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八月十一日

 八月八日。部活のためだけに学校へ行く日。様子がさっぱりわからないので四十分前についたが、さすがに今日は人が少ない。今日も当然のようにシャトル上げをやらされる。いやでいやでしかたがなくてどこかで針が振り切れたらしい。妙にテンションが上がって、あたまに上った血が降りてこない。東京行きの計画がなんだか面倒くさくなってきた。涼しい部屋でネットだけして過ごしていたい。午後ココスのドリンクバーで彼と二時間近く話をした。私はファッション誌(自分の好みではないが精一杯妥協した結果の相手が好きそうなジャンルの。相手が好きそうとはつまりリュックを背負えるか否かだ。たのむから街中でナップザックとしかいいようのないずたぶくろを担いで歩くのやめてください。両手が空いてないといやだっていうけどあなたの両手がいったいあいていたからどんな生産的なことが起こるっていうんですか。そんなにひたすららくにらくにすごしたいなら精神病院の拘束服のなかで栄養点滴で生活すればいいよ)、彼はわたしにこの間のキャンプで行った河口湖のお土産をもってきた。山梨の赤ワインだった。大事に飲もう。

 八月九日。あまりにあつくて疲れてたぶんそれが生徒にも伝わっていたんだろう。なんとなくきまずかった。顧問は相変わらず声を出せ声を出せってうるさい。ええい、とかおおい、とかあの掛け声にいったい何の意味があるのか、文系の血しか流れていないわたしにはまじさっぱりわかんない。こいつセックスんときもこんな調子なのか?疲れると、若いとろいOLにセクハラするおっさんの思考トレースをしてしまう。役場に行って住民基本台帳カードをつくってきた。このまえと同じ顔触れ。書類を受け取ると「ちょっと待ってください」といいながら一人が引っ込んであとのふたりはにこにこと内輪のおしゃべり。ちょっとといいながら十五分はもどってこない職員にいらついておしゃべり女どもにいつまでまてばいいのか、ときくと「少々お待ちください」だからいつまでってきいてんだよお前の脳みそここ連日の暑さで腐ってんのか。家についたのは3時。それもこれも一時過ぎまで部活をやる顧問が悪い。ほんとうに苦しんで死ねばいいのに。スポーツやってる奴は全員不治の病にかかって苦しみながら死ね。明日は顧問の前任校にいかなきゃいけないし。夕飯前にいらいらしてエビスの大きいほうを飲んでしまったら父に嫌がられた。ああ本当にもういや。チックに体入予約入れてしまったらそっちのそわそわが大きくて少し治まった。こういう意味でやっぱり私には水だの風だのの空気が必要だ。カンフル剤的な役割で。

 八月十日。最悪としか言いようのない一日だった。家を早くに追い出されて胃が落ち着かなくて王子でとこか店でも探してカショろうとしたらほんとうになんにもない。きれいなトイレがありそうな店も皆無。千葉の田舎に来ているみたいな雰囲気。東武ストアの場末感がパ無い。そして暑い。気が狂いそうになるほど暑い。毎日毎日汗だらけになる。洋服も髪も洗わなくちゃういけなくて摩擦で消耗が早まる。夏は若さというよりは老いとか衰えの季節だ。すべてが死に向かって一直線に動いている気がする。そしてついた体育館は汚い。とにかく汚くてあつい。どうしてあいつらあんなに戒律厳しいくせに練習場所がほこり臭くても平気なんだろう。トイレは言ったスリッパでべたべた歩いてるところで腹筋運動始めたりしちゃいうあたり部活人とはとにかく衛生観念が合わない。ここであと七時間。本当に死ねよ。おまえもおまえもおまえもおまえもだよ。しねしねしね。若い貴重な時間がこんなところで蚊に食われて(蚊が酷い。いまこうしていても羽音が、虫が血をすおうと皮膚の近くに当たる感触が、する。気持ちが悪い体中がかゆい)浪費されていくと改めて感じさせられて泣きそうになる。わたしは刺された跡がきれいに消えてなくなる性質ではないし、たとえ消えたってそれまで赤い斑点が白い肌に梅毒患者みたいに残っているのは目に不快だ。おまえのクレーターみたいな皮膚がどうなろうがおまえも他人も気にしないんだろうが、わたしのは別なんだよ。生徒たちと距離の取り方を間違っていた気がする。なんでわたしにアイスをおごってもらえるとか考えるんだろう。おまえらはわたしという人間をちからいっぱいおろし金におしあてて痛い痛いと泣きわめくわたしをずりずりおろしてすりころしてしまおうとするたくさんの手のなかの何本かなんだぞ。加害者なんだよ。冗談じゃねえ。さとられまいとにこにこへらへらしていたのが完全に裏目。私がこんなにつらい思いをして月に14万だかそこら。セックスが平気なあたまに生まれたかった。せめて風俗のアルバイトでもして毎週末に20万ぐらいずつ入ればもう少しこころも穏やかになるのに。こんな思いをしてこんな少ししかもらえないなんて。事務の試用期間中の小川さんに電話をしてみたら向こうも向こうでとんでもない労働環境らしい。これから先何十年こんな生活を続けることを思うとあんなにきらいな子供を産んでもいいかとか思ってしまう自分がいる。それくらい仕事がつらい。

