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八月七日

 八月四日。夏期講習最終日。生徒の一人がうるさいから模試対策をとってやろうそしたのにその子だけピンポイントで休み。何考えてんだか。河合模試は難しすぎたらしくぐだぐだな90分間になった。

 最近部活でのシャトル上げが完全に自分の仕事になりつつある。うっかり顧問の説教タイムに残された生徒にシャトルあげていたせいのような気がする。一回二回、ひまなときとかならいいが、ノルマになってしまうと正直うざい。右手ばかり使うと半身だけが疲れるのでどうにか左手でもなげられないか画策した結果、左手投げのスキルまで身につけてしまった。何の役にも立たない。

 自分が意味がないとか、嫌いだとか思っているもののために時間や労力やお金を使うのは、それらがたとえ痛くもなんともない負担だったとしても精神的な消耗が大きい。だからわたし水泳とスキー以外のスポーツはことごとく嫌いなんだってば。特に暑い思いするのは最悪。シャトルを拾うたびに膝を曲げているせいか、就職してから少し細くなったはずの脚が早くも発達しかけてきている。前腿が堅い。「・・・・・・」

 家に帰ってから明後日の彼氏かもしれない人のお誕生日お祝いのために代官山のイタリアンを予約した。青山のフレンチにしたかったのに。イタリアンの店は単価が高いらしくて正直コースを頼む意味がわからない。でもアラカルトで料金の上限が予想付かないのもいやだし。相手が男でなければ表参道のブルガリがやっているカフェに行ってみたかったのだが。鳥の餌みたいな量のお上品なランチで相手がおなかをすかせるのもかわいそうだ。

 八月五日。町役場で住民基本台帳カードの申請をするため午前休みをとって午後から部活のためだけに学校へ行く。パスポートか免許証がないと一回目は申請しかできない。母親に余計なことを言うとなんで身分証がいるのかとかぐだぐだ聞かれまくった上に、変な勘繰りまでされそうなのでいつもと変わらない時間に家を出た。コンビニで一時間漫画を読んで、ほぼ九時ぴったりに役場に行った。そのあとは特にやることもなかったが休みなのに学校に行くのもばかばかしくふらふらしていたが暑くてとてもいられなかった。こういうとき本当にこの街はいらいらする。お茶を飲むところすらないのだから。公園で弁当を食べたら蚊に刺されまくって、食べている最中もよくわからない羽虫がぶんぶんとんで、本当に不愉快な思いをした。胃の調子が悪い。コーラックのせいかもしれない。あれをやるとおなかが下るだけじゃなくて吐き気とか悪寒もでる。それにあれで出すものは異常に臭い。真っ黒で、べたついていて、水っぽいのがでる。絶対体に悪そうだけれど、普通食を普通量食べるとなんらかの代償行為をせずにはいられない。こんなにブスなのにこれ以上デブになったら目もあてられない。

 部活は顧問が進路指導で顔を出せなかったせいで非常にのんびりしていた。体育館は蚊が多くて、虫よけをしていたのにまた刺された。うちの部活しかいないときは窓も開けてないのにどこから入ってくるんだ。顧問は終わりのころちょっとだけ入ってきて、水曜日の午後から遠征に行くと嬉しそうに言いだした。頼むからちょっとくらい私にも選択権をください。午後からでしかも遠征じゃほとんど一日そのために使わなければならない。なんでこの男はこんなに私の時間をどぶに捨てさせるのが好きなんだろう。暇なのはお前だけだわたしを巻き込むなくそやろう。手取り20ないんだぞこちとら。毎日四時間以上サービス労働して、研修とかにも行かされて、もういやだ。誰でもいいからリッチな専業主婦させてくれる金持ちと結婚したい。もういやだ。

 八月六日。代官山で待ち合わせなのを母にぐちぐち言われた。現地集合現地解散なんて愛がない証拠だ、かわいそうだ、おまえは人でなし。あんまりだと思う。だってタクシーとかちゃんとした車ならともかく、軽自動車とかJRとかで隣に座ってても正直冷めるだけだし、うざい。わたしはそもそも他人が一定距離内にいるのがストレス。相手が自分に好意をもっていてもそれは変わらない。というか、大方のまともな人間は私のことがきらいだし。自分を嫌っている相手と一緒にいたくはないよね。

 渋谷から歩けそうだと思ったら原宿のほう近そうだったので原宿から表参道まで歩いたがやっぱりなんか違うみたいなのでまた原宿、渋谷と戻って渋谷からあるいたらなぜか恵比寿について、それからなんとか時間ぎりぎりに代官山についた。

 食事はまずくはなかったけれど三千円の価値があるかというと微妙。代官山のマンションがどれもこれもきれいで、こういうところに住みたいという気持ちがむくむくしてきた。少しの間でもこんな暮らしができるなら体でも臓器でもうっぱらってしまいたい。なにもかもがきれいで品がある。坂が多いのも素敵。でも相手は尻の座りが悪いらしく、渋谷に行こう渋谷に行こうとあっというまに代官山を連れ去られてしまった。

 恵比寿で前登録しかけてビビってやめたプロダクションのビルをみて鬱になった。なんで大学時代にやっておかなかったんだろう。キャバクラより人にも言えるし、いろんな出会いもあったかもしれないのに。いまショートパンツをはける足になってからはさらに後悔することしきり。やってみたらいろいろできたかもしれないのに。もしかしたら代官山に住まわせてくれるようなひととの出会いもあったかもよ。でもこの仕事をしているかぎりそういうことには手は出せない。ていうか、もうそろそろ「トウが立った女」になってしまう。いやだ。若さを無駄に垂れ流してしまったことが悔しい。まだ間に合うとかいう人いるけど、もうこれからイベコンはどう考えても難しいよ。脱毛もコンパニオンもメイドカフェも整形ももっと早くしておくんだった。悔しくて悔しくて仕方がない。なっちゃんが誘ってくれなかったのは私がブスだからか。くやしいくやしい。もしかしたらあの程度のことならできたかもしれないのに。もうやだ。お似合いのひととなんかいたくない。今一瞬の損得だけの付き合いがしたい。深いのとか重いのとか本当にだめなんだ。人の善意が気持ち悪い。ぬるくてべたべたして、耐えられない。不幸体質だってわかっててもいやだ。理屈なんかなくて、ゴキブリをみたらうわきもって思うようなもんで、私は「まともな」ものに拒否反応が出てしまう。それがいやなのかそれをきらってしまう自分がいやなのかわからないけど自己嫌悪ではちきれそうだ。

 ストレスで一万くらい安物買いをして、家のまんぱんのクローゼットを思い出して鬱になり、池袋のお見合いパブで変な男とつい飯を食べに出てしまいタクシー代もくれなかったのにまたいらいらを蓄積させて、ひたすら不機嫌で家路についた。

 八月七日。気分は変わらず。カラオケに来たのにぜんぜん気が乗らない。くやしいくやしいと後悔ばかりが胃をせりあがってくる。明日から仕事だしもうやだ。体重はまた増えた。いいかげんにしろよ食うなこの白豚。



















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