。慌ててカバンをひっつかみ外へ出ると主任はすでに玄関の前に車をつけていた。馬鹿か私は。20分に出るって言ったら20分に学校を出ることだろうに。慌てて謝って車に乗った。
正直、緊張するしなにを話しても落ち着かない。昼食も相手の食べるのに合わせていたら少しも食べた気がしなかった。こんなのに1000円近く払って、余分なカロリーを取って馬鹿みたいだと思う。営業職じゃなくてよかった。
葉子は人とモノを食べるのが苦手だ。人と比べて明らかに食べるのが遅いし、食べているところを見られるのがものすごく嫌だからだ。でもくちに入れる量はほんの少しにしないと噛んでいるのか味わっているのかまるでわからないからすこしずつすこしづずつ食べたい。大口にいっぱい詰め込んで口を動かすと顔が崩れて不細工がさらに不細工になるから絶対いやだ。よく仲良くなる手段として「食事」が用いられることがあるが、あの神経はさっぱり理解できない。食事はひとりきりで誰からも見られずこっそりゆっくり食べるのが一番いい。他人に見られながらいい料理を食べるより、一人きりで卵ごはんでも食べていたほうがよっぽど幸せだ。まあとにかく今日の葉子の昼食は金のむだなばかりではなく、体に脂肪を蓄えて醜くなるだけものだったのだ。
六時過ぎ、近くの駅で降ろしてもらってから葉子はアイスクリームを一つとゆで卵を三つと、かき氷を一杯、ビスケットを5枚、豆乳をコップに二杯。合わせて700キロからリー近くをもかっ込んでしまった。先週と比べて2キロも太った。もう嘔吐を解禁してしまいたい。週末にカラオケに行くからと控えていたが、これ以上太ったら頭がおかしくなりそうだ。