 八月十一日。とりあえず六本木に来てみた。有楽町線が止まったせいで新宿から六本木まで40分近くかかってしまったあげく30円をけちって六本木一丁目から歩こうなんてしたせいで件のスタバについたのはもうお昼になるころだった。汗をかいたのと足が痛いのと途中セレブを見すぎたせいで完全にグロッキー。東京のガイドブックで食べ物を眺めるだけで四時になってしまった。ワンピースを着替えて、駅のほうへ向かう。先に店を見て置いてみたかった。・・・たしかになんだかすごかった。チック、キンコンカ、瀬里菜、グランクリュ、聞いたことのある店ばかり、行きかうひとはみんな頭蓋骨が小さい。行きたくなくなって本屋に行ったり、時間をつぶす場所を考えているうちに六時になってしまった。電話を受けて店に行ってエレベーターを上がる。ドラマで見たことのある豪勢ならせん階段、曇り一つない鏡の壁にゴージャスな雰囲気の椅子とテーブルが並び、いかにもキャバクラ。赤とゴールドと白で統一されたきれいな店だった。私以外にも面接が2人きていて、大したことないギャルっぽい感じだったので安心していたけれど目の前に座った面接官はあきらかに自分をみてがっかりしていた。ここで明るくはきはき対応していたらまた違ったのかもしれないけどすっかり委縮してぼそぼそ目線きょろきょろでそうでなくてもだめなのにきもさ倍増。やっぱり来なきゃよかった。後日連絡(=不合格)だった。むかっ腹立ってシングルスバーでただ酒飲もうとしたら出禁になっていた。前回の二時間たったたってないのあれのことか。結局二時間座ったのに。あの女。マジ死ねよ。多分ここでまともに考えるあたまが死んだ。単価の安い池袋や新宿に行けばよかったのになぜか銀座の並木通りを歩いてスカウトのノルマ達成に使われて、どこにいくにも変な時間になって新橋の1500円。汚い汚いうたひろで一晩明かした。マイクは臭いしすぐ音とぶしコンセントが少ない。というかそのまえに11時まで時間をつぶすのがものすごく辛かった。ナンパも本当に暇な時に限って絶対かからないし。こういうとき付き合ってくれる友達がほしい。まあこんな思考に至ったせいで翌日と翌々日わたしはなかなかどうして後悔とイライラに苦しめられることになるのだが。なんとなく気乗りしないカラオケをまずい臭いお茶を飲みながら(これで1500円・・・)猛烈にさびしくて悲しくて仕方がなくなった。自分がみじめだった。私は都市生活とか孤独とかに向いていない。ブスだし要領悪いしのろまでしかも怠惰だ。なのに憧れは捨てられなくて蛾みたいに光のありそうなほうをふらふら飛ぼうとして、ああもうお金がほしい。ひたすらお金がほしい。たくさんお金があって、きれいにきれいになればさびしさなんてなくなるはず。




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