我が時世の句を
拝啓 寒くなったこの頃 いかかお過ごしでしょうか
発熱息苦しさ寒気手足の震えなどなど関節も痛くやばいです 候
敬具
はんなりと『病人で候叱り』
さて、ここで一旦筆を置く。
筆といっても英語で言うPenでは無し、パーソナルコンピュ--タなる便利電化なる利器ありがて何がしが何とやら。
いささか熱もちて筆のおぼつきことたゆまなし
たゆまとは何ぞ
「済まないが、熱があるので文面の乱れは簡便してほしい」
おっと、勘弁と簡便と誤訳してしまい恥を知る。
弁解しておく。日本人なり、漢字は使用可である。
脳が過熱気味で上手く機能していないのだ。
我が世界は縦メートル強、横十寸弱、その他天尺中なり。
強中弱は威力にあらず、あやふやな、まぁこれくらいという単位。
もちろん貴方は知っていると。
そうであろう、知っていなければならない。
説明が面倒だからだ。むろん、面倒なのは私だ。
慣れ親しみの匂う布団に巻かれ、世をはばかりひとりあぐねむ。
我はねむねむ……あぁ、ここに願わくば……もういいけど。
待て、あいや待たれよ。
そう、一人突っ込むわびしかろな、そうともわびしく寂しいとも。
鼻、鼻、口、鼻、鼻、口、鼻、鼻、おでこ
さて何だ。
考える時間を一行与えよう。
答えはティッシュの使用箇所だ。いかにも、賢明な諸侯らは気付いたであろう。
統計を取ると、鼻が七割を占める。
先だって何をしているのやら、諸君らも我が行為を覗き見た先達やらも怪訝に思われし頃であろう。
この病にありて我、時世の句を読まんと欲す。
尋ねる者無し、看取る者無し、独身彼女無し一人暮らし。
さりとて、あてもなくただ倒れるだけ。
せめて残すなら、何やら得体の知れぬティッシュよりも魂一拍の時世の句を。
我、人生に数え切れぬ悔いあり。
せめて最後は華と散ってみせようぞ。
あぁ、ただいたずらに散り増えるのは白くふやけた何か。
いたずらでも何でもなく、これ、片付けてないと印象が悪い。
地獄の淵から這い出る亡者のごとく、布団から手を伸ばしたまま我力尽きたなり。
翌日、見舞いに来た母上、妹殿が何も言わず片付けて介抱して帰った。
母上の用意した食事と薬品により体力回復、気力回復、長男としての体面は沈没した。
「色々と済まぬ!」
擦れた声で本心から述べる。
「あんたね、こんな落書きするぐらいなら、ちゃんと布団かぶって薬飲んどきなさい」
母上、ごもっともである。しかし落書き呼ばわりはいただけない。
「お兄ちゃん……早く大人になってね」
うむ、妹君よ、大人未満で申し訳ないな。何が言いたいのか、文章の裏の意味は読み取りたくなし。
という初夢を見たのだ。
暗闇で目を覚ます、夢だったのであろうか。
起きると熱は下がり、肉体は普段と変わらず。
ただ違うのは、気が付けば正月が過ぎ、家の中に何者かが居た痕跡があるのみ。
それから実家に帰るが、家族は異端無く接してくれた。
だが我は知っている、救って戴いた恩を。
さらに知っている
「お父さんいなくていいねー」「正月はここで過ごそうか」「お兄ちゃんじゃま」「押入れにでも入れておけば」
空耳ではなかった、現に目覚めれば愛しいお方からの恋文を握り締めた乙女のように、時世の句を右手に、足を丸めて小さく押入れに収納されておる我を発見。
「来年の正月も行っていい?」
妹君よ、母上に頼まれて尋ねたのだろうがそれは、再び病に冒されろと?
長男は辛く、父上はもっとわろす。
ああ、苦く締り無しわが人生。ゆえに愛しく生きろ 。 終わり
書いてみた、そして面白いのかどうなのか作者が一番分からないという。