『 :2008/08/02 pm9:00〜9:30 松島 実家にて』
「ずばり、もうディープキスぐらいは経験済み!」(親父顔の歩)
「・・・!?」(顔を真っ赤にして、ぶんぶんと首を振り否定する雫)
「お姉ちゃん馬鹿じゃないの、いってもキスぐらいよ。で、どうなの雫?」(やっぱり親父顔の千佳)
「!?!?!?」(顔をさらに真っ赤にして、ぶんぶんと首を振り、再び否定する雫)
「いやいや雫ちゃん、おじさん分かってるんだよ?君みたいなおとなしそうな子に限って案外・・・って、痛いじゃない千佳!なにすんのよ!」
「お姉ちゃんやりすぎ。雫は純粋なんだから、イランことはいわんでよろしい」
どこからか出したハリセンでおもいっきり歩の頭を叩いた千佳。
彼女は現在パジャマ姿である。というより、彼女たちはパジャマ姿である。
彼女たちが今やっているのは、プチパジャマパーティー(飲み食いなし)と彼女たちが呼んでいるもの。
簡単に言うとダベリ。
彼女らは例年、雫が夏休みに帰郷している間は大体この時間に三人でプチパジャマパーティーをするのだ。
そして今日の話題は「恋バナ」なのである。
「年長者の頭をそんなもので叩くなんてあんたいい度胸してるじゃない。こちとら中学生よ?小4のガキンチョの分際で」
さっきまで布団に寝転び、仲良く雫をからかっていた姉妹はもういない。
パジャマ姿の歩がゆっくりと立ち上がり、なんかの拳法っぽいポーズをとる。
これを迎え撃つように立ち上がる千佳。その手には、「仲良きことは美しきことかな」と書かれたハリセンが握られている。
「ふん!そんなの関係ないわよ。実際ご近所さんに話きいたって、しっかりしてるって言われてるのは私のほうじゃない。そんなに年長者であることを前に出したいならもっとしっかりしたら?それにお姉ちゃん立っていいの?立つと年長者としての、女性としてのシンボル(胸)の優劣が強調されちゃんだよ?まあ、こうして並んでみると改めてわかるけど、私のほうがやっぱりお姉さんだね。しっかりしてるし、胸あるし」(別にどうでもいいことでしょうが、パジャマは案外旨を強調するアイテムなのです。)
その一声を聞いた歩の顔に自愛が満ち溢れる。
「訂正しなさい、千佳。今ならまだ間に合うから。「ごめんなさい、自分調子こいてました。これからはあらゆる面で秀でた歩お姉ちゃんに口答えせず、ただただ従って生きていきます」って言ってごらん?そうしたら許したあげるから・・・ね?」
この要求に素直に従う千佳。
「ごめんなさい、自分調子こいてました。これからはあらゆる面で秀でた歩お姉ちゃんに口答えせず、ただただ従って生きていきます。・・・はん!」
でも、一言多い。
「あれ?千佳?最後なんか一言余計なのついてたよね?「はん!」ていらないよね?まったく千佳はあわてんぼさんなんだから、しっかりしなきゃだめだよ。じゃあもう一回。はい、「ごめんなさ・・・」」
「うるさい!馬鹿姉!これでも食らえ!」
そういってハリセンを高速で歩の顔に向かってたたきつける千佳。しかし・・・
「ふん、口と胸で勝てても、やっぱり肉弾戦は私のほうが上だね、千佳?」
そのハリセンを間一髪でかわす歩。ちなみに彼女は合気道の段持ちである。
「うるさい!今日こそ私が勝つ。この布団がみっちり敷かれた場所じゃ、お姉ちゃんだってそうそう動けないでしょう!今日こそ私はすべてにおいてお姉ちゃんを超えるのよ!」
かわされたハリセンを構えなおす千佳。彼女も合気道をやっているのだが、なかなか上達せず、この分野においては姉の歩を超えられていない。
「そんなもの(武器*ハリセン)に頼ってる時点であんたはもうだめなのよ。さあかかってきなさい、千佳。一から教育してあげるから」
再び構えなおす歩。
これに対して千佳は、
「ふん、それはこっちのセリフだ馬鹿姉!」
と絶叫をあげて歩に飛び掛っていった。
・・・数分後
「千佳ちゃん・・・」
死に体をさらしている千佳を介抱する雫。
千佳は完璧に歩に手玉に取られ、散々転がされたあげくに無駄に胸をもまれまくって、すんすん泣いていた。
「悲しいわよね、雫ちゃん。姉妹で争うなんて。何でこんなことになってしまったのかしら・・・、こんなこと、私は望んでいなかったのに・・・」
勝者であるはずの歩がなぜかおとなしい。普段なら絶対にばか騒ぎしているはずなのに、なにやら勝手に落ち込んでいる様子。
おそらく、仕返しとばかりに千佳の胸をもんでいるうちに、自分の胸の無さを再認識させられたのだろう。
「歩お姉ちゃん・・・」
雫の呟きが夜の静けさに溶けていく・・・
こうして勝者なき戦いは幕を閉じた。
・・・今日も松島は平和である。