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第一話 石油王、死ぬ

「おれ、死す」


記念すべき第一話目の主人公の第一声がこんななのは誠に申し訳ないのですが、石油王は死にました。

いえ、正確に言うならば、まだ死の一歩手前です。

辺りを見渡しながら石油王が呟きます。


「…もしや三途の川か?」


そう、ここは世にも有名な三途の川。石油王の目の前には大きな川がありました。なんとも静かに、重々しく流れていく川。ゆらゆら揺れる水面下には人間の頭蓋骨と思われる物体がいくつか見えますね。超怖い。魚はいないよう。石油王のいる場所から見えるのは川と自分のいる岸、向こう側の岸、負のオーラをまとった死人達(超やつれてる)、死人を運ぶと思われるボロ。他は霧がかかっていて何も見えません。が、これだけの三途の川の条件がそろっていてここを三途の川だと断定できない人間はこの世に存在しないでしょう。


「…三途の川?」


いた。

確信を持てていない石油王。まあ、三途の川にいる石油王はすでにあの世なのでセーフですね。


さて、では疑問にお答えします。

なぜ?

なぜ石油王はこんなところに?

死因は?


答えは簡単。

ほんの数分前、石油王は軽トラックにひかれたんです。

農家のおっさんが運転する軽トラに。しかもひき逃げ。農家のおっさんはまだ逃走中です。





10分前




10分前、石油王は外車を運転していました。お値段1千500万円の外車を。


「まったく。この外車の輝きと、この畑だらけのド田舎のギャップがたまらんな。

おれのリッチさが浮き彫りだ」


石油王邸から離れた田んぼや畑に囲まれた場所。そこは農地でした。

農家のみなさんが汗水たらしてせっせと作業を行っています。

その畑と畑の間にある舗装すらされていないでこぼこ道を石油王を乗せた車が走っています。

農地にきらびやかな外車。それはあまりにも不釣合い。

しかしそれが石油王にとっては心地よかったのです。

農作業は貧乏がやること。その作業場所を外車で突っ切るのは、彼が自分の財産の多さと自分の石油王としての存在を再確認するためには絶好の場所でした。要するに、彼は性格が悪かった。


「やべ、超きもちいい」


吐く台詞がいちいち癪に触ります。車はオープンカーですので風を肌で感じることができます。本日の天気はすこぶるよく、まさにドライブ日和。

しかし、満面の笑みで颯爽と農地を外車で走っていくそんな石油王に憎しみの目が。


農家のみなさんです。ご立腹です。農家の方からすれば、せっせと作業する脇をアホ石油王が走り去っていくのですから気分がいいわけがないのです。ちなみに石油王の知名度はチェホンマンくらい高いです。


「みんな見てる~。照れるやん?」


ここはさすが石油王。貧乏人からの視線はもれなく羨望のまなざしに勝手に変換されるようです。

どんなに憎しみをこめようとそれは石油王には届きません。


ですが、その憎しみを一人だけ実力行使で届かせたツワモノがいました。


それが、名もなき農家のおっさんです。

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